回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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24-4(早瀬視点)

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 22時。

 今、書斎にいる。悠人には早めにベッドに入らせた。疲れが出ているだろう。そして、今から黒崎と電話で話す内容は、とても聞かせられるものではない。森井さんの真意が分からないからだ。

 悠人がIKUから所属を打診された後、久田さんに報告して意見を聞いた。その結果、反対すると意見を返された。久田さんはこう言った。そもそも口を出す権利がないと承知の上で、親としてミュージシャンの道に挑戦することを止めるのだと。悠人はそれを受け止めて、どうしてもやるという強い意思表示をした。それを受けて、久田さんが応援すると言い、バックアップしてくれている。

 悠人は森井さんの方には相談しなかった。忙しい人だから、相手にされないだろうと踏んでのことだ。ちょうどその頃になり、なぜか森井さん方から連絡が途絶えた。悠人から所属するという結果の連絡を入れた後、森井さんの方からIKUに連絡をよこしてきて、ミユー企画と悠人とのタイアップを提案してきた。まだデビューが決まっていなかった時期だ。

 遠藤さんから俺に連絡が入り、悠人には伏せておくことで話し合った。まだ受け止められるはずもない。森井さんの言い分として、こういうことだ。息子のことを応援している。黒崎製菓がスポンサー企業になるのは間違いないだろうから、自分の会社とのタイアップが期待できるという、一石二鳥を狙ったと言い切った。ビジネスの世界では当然のことかも知れない。しかし、その進め方には嫌な感情を持ってしまった。息子の将来がかかっているケースでは使ってほしくない方法だった。

(俺の母親でもやらないことだ。止める立場になるだろう。それに、莉奈の縁談を強引に進めなかったそうだ……)

 都合のいい記憶のすり替えをしているのだろうか。母は莉奈の将来のことを思って、この人なら預けられるという相手を見つけてきた。人柄のいい青年だそうだ。学生時代のつながりを使って人柄を聞いてみても、同じような話しか耳にしなかった。社会人としての常識がある、ごく普通の男だった。莉奈の真面目な部分の性格を聞いて、会ってみるぐらいはしたいと言われた。向こうの両親も穏やかな人で、早瀬家からの押しつけのような縁談話に困りながらも、義理を果たそうとした。一度会わせてみるという答えによって。

(何が本当なのか分からない……)

 これから電話をかける相手も、家族の件で悩んでいる人だ。こういうことで相談しあえるというのは、心強いのかそうでないのか。

「……圭一さん。遅くなった」
「……構わない。夏樹のことは寝かせてある。どうだった?悠人の君は」
「森井さんから連絡がきて喜んでいた。会社の方が問題が起きて、できることなら、力になりたいとまで言い出した」
「……久田さんに伏せておけだと?こちらからアクションを起こさせるためだ。悠人君の話を聞いて、こうしてお前が俺に相談している。千尋製菓のバックも期待できる」
「悠人には誠実に説明していた。つながりを持ちたいなんて理由は考えたくなかったけど。……そうだね。親父は優しいから、個人的に力になろうとする。気づかなかったのかって?さすがに発想に至らないよ」
「裕理。お前は優しい男になった。今は悠人君には綺麗なものを見せてやりたい。そうだろう?」
「そうだよ。ミユー企画は夢を売っている会社なのに、業界では評判が悪い。……役員が怪しいぞ」
「久田さんに伝えてくれ。今回のことで逮捕者が出るだろう。動いている。森井さんが付き合っている相手だ」
「使い込みだけか?どこに持って行く……、まさか麻薬か?」
「親父が知っていた。……遠慮するな。悠人君のことは大事な子だと言っていた。お前のこともだ」
「圭一さんに聞きたい。俺の実の父親は社長じゃないだろう?気になっている」
「……それはないだろう」
「そうだね。俺の父親は海外の人に決まっている。俺の目の色がそうだ。変なことを言ったね。おやすみ」
「おやすみ」

 電話を切った後、椅子の背に深くもたれかかった。悠人には遊園地のような世界を眺めさせたい。荒波の現実へのドアを開いた分だけ、心を休める世界を作ってやりたい。まるで回転木馬のようだ。おたがいに見ている視点が違うが、可愛らしい光景であってほしいと思うのは共通している。

 パタン……。

 静かに書斎の扉をしめて、悠人が寝息を立てている寝室のドアを開いた。こうして1日が過ぎていった。
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