回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 14時半。

 3時限目の授業が終わり、早瀬が迎えが来る正門へ向かっている。夏樹と森本達とで定期試験の話をしていると、途中で田崎が合流した。さっそく奥村の話を聞いた。森本が剣道部の部室に行こうとしたが、国分先輩から止められて、帰らされてしまった。

「剣道部の国府先輩が、伊吹さんから連絡を受けたんだよ。同じ経済学部の4年だから。部室に連れて行ったあと、久田に手出しをしないようにって、国府先輩達が奥村を説得した。本人は約束したよ。何もないとは思う。伊吹さんが来るから……」
「うちのお兄ちゃんと繋がりがあるんだね。もう何年も前に中退したのに」
「月に2回は、OBとして教えに来てくれているよ。大会の成績がいい人だし、何よりも教え方が上手い。俺たちにはいい先輩だよ。悪い面は思い当たらない。正義感が強いから、学内には煙たがっている奴がいるかもしれないね。変な奴がいるだろ?」
「ふむふむ……」

 文武両道、かつ弟思いの兄貴だ。後輩からも慕われているのか。煙たがられるほどの正義感はあるのは、熱い男の証だ。こんなところに理想の男性像がいたのか。伊吹さんに連絡を取った後、話を聞かせてもらいたい。

 いかにもデキる男だろう。無駄のない会話のなかで、何をすればいいのか即判断した。すぐに剣道部員が訪れて、奥村へ事情を聴いた。いきなり連れて行こうとはしていない。拒んだからああなった。森本こそ伊吹さんと親しいだろう。後で話を聞くことにした。そして、田崎が言った。

「伊吹さんは夏樹のことを心配している。入学当初からだ。森本には感謝しかない。久田には足を向けて寝られないって。今日の久田の話を聞いて、藁にもすがる思いで連絡してきたそうだ。国分先輩が伊吹さんから頼られたことに感激して、今回の心配もして……。森本の友達のことだからな」
「へえ~。後輩の友達だもんね。可愛がっている後輩だもんね~」
「ふむふむ……。田崎。話題を変えてもいい?今日は感激して胸がいっぱいで……」

 森本が落ち着かない様子になった。夏樹は気づいていないようだ。国府先輩のことを。田崎は知っているのか。せっかくだから、進路選択の話題を出そう。

 あれこれと迷った結果、理学部の惑星環境学科にエントリーすることに決めた。夏樹と同じだ。彼も法学と理学を迷い、興味のある方を選んだ。池の地質調査、恐竜の歯の生え代わりをテーマに扱った研究グループ。自分にとっても興味深い。9月半ばに全員の学部が確定する。

 森本は理学部の情報物理、山崎と真羽も同じだ。佐久弥が卒業した物理学科は狭き門だ。成績では到達レベルでも、定員が決まっている。森本たちが嬉しそうにしている。新しい学部に不安があったそうだ。彼らでも発想があるのか。自分だけかと思っていた。

「ゆうとー。どこを選ぶの?なかなか教えてくれないからさ」
「今朝決めたよ。夏樹の影響じゃないけど。よく考えた結果、理学部の惑星環境学科にしたよ」
「わあ~。嬉しいよ。一緒に入れるといいね」
「地味な学科だから入れるよー。神仙教授の授業が多いから、嫌がる子が多いし」
「そうだね。うんうん……」

 夏樹が笑顔で頷いた。この子ぐらいだろう。あの教授を気に入っていると言い出したのは。この件で森本が解説を始めた。気難しいタイプの人に好かれることと、夏樹自身が同じタイプだと言い切った。その話題で沸き立ち、もっと話したくなった。

「4人で昼ご飯を食べようよー。追憶との遭遇。来週はどう?」
「いいねー、水曜か木曜がいい」

 今日はいい日だ。奥村のことでは嫌な思いをしたが、守られている心強さとつながりを実感できた。夏樹が顔を赤くして嬉しそうにしている。周りのこと繋がりが作れたからだ。俺の方も嬉しくて顔が赤くなりそうだ。

 正門に到着すると、早瀬が待っていた。おかえり!ただいま!と、俺の方から声をかけた。早瀬が微笑んで手招きしてきた。笑っているから良かったと言いながら。

 今日は素直になれそうだ。早瀬のそばに着いた後、3人に手を振った。ばいばいまたね。明日連絡するよと。同じように手を振り返されて、今度は早瀬の手を握った。
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