回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 ガーー。ザワザワ……。

 ステージ演奏の出番が近づいてきた。そろそろ機材の様子を見に行こうと、桜木さんから声をかけられた。出番を控えた使用楽器をステージサイドに置く決まりだ。俺達は一時間前に持って来た。

 どうしてここに来ているかというと、嫌がらせ行為の対処のためだ。機材担当スタッフが見張っていても、この忙しい最中では、ずっと見ていられない。

 ギターに差してあるピックを盗る程度でも、ナーバスになっている人からすれば調子が崩れてしまう。もちろん平気な人もいるが、プレッシャーを掛けられたら、ラッキーというものだ。

 こんな大きな大会に出場を果たした人達が集まっている。それに、音楽好きが集まっている場だ。それでも綺麗ごとでは済まされない。自分より実力が上だと思う相手の邪魔をしたいと思う人がいる。

 本当は夏樹のことは連れて来たくなかった。この子は純粋なところがある。腹を立てて感情が揺らいでしまう心配がある。桜木さんは反対の意見だ。夏樹のことを3歳の頃から知っている。ストレートに現実を見せるべきだと言った。

 夏樹は身体が弱くて、心臓のことでも通院している。だから先入観があるのだろうか?無理をさせるといけない気がする。危なっかしいとさえ思っている。自分の勘は当たることが多い。一気にはじける、そんな気がしている。この件は当たってほしくない。

「IRON ANGELです」
「どうぞ」

 機材担当スタッフにバンド名を伝えると、簡単に通してもらった。桜木さんが夏樹に説明している様子を見守った。ここは任せておくべきだ。順序を追って説明している。

「……バンド名を言えば、誰でも近づけるんだよ」
「……ピックなら、予備をポケットに入れてるだろ?」
「些細なことでも、動揺させる目的があるからだよ。こんな緊張感がある場所では、ほんの少しのことでもナーバスになる奴がいる」
「そんな……。相手をそういう目に遭わせても、自分が上手くなるわけじゃないのに。そっか、失敗してほしいのか」
「そういうこと。本当は夏樹君には教えたくなかった。割り切れないし、納得がいかないだろう?でもね、これからはステージに立つことが増える。ここで言おうと決めたんだ。……さあ、俺たちのバンドはどうかな?……やられた」
「ええーー?ああ、無くなっていますね……」

 ピックが無くなっている。被害はこれだけだろうか?ベースとギター本体には問題がない。俺たちが話していると、ゼロスペースのメンバーがやって来た。俺たちの方を見て状況を理解している。

「何かされていましたー?俺達も見に来たんだけど」
「うちはピックだけ。相変わらずだね」
「そっか……、えええ?」

 大和からうめき声が上がった。エフェクターを壊されていたからだ。音を出す装置のアンプは、この会場の共通の分しか使用できない。エフェクターを使えば音を加工できるから、オリジナルの音が出せる。

「マジか……」
「エフェクターを壊されているね。ベース本体はどう?」
「弦を傷つけられた。弾いたら切れるレベルだね……」
「スペアのベースはあるよ。このエフェクターを使いたいのに……」

 俺のエフェクターを使えばいい。音の感じからすると、同じ系統を使っているだろう。さっそく聞いてみた。

「何を使っているの?ブースター?オーバードライブ?」
「オーバードライブ系……」
「同じだよ。俺の分を使えよ!」
「ええー?」
「他の人に、同じのものを持っているか聞くわけ?時間の無駄だよ。俺達の後が出番だろ?ちょうどいいよ。このエフェクターだよーー」

 こういう時はお互い様だ。嫌がらせ行為はなくならない。ちゃんとした者同士で支え合いたい。ゼロスペースのメンバー、とくに大和は同じ考えだと思う。

「同じやつだよ!」
「よかったじゃん!もう悩むなよーー」
「マジでいいの?ライバルだよ?」
「いいよ。ここで辞退とか、変な演奏をされたくないから」
「ありがとうーー!」
「わわわっ。げえええーーっ」

 ガタン、ガザ、ガタガタ……ゴン!

 大和から抱きつかれたのはいいが、ヨロけて転びそうだ。一般的な男なら支えられても、俺の力は弱すぎる。夏樹からも支えられたのに、3人一緒に転んでしまった。思い切り痛かったのに、みんなで大笑いをした。
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