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14-1 新しい環境への分岐点
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7月1日、水曜日。午前5時半。
バレンタインイベントから数ヶ月が経ち、季節は夏真っ盛りを迎えた。たった半年前は想像もしなかった現実の中で過ごしている。佐久弥のバンドプロジェクトのメンバーに正式決定されて、10月30日のデビューに向けて、急ピッチで準備が進められている。
夏樹がボーカルだ。俺は佐久弥とのツインギターで参加する。ベテルギウスのカバーアルバムも、二人でコンビを組んでの収録が決まった。今やっているのは、デビュー曲のプロモーションビデオ撮影とバンド練習だ。今月には撮影が終わる予定だ。
リビングのカレンダーを見ると、72候の欄には半夏生・はんげしょうずと書かれている。
「半夏が生え始める頃。……夏樹が飲んでる漢方薬の名前だよ」
「……冷え性改善か。最近の食べ方はどうだ?」
「前よりも食べるようになったよー。学食でも頑張っているよ」
「……活動が始まったからね。美味しいものを食べに行こうか」
佐久弥の方は忙しさが落ち着いたかと思えば、新しいバンドのプロジェクトの方に力を注いでいる。ディアドロップのTAKAの逮捕と脱退、バンド解散の影響があり、プロジェクトの進行が止まっていた。バンドの計画が無くなるわけではなく、元メンバーとして対応に追われていた理由だ。
予定されていたディアドロップのアルバム発売が中止になり、佐久弥とマネージャーの蓮司さん、IKUの飯野さん達が、全ての関係部署へお詫びに回っていた。プロジェクトの進行が始まった後は、騒動の間に励ましてくれた人達へ訪ねて行って、その時のお礼と、新しいバンドの件で挨拶回りもしていた。佐久弥本人も同行した。佐久弥は一切文句を言わない。高宮さんから聞いた話だ。こう言っていた。
(そういう人だ。君たち2人を育てるから気を遣っている。ああやって、人間関係を作っていくんだぞ?IKUの方でもサポートするからね)
佐久弥に恥をかかせない。夏樹と一番最初に交わした約束だ。自分達のマネジメントを管理する芸能事務所は、IKU系列である、IKUワイズを選んだ。マネージャーは2人ついてくれた。長谷部さんと加藤さんだ。大学生の俺達にはぴったりだという。お姉ちゃんという存在になった。
その2人からあいさつ回りの指導を受けた。スタジオにいる人全員に挨拶するのは基本だ。廊下を歩いている時に、向かいから出て来る人の気配がしたら、速攻で頭を下げる。それが新人の仕事だと教わった。
植本さんがスタジオへ寄ってくれた時は、彼の方から勧められるまでは、椅子に座ってはいけない。ドアを開けさせてはいけない。ある日のことを思い出した。植本さんにびっくりされて、そこまでするなと慌てられた。
(長谷部さん。やりすぎでしょう?いやー、俺が言う立場じゃないけど。夏樹君が痩せている。悠人君も体重が減ったぞ?この一か月間で……。もっと肩の力を……)
(ありがとうございます。この子たちには覚えてもらいます。その時だけの人気の中でやってもらいたくないので。長く続くアーティストとして育てる意向です。……でもねえ。肩の力が入りすぎなの)
(ほらーー。悠人君。かぼちゃパイを買って来た。食べておけ。夏樹君も座れ。平気だって?……倒れたら迷惑をかけるぞ。気合の入ったお礼は構わない……)
(佐久弥さんが育てている子ですから、周りがちやほやするに決まっています。スタジオ初日で、……さんから挨拶されたんですよ?そうはいかないから)
(ますますプレッシャーだな。気にするな。何かある前に相談してくれ。嫌なことを言うやつがいるからなー。チクって来い。本気だ)
二人が話している間、俺も夏樹も話に入らなかった。椅子に座ってお菓子を頂き、笑顔を絶やさないようにした。想像よりも目まぐるしい世界の中で、何度も胃が痛くなった。
バレンタインイベントから数ヶ月が経ち、季節は夏真っ盛りを迎えた。たった半年前は想像もしなかった現実の中で過ごしている。佐久弥のバンドプロジェクトのメンバーに正式決定されて、10月30日のデビューに向けて、急ピッチで準備が進められている。
夏樹がボーカルだ。俺は佐久弥とのツインギターで参加する。ベテルギウスのカバーアルバムも、二人でコンビを組んでの収録が決まった。今やっているのは、デビュー曲のプロモーションビデオ撮影とバンド練習だ。今月には撮影が終わる予定だ。
リビングのカレンダーを見ると、72候の欄には半夏生・はんげしょうずと書かれている。
「半夏が生え始める頃。……夏樹が飲んでる漢方薬の名前だよ」
「……冷え性改善か。最近の食べ方はどうだ?」
「前よりも食べるようになったよー。学食でも頑張っているよ」
「……活動が始まったからね。美味しいものを食べに行こうか」
佐久弥の方は忙しさが落ち着いたかと思えば、新しいバンドのプロジェクトの方に力を注いでいる。ディアドロップのTAKAの逮捕と脱退、バンド解散の影響があり、プロジェクトの進行が止まっていた。バンドの計画が無くなるわけではなく、元メンバーとして対応に追われていた理由だ。
予定されていたディアドロップのアルバム発売が中止になり、佐久弥とマネージャーの蓮司さん、IKUの飯野さん達が、全ての関係部署へお詫びに回っていた。プロジェクトの進行が始まった後は、騒動の間に励ましてくれた人達へ訪ねて行って、その時のお礼と、新しいバンドの件で挨拶回りもしていた。佐久弥本人も同行した。佐久弥は一切文句を言わない。高宮さんから聞いた話だ。こう言っていた。
(そういう人だ。君たち2人を育てるから気を遣っている。ああやって、人間関係を作っていくんだぞ?IKUの方でもサポートするからね)
佐久弥に恥をかかせない。夏樹と一番最初に交わした約束だ。自分達のマネジメントを管理する芸能事務所は、IKU系列である、IKUワイズを選んだ。マネージャーは2人ついてくれた。長谷部さんと加藤さんだ。大学生の俺達にはぴったりだという。お姉ちゃんという存在になった。
その2人からあいさつ回りの指導を受けた。スタジオにいる人全員に挨拶するのは基本だ。廊下を歩いている時に、向かいから出て来る人の気配がしたら、速攻で頭を下げる。それが新人の仕事だと教わった。
植本さんがスタジオへ寄ってくれた時は、彼の方から勧められるまでは、椅子に座ってはいけない。ドアを開けさせてはいけない。ある日のことを思い出した。植本さんにびっくりされて、そこまでするなと慌てられた。
(長谷部さん。やりすぎでしょう?いやー、俺が言う立場じゃないけど。夏樹君が痩せている。悠人君も体重が減ったぞ?この一か月間で……。もっと肩の力を……)
(ありがとうございます。この子たちには覚えてもらいます。その時だけの人気の中でやってもらいたくないので。長く続くアーティストとして育てる意向です。……でもねえ。肩の力が入りすぎなの)
(ほらーー。悠人君。かぼちゃパイを買って来た。食べておけ。夏樹君も座れ。平気だって?……倒れたら迷惑をかけるぞ。気合の入ったお礼は構わない……)
(佐久弥さんが育てている子ですから、周りがちやほやするに決まっています。スタジオ初日で、……さんから挨拶されたんですよ?そうはいかないから)
(ますますプレッシャーだな。気にするな。何かある前に相談してくれ。嫌なことを言うやつがいるからなー。チクって来い。本気だ)
二人が話している間、俺も夏樹も話に入らなかった。椅子に座ってお菓子を頂き、笑顔を絶やさないようにした。想像よりも目まぐるしい世界の中で、何度も胃が痛くなった。
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