回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 午前7時。

 早瀬が運転する車に乗って、コンテスト会場へ向かっているところだ。去年8月に出場したバンドコンテストと同じ会場だ。野外ステージと屋内のコンサートがあるが、今回は屋内ステージで行われる。他にもイベントが開かれているようだ。

 来月には、黒崎製菓主催のバレンタインイベントがある。夏樹から誘われている。その時に、黒崎さんの妹さんを紹介してもらえる。お母さんと弟との3人で引っ越して来たばかりだ。女の子がいた方がいいと思い、大学の友達を誘おうとしたが、夏樹から遠慮された。どうやら妹さんは女の子同士の付き合いが苦手なようで、俺や藤沢が気が合うだろうと言っていた。しかし、絵理奈ちゃんなら気が合うと思うから、紹介しようと思っている。妹さんは男を怖がっている面もあるそうだ。父親が母親に暴力を振るっていたからだと思う。弟は受験真っ最中だから、イベントには来ないそうだ。

 するとその時だ。佐久弥から声を掛けられた。後部座席に座っている。

「おーい、メンバーの記事が出たぞー。……人気ロックバンド、ディアドロップのギタリスト『TAKA』こと、橋田孝臣容疑者が大麻所持の疑いで逮捕されましたって。あーあ」
「さくやー、ヘコむなよ。俺達がいるだろ。また遊びに来ればいいからさ」
「へえ?友達になってくれたのか。さすが、お兄ちゃんになると違うんだな?」
「そうだよ。妹に頼りにされたいから、成長しないといけないもん」
「……“きいいいい”。これをやめろ。ぎゃははー」
「もうー!」
「ゆうとくーん。ドレッシングなしで、野菜が食べれるようにならないとね。藍生ちゃんに笑われるぞ?」
「裕理さんまでー。もうーっ」

 プルルルル、プルルルル。
 
「ゆうとー。電話だぞー」
「あああ……。裕理さん。音楽のボリュームを下げてよ……」
「はーーい」

 車の中では佐久弥の楽曲を流していた。ボリュームを下げてもらってスマホを見てみると、電話の相手は夏樹からだった。胸が痛くなった。彼が黒崎さんから話を聞く前に、この電話で打ち明けようと思った。俺はオファーを受けることを。深呼吸をして電話に出た。

「……もしもし。ゆうとー。おはよう。今朝はスッキリ起きれた?」
「おはよう。大丈夫だったよ!あの……、どうしたのー?」
「黒崎さんから聞いたよ。俺にIKUからオファーがきているって。悠人が参加を迷っているのは、俺のことがあるから?」
「えーーと……」

 どうしよう?間に合わなかった。しかも、俺は言葉に詰まっている。これでは誠実とはいえない。しっかりしよう。

「夏樹が黒崎さんのことを説得したから、都内に来たんだよ。裕理さんと出会えたのは、2人のおかげなんだ。……夏樹は黒崎製菓グループで勉強するじゃん。そっちを選ばないといけない状況になるかもって……」
「まだそういう心配はしていないよ。ならないかも知れないし。まだ来てもいない未来を、不必要に怖がることはないよ。……オファーをされたら受ける。だから悠人もね!」
「夏樹……、うぇっ、うぇっ」
「泣くなよ~。俺の方が気が回らなくてさ。ごめんね」
「うんっ。そんな事はないよ……」
「ありがとう。こんなに考えてくれたんだね。もうすぐ会場に着くから。明日、ゆっくり話そうね」
「うんっ」

 これでスッキリできた。夏樹の声が優しくて心に染みた。感動に浸っていると、佐久弥から肩を叩かれた。夏樹と電話で話したいと言い出した。

「うん。……ちょっと待ってて。……さくやー。あとで紹介するってば!……ごめん、さっきのセリフがシビれたんだって。佐久弥が家にマスコミが来るからって、うちに逃げてきたんだよー。カレシの家に逃げろって。……あのさ、一緒に会場へ向かっているんだ」
「家に泊まったの?そっか、マスコミがね。……うんうん」
「気にしないでよ。さすがに裕理さんと佐久弥は連絡を取り合っていないよ。俺か佐久弥のカレシ経由だから……、バカーー!」
 
 佐久弥から頬を突かれた。俺が涙ぐんでいるからだ。バタバタやっていると、夏樹から気を遣われてしまった。
 
「うんうん、あとで会おうね」
「あとでね。裕理さんまで。何だよー、いい子マンは引っ込んでてよー」

 早瀬が俺のことをイジり始めた。佐久弥と息が合っている。さすがは幼なじみ同士と言える。感心しながら電話を終えた。ばいばい。会場でねと。すると、向こうが電話を切っていないから、会話が丸聞こえで聞こえてきた。

「……黒崎さーん。向こうは修羅場だよーー」
「……そうか」
「……あんたは修羅場のプロだろうけど、悠人はね、純粋でさ。あんたみたいな」
「……電話を切れ。聞こえている」

 電話が切れた後、向こうの状況を想像して呆然とした。夏樹に誤解されているからだ。修羅場ではない。パートナーの元恋人と手をつないで歩くなど、ズッコケそうになる。しかし現実だ。早瀬の元恋人が泊まりに来たと聞けば、心中穏やかでは無いと思われるだろう。しかし、俺達はそういう心配が無い。すっかり打ち解けている。佐久弥に会えば、誤解が解けると思った。すると、早瀬が言った。

「悠人君。夏樹君は俺と佐久弥が友達づきあいを始めた話を知っているぞ?俺の方から話しておいた。これから先の付き合いを考えると、隠さない方がいい。佐久弥も了承済だ」
「そうだったんだね……」
「ゆうとー。大人は割り切れるものだ。お互いに幸せになっている。お前には嫌な目に遭わせてしまったけど……」
「いいよー、そんなに言わないでよー。もうーー」

 早瀬から頭を撫でてもらえた。佐久弥こそ沈んだ気持ちになっているのに、わざわざ悲しい思い出を掘り起こすことはない。何か音楽をかけない?と佐久弥に話しかけると、俺の分のロールパンを食べていた。元気そうだから、ズッコケそうになった。
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