回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 翌朝。午前5時半。

 2人でテレビを観ているところだ。すると、看護師さんがやって来て、今から検温しますと声をかけられた。そこまでは良かった。退院当日の朝なのに、採血すると聞き、驚いた。俺は虫全般と注射が大の苦手だ。クールな男としては言い出せない。口にしたところで中止されるわけがない。大人しく受けるしかないわけだ。

「久田さん。もう少し腕を伸ばして頂けますかー?」
「はーーい……」

 去年、風邪を引いたときに注射をされた。肩だったから見えづらかった。今回はよく見えるように腕を伸ばしている。ペリペリ……。何かをビニール袋から出しているようだ。消毒液の匂いで身体が震えた。

「ゆうとくーん、じっとしていろ」
「うん……」
「久田さん、採血が苦手ですか?血が……」
「いいえええ?そ、そ、そんなことはーー」

 どうしよう?思わず声がうわずった。これでは苦手なことがバレバレだろう。笑われることはなくて、軽く深呼吸をしてくださいと言われた。吸っているのか吐いているのかも分からない。

「はい、ここをしばりますねーー」
「はーーい……」
「手を握り込んでください、ぎゅっと」
「はい。ぎゅーー」

 同じく両目も閉じた。チクッと痛みがあり、すぐになくなった。縛っていたものが外されたようだ。

「握った手を楽にしてくださいねー」
「はーーい……」

 握ったままで開くことができない。開くと針が動きそうだから。じっと待っていると、刺された場所がヒヤッとした。ペタッと何かが貼り付けられた。終わりましたよと声を掛けられて、やっと目を開いた。すでに道具が片づけられていた。

 看護師さんが出た後、退院の準備が始まった。8時過ぎに父が病室に来て、車への荷物運びを手伝ってくれた。昨日も病室へ来てくれた。クライアントの会社で打ち合わせ中であり、先に宮田さんが藍生を連れて駆けつけてくれた。

 記憶の中の父とは印象が違っていた。あれやこれやと質問されて心配された。今も同じだ。何か気になっていることはないのかと、繰り返し聞かれた。些細なことで構わないと早瀬からも言われたが、他には思い当たらない。

(お母さんから連絡が来ないな。お父さん達がいるから遠慮したのかな。落ち着いたら連絡を取ろうかな……)

 駐車場で父と別れた後、また病院の方角に向きを変えた。これから思い出の教会へ行くために。
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