回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
15 / 286

2-6

しおりを挟む
 19時。

 京橋駅からすぐの場所にある銀杏ホテルには、有名なビュッフェレストランがある。大きな窓からは夜景が見渡せる。反対側には広い公園があり、イルミネーションが点灯されている。

 フロアの中央にはキッチンコーナーがあり、シェフがお肉を焼いている。ダイナミックだと思いながら料理を取った。ローストビーフ、牛フィレ肉のパイ包み焼き、ポテトサラダのミモザ風をトレーに乗せた。

 早瀬はすでにテーブルに戻っており、ワインが用意されていた。俺は19歳だから相手ができない。パクパクと食べていると、さっそくナンパ男の退散フレーズの話題になった。

「夏樹君は誰から教えてもらったんだ?」
「お母さんから教えてもらったそうだよ。……伊吹さんがお腹にいるときにナンパされて、真面目に答えたんだって。その話を聞いて、試してみろってさ。夏樹も試したことがあるんだ」
「なるほどなあ。女の子に見えないこともなかったからなあ」
「夏樹って大人っぽい顔立ちだもんね。大人に間違われることもあったんだって。中学高校の写真、あまり持ってないそうだよ。カメラ嫌いだったから。夏樹も見せたいのにって言ってくれたんだ」
「あったと思う……」

 早瀬がスマホを取り出した。探しているものに行き当たったようで、顔を上げた。早瀬の学生時代も見せてと頼むと、この後で見せると誤魔化された。

「圭一さんに頼まれて編集したことがある。夏樹君が中学3年生と高校2年のときだよ。アルバムから写したやつだ」
「へええ?どんな子かな?……マジで!?この子が夏樹?女の子じゃん!今と違うよ ー」

 写真の中野夏樹はアンのような小型犬を抱いている。真っ白い肌に、今よりも暗い色の髪の毛をしている。大きな目、赤い唇、頬の枠柔らかなライン。まるで人形のようだ。表情がないからだ。犬を抱いている指先は赤くなっていて、傷があるようだ。今とは違う夏樹だと思えるのに、なぜか重なる部分があると思った。

「たしかに……。これだとカメラ嫌いだって理解できるよ。無表情だもん……」
「そうだね。今は生き生きとしている。圭一さんも、小さい頃は女の子みたいだった」
「黒崎さんが?すごいイケメンだけど。さあ、裕理さんの番だよー」
「いいよ。ここにある」
「わああ、どんな子かな?」

 理屈っぽい子だろうと予想した。画面に出ているのは、どこかのイベント会場のようだ。バックに仮装した人がいるから、ハロウィンだろうか?

「これって、黒崎製菓のハロウィンイベント?この間みたいな」
「そうだよ。親父が深川副社長と友達で、遊びに連れて行ってもらった。こっちが俺。分かるか?」
「えーっと……」

 赤い着物を着て、悪魔風のメイクをした女性がいる。その隣には男の子が立っている。にっこり笑っている。すぐに早瀬だと分かった。持っているのはラッピングされた袋だ。頬が紅潮して、可愛いと思った。

「一緒に写っている人も知り合い?綺麗な人だね。だから顔が赤くなっているのかな?」
「……バレたか。この人は男性だ。圭一さんのお兄さんで、拓海さんだ。17年前に亡くなった。……笑わない子だったけど、この時が楽しくて、よく笑うようになった。親父からそう聞いた」
「そうなんだ……」
「拓海さんの葬儀と大学で再会した。お互いに覚えていたよ。イベント会場で一緒にまわって遊んだから。圭一さんも写っているものがある」
「見たいーー」

 画面に表示されたのは、拓海さん、黒崎さん、早瀬、女の子、男の子が写っているものだ。女の子は黒崎さんの幼なじみで、親友の沙耶さんと怜さんだという。早瀬が9歳、黒崎さんが13歳のときだ。

「イケメンだなあ。裕理さんは可愛い子だよ」
「……カッコいいと言われたかった」
「拗ねないでよ。今はめっちゃカッコいいよ!あああ……」

 どうしよう?本心を口にしてしまった。結婚したパートナーだから、何も恥ずかしくないのに。どうも照れくさいから、ローストビーフを食べて誤魔化した。これなら俯いてもおかしくない。

 早瀬が茶化すのを待っているのに、何も言わない。イジメられているんだと思い、腹が立った。

「裕理さん。笑うなら……え?」
「……」

 どうしよう?早瀬が照れているようだ。キッチンの方を向いて、ワインを飲んでいる。ますますどうしていいか分からず、バクバクと料理を口に運んだ。美味しいのは分かっているのに、肝心の味が分からない。そして、そろそろデザートへ移るタイミングで、お互いに顔を見合わせた。やっと落ち着いた。

「ゆうとー、可愛いね……」
「裕理さん、かっこわるい……」

 軽口を叩き合った後、微笑み合った。どこに入ったのか分からない状態で食べ終わり、レストランを後にした。プレゼントを渡せないままだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

処理中です...