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伊吹さんがテキパキと品物を広げて、別の紙ぶくろに仕分けした。さすがは若き経営者として、新聞記事でも紹介された人だ。デキる男というものだろう。
「はい、完了!」
「ありがとうございます。大学のことでは、ありがとうございました。お礼が遅くなってすみません」
「悠人君。そういう遠慮は無用だぞ」
「いえ、そんな。伊吹さんには……」
「大袈裟だぞー?俺は普通の男だ。俺のことは”お兄ちゃん”と呼んでくれ。”伊吹君”でもいい」
「はい!伊吹君って呼ばせてもらいます」
「お兄様だなんて、大袈裟だぞー?どうしてもって言うならー、呼んでもらってもいいけど?夏樹から聞いたんだ。俺のことを尊敬してくれているって。俺はお兄様って呼ばれたいけどなーー。でもなーー」
「……うひぇ?」
伊吹さんが謙遜している。何も言っていないのに。一人で会話が進んでいるようだ。早瀬は笑っているだけだ。このまま様子を見よう。
「お兄様かー。いい響きだ。俺には資格がないというか、レベルが高い」
「ふむふむ……」
「お兄様か、いい感じだ。呼ばれてみたい」
「ふむふむ……」
なんだか伊吹さんが変な男に見える。お兄様というフレーズが出てきた理由が知りたい。
「あのーー」
「何だい?」
「お兄様って、聞かないフレーズだと思うんです。どこで出てきたんでしょうねー?ふむふむ……」
「夏樹から聞いた。黒崎さんからもだ。俺のことをお兄様って呼びたいって……」
「うひぇ?」
「いやもう、恥ずかしがるなよー。ああそうか。早瀬さんのことがあるから気にしているのか!……早瀬さん、どうなんでしょうね?……ああ、平気?……だそうだぞ?」
「うひぇー?」
今度は手を握られた。左手だけだ。ということは冷静なのか。本気で口にしている証だ。
「夏樹はっ、君のことを親友だと言っている。俺にとっては弟のような存在だ」
「ありがとうございます」
「悠人君っ、奥村楓世の他にも問題があるなら言ってくれ。お兄様としては放置できない。夏樹から聞いてるんだぞ?遠慮がちだって。だめだだめだ。そうだろう?付きまとう男がいるよなー?わらび餅アイスを買った時、おかしな教授が後ろを歩いていたはずだ!危ない奴だ!」
どうしよう?思い込みが激しくて暑苦しいとは聞いていたが、真実だったのか。さすがは夏樹の兄といえる。恐れ入った。
「そういうケースがあれば相談します」
「隠さなくていいんだぞー?イジメられていないか?可愛いからなー」
「ふむふむ。大丈夫です」
「大学関係なら弱みを握っている相手が多い。国際史の教授はクセが悪いだろう?弱みを握っているから対応可能だ。……惑星環境学科を選択するんだって?理学部の神仙教授に習うことがあるはずだ。……シメておく」
「ふむふむ。量子学の授業で習っていますが、気難しいだけの人だと思います」
「いやー、理学部に入った後が肝心だ。コネだと遠慮しないでくれ。円滑に回すための、姑息な手段だ。その方法を取るのは俺だけだ。悠人君は知らないことだ。悪者は俺だけでいい」
「伊吹さん……」
「お兄様としては心配だ。教授、経済学部、理学部。ネタには欠かさない。お兄様が力になるぞ」
「あああ……」
どうしよう?感動してしまった。自分が悪者になる、そのフレーズにシビれた。伊吹さんが爽やかに笑っている。お兄様と呼べ。そう言っているのは、笑いを取るためだろう。伊吹さんのことが好きになった。
「はい、完了!」
「ありがとうございます。大学のことでは、ありがとうございました。お礼が遅くなってすみません」
「悠人君。そういう遠慮は無用だぞ」
「いえ、そんな。伊吹さんには……」
「大袈裟だぞー?俺は普通の男だ。俺のことは”お兄ちゃん”と呼んでくれ。”伊吹君”でもいい」
「はい!伊吹君って呼ばせてもらいます」
「お兄様だなんて、大袈裟だぞー?どうしてもって言うならー、呼んでもらってもいいけど?夏樹から聞いたんだ。俺のことを尊敬してくれているって。俺はお兄様って呼ばれたいけどなーー。でもなーー」
「……うひぇ?」
伊吹さんが謙遜している。何も言っていないのに。一人で会話が進んでいるようだ。早瀬は笑っているだけだ。このまま様子を見よう。
「お兄様かー。いい響きだ。俺には資格がないというか、レベルが高い」
「ふむふむ……」
「お兄様か、いい感じだ。呼ばれてみたい」
「ふむふむ……」
なんだか伊吹さんが変な男に見える。お兄様というフレーズが出てきた理由が知りたい。
「あのーー」
「何だい?」
「お兄様って、聞かないフレーズだと思うんです。どこで出てきたんでしょうねー?ふむふむ……」
「夏樹から聞いた。黒崎さんからもだ。俺のことをお兄様って呼びたいって……」
「うひぇ?」
「いやもう、恥ずかしがるなよー。ああそうか。早瀬さんのことがあるから気にしているのか!……早瀬さん、どうなんでしょうね?……ああ、平気?……だそうだぞ?」
「うひぇー?」
今度は手を握られた。左手だけだ。ということは冷静なのか。本気で口にしている証だ。
「夏樹はっ、君のことを親友だと言っている。俺にとっては弟のような存在だ」
「ありがとうございます」
「悠人君っ、奥村楓世の他にも問題があるなら言ってくれ。お兄様としては放置できない。夏樹から聞いてるんだぞ?遠慮がちだって。だめだだめだ。そうだろう?付きまとう男がいるよなー?わらび餅アイスを買った時、おかしな教授が後ろを歩いていたはずだ!危ない奴だ!」
どうしよう?思い込みが激しくて暑苦しいとは聞いていたが、真実だったのか。さすがは夏樹の兄といえる。恐れ入った。
「そういうケースがあれば相談します」
「隠さなくていいんだぞー?イジメられていないか?可愛いからなー」
「ふむふむ。大丈夫です」
「大学関係なら弱みを握っている相手が多い。国際史の教授はクセが悪いだろう?弱みを握っているから対応可能だ。……惑星環境学科を選択するんだって?理学部の神仙教授に習うことがあるはずだ。……シメておく」
「ふむふむ。量子学の授業で習っていますが、気難しいだけの人だと思います」
「いやー、理学部に入った後が肝心だ。コネだと遠慮しないでくれ。円滑に回すための、姑息な手段だ。その方法を取るのは俺だけだ。悠人君は知らないことだ。悪者は俺だけでいい」
「伊吹さん……」
「お兄様としては心配だ。教授、経済学部、理学部。ネタには欠かさない。お兄様が力になるぞ」
「あああ……」
どうしよう?感動してしまった。自分が悪者になる、そのフレーズにシビれた。伊吹さんが爽やかに笑っている。お兄様と呼べ。そう言っているのは、笑いを取るためだろう。伊吹さんのことが好きになった。
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