回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 20時。

 イタリアンレストランで食事をした後、このまま帰るのは勿体ないから、どこかへ寄ろうという話になった。ショッピングモールへ行こうか?と持ち掛けられて、迷わずここへ来たいと答えた。住んでいるマンションの目の前の遊歩道だ。

 湾沿いの道を歩いていると、水や苔の匂いがしてきた。ライトアップされた大きな橋が見える。遊覧船からの灯りに反射して、水面がキラキラしている。

 久しぶりに2人で歩いている。大学が無い日は、IKUから送迎車が用意されている。夏樹と一緒にスタジオへ行き、練習を重ねている。挨拶まわりのおかげで、スタッフに顔を覚えてもらった。

 デビュー時から丁寧にしておくと、いろんな場面で融通を聞かせてもらい、変なうわさを立てる人間がでてきた時に庇ってもらえる。IKUでの打ち合わせの時に言い聞かされた。飯野さんという、統括マネージャーだ。

 これは音楽業界だけの話ではない。バイトによって理解したつもりでいたことを思い知った。全くできていなかった。行儀作法や話し方のことでは、父から指摘されて嫌だった。しかし、それが正しい内容だと分かってショックを受けた。おかげで教えることが少なくて済んだと、長谷部さんから褒められた。

 植本さんから可愛がられているのは、礼儀作法が身についているからだ。ギターの腕前が上達するように、真面目に取り組んでいることもあるだろうと思う。加藤さんがそう言っていた。

 この先のことが怖くなった。ほんの些細なことで、人間関係が崩れるのではないか?と。長谷部さんと植本さんからは笑われた。ナーバスになっているねと。

 佐久弥に連絡を取って、アホらしいエピソードを教えてもらえとアドバイスを受けた。そして、その場で植本さんが佐久弥に電話をかけた。

(おつかれー。さくやー、今いいか?緊急の用件だ)
(おおー、了解。……どうした?)
(弟たちがナーバスになった。お前のせいだ)
(ぎゃははは!どっちの弟だ?ありがとう。明後日そっちへ行く。アホらしい話をしてやってくれ。キミのデビュー前の……)
(あれは話さない。先輩の威厳が保てない。じゃあな)

 その後で胸のつっかえが消えた。夏樹も笑っていた。メリハリをつけるために、ボーカルレッスンと食事の献立作りを、交互に取り組んでいた。それによって倒れるのを防げる。一つのことに集中しない方法だ。

「俺とは反対のタイプだよねー。気がそぞろで興味が向くからさ」
「それも悠人君の長所だ。あれこれと気がついて対応できる。今は不器用でも、3年後には上手に生かせるようになる。なっているよ。楽しみだね?」
「ほお。ポジティブユーリですねー」
「ありがとう。君のネガティブのおかげだ。二人でも沈み込めない。星を観たいだろう?箱根に行こう。少しは気分転換をしたほうがいい。大学とスタジオの往復だけだからね」
「うん。今は集中したいよ。でも……疲れてきた」
「往復2時間半だ。今度の土曜日は撮影がなかっただろう。……いくぞ」
「ふむふむ、強引ユーリですねー」
「ここぞという時の姿だ。嫌いか?」
「えーっと……」

 どうしよう?けっこう好きだ。自分がウジウジしがちだから、強引な人がちょうどいい。今日はいいことがあったから素直になろう。

「うん!けっこう好きだよ……」
「悠人」
「え……」
「せっかくだから、もっと楽しもう」
「わわわっ」

 まずい展開だ。数か月にも木陰に連れ込まれた。そして、ゴニョゴニョやっている時に人の気配がして、黒崎さんと夏樹に遭遇した状況になった。

 あれは恥ずかしかった。あの二人はところかまわずいちゃついているとはいえ、俺の方は見せたくない。しかし、抱きかかえるようにして、どこかへ連れて行かれている。向かう先は。大きな木の裏だ。植え込みまである。かくれんぼをしたいのか?そう茶化してみた。
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