回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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23-1 レンジャーショー(ショッピングモール編)

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 8月13日、火曜日。午前7時。

 カレンダーを見ると、72候の欄には、蒙霧升降・ふかききりまとうと書かれている。よく見ると来週の分だ。

「朝や夕の空気の涼しさに、立ちこめる霧が発生する頃。……裕理さんからケムに巻かれているよー」
「……レンジャーショーでも煙に巻かれるだろう。ドライアイスの」
「月夜のレンジャーショー、午前中が人気かな」
「……どの時間も多いだろう。大人と子供、どっちで選ばれるかな?」
「トリャーー!」

 コポコポ……。

 マグカップに珈琲を注ぎ入れた。朝からアイス珈琲は控えている。口やかましいミュージシャンからの教えだ。男だから冷えは関係ない?いや違う。肩こりやむくみによって、演奏のスムーズさに影響するそうだ。もっともらしいから従っている。早瀬も付き合ってくれている。

 今週は盆休みだ。黒崎製菓もそれに習って休みに入った。2人でゆっくり過ごすと決めた。それが何を意味するのか?回数が減っていたゴニョゴニョを行うということだ。早瀬からそう言われた。

 俺はいつものペースでいいが、早瀬はそうではない。相手をすることで、エロ発言がおさまるならいいかと思った。そう思って承諾した結果、さらに発言が増してしまった。

 朝ごはんを作る前に、珈琲を飲むのが日課だ。寝起きが悪いからだ。これで十分、目覚めることが出来る。しかし、早瀬からもっといいことがあるぞ。そう勧められた結果、抱かれてしまった。

「ゆうとくーん。珈琲よりも効果的な方法があるだろう」
「朝っぱらから抱かれたくない。前の晩もしたのに」
「キミの寝起きが悪いから協力している。いいだろう?」
「トリャーー!ドライアイスの煙に巻かれろー」
「いたたた……」

 気を取り直して、朝ごはん作りをスタートした。

 カタ……。

 冷蔵庫から出汁ポットを取り出して、鍋に注ぎ入れた。そして、前の晩に戻しておいたワカメと、刻んでおいたネギを放り込んだ。これが定番の具材だ。さらに味噌をボールで溶いた後、卵焼きづくりを開始した。

「焼き加減はいい感じだよ。焦げていないし火も通っているし。パリパリでもない」
「すごいじゃないかー」
「へへへ。シラスを入れてみたんだ。昨日の残りの」
「材料を無駄にしていない。ますます偉いぞー」
「へへへ。裕理さんは何をするの?」
「せっかくだから簡単なものを作る。茹でたジャガイモを残してあるだろう?これにドレッシングをかけて食べる。レタスサラダにプラスだ」
「ジャガイモサラダだね。まだ食べたことないよ」
「ゆうとー、そっちに通してくれ」
「うん。……左?……右?」
「左、右、左だ」
「おーー」

 菜箸をシンクに置いて、早瀬の背後から抱きついた。彼の動きに合わせて移動するのも日課になっている。

「悠人君。いくぞーー」
「おーー」
「左、右、左」
「ひだり、みぎ、ひだりー」
「ポテト、ポテト、ポテト」
「サラダ、サラダ、サラダー」
「抱いて、抱いて、抱いて」
「ダイテ、ダイテ、ダイテー」
「……いいよ?」
「トリャーーー!」

 油断ならない人へキックをした。今日のレンジャーショー参加の、予行練習ということにした。

 フライパンの卵が焦げ始めている。慌てて前に立つと、端っこがパリパリになっていた。黄色が茶色に変化して、真ん中あたりも固そうだ。やってしまった。

「ゆうとー。たまには失敗してくれ。可愛いから」
「ふむふむ。包容力発言ですね」
「キミのことが好きだからだ」
「もう……。そんなこと言っても」
「モウモウ言うとウシになるぞー?」
「ヤギになってやる!メエェー」
「モウモウ……」
「メエメエ……」
「ゆうと、可愛い」
「裕理さん。ちょっとカッコいい」
「え……?」
「あああ……」

 どうしよう?本音を口にしてしまった。しかも早瀬まで照れくさそうに笑っている。妙な無言時間が過ぎた後、さらに無言で支度を進めた。
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