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早瀬の動きが止まった。やめてくれるのか。早瀬から見つめられている。メガネの奥の瞳がグリーンに見えた。駐車場の灯りで、車の中がぼんやり明るい。反射しているからかな?普段からそう見えていたが、ここまではっきりと分かったのは初めてだ。
「裕理さん……」
「どうした?色気がなくなったじゃないか」
「グリーンになっているから……」
「その色のことじゃないぞ」
「あああ……。なんでも……」
なんでもない。それは言わない約束だ。しかし、今は口をつぐんでいたい。本当の両親のことは聞かされていないし、こっちから話題に出すのはいけないことだ。何かあったわけでもない。しかし、綺麗な色をしているから、もっとよく見たいと思った。
「悠人君?どうしたんだ?」
「あああ……」
「吐いてしまえ」
「うぇーーーっ」
どうしよう?こんなことをすると余計に怪しい。まるでいけないものを見ている扱いだ。それこそ失礼だし、コソコソするのは性に合わない。言葉を慎重に選ぶ必要はある。親しきなかにも礼儀ありだ。
そっと起き上がり、なるべく姿勢をよくした。何を言い出すのかと待っているようで、ずっと笑いっぱなしだ。かえって切り出しやすい。もしかしたら、分かっているかもしれない。グリーンという言葉で。
「裕理さんの瞳の色が、グリーンに見えるよ。綺麗な色だなって……」
「生まれつきのカラーだよ」
「ふむふむ。ナチュラルはいいですねー」
「おそらく父親譲りだ。今までは茶色のカラーコンタクトを入れていた。でも、少し前からキミの前では外していたぞ」
「ふむふむ。分かりませんでした。うひぇー?」
真剣に相づちを打った結果、早瀬から、今の両親は実の母の姉夫婦だと聞かされた。父親は海外の人だと思うということと、詳しいことはまだ聞いていないということも。
「知らなくてごめん。いつからカラコンを外しての?」
「最近だ。打ち上げパーティーの前の日に、実家へ寄っただろう?莉奈に会った日だ……」
「うん。何かあったの?」
「あの日は佐久弥にも会った。生まれ変わる決心をした友達に会った。その手伝いをする君のパートナーなのに、偽るのはおかしいことだ。次の日からやめた」
「気づかなかったよ。ごめんね……」
「キミのせいじゃないぞー?眼鏡を掛けているから分からなかったんだろう」
早瀬から話を聞かせてもらった。グリーンの瞳のことで、小さい頃に周りから注目されたそうだ。そんなに親しくもない相手から、両親のことを聞かれ続けた。そこで、今の両親が本当の親ではないと分かる。大学入学後、カラコンを使うようになったそうだ。
去年の秋、昇進前の多忙な時期に、急にメガネに変えた。目が疲れたのは本当だが、家の中ではカラコンをやめたからだ。俺の前では、ありのままで居たいからだと。そして今では完全にやめた。
「オフィスでは気にも止められない。いちいち聞かないのかもしれない。……メガネは印象が変わるし反射もする。……ベッドにいるときは、最初から外していたぞー?明るい場所で抱かれるのを嫌がるから、分からなかったはずだ」
「そういうことかー。つらくなかった?」
「いや全く。自分自身の弱さを痛感した」
「そんなこと言わないでよ。弱いなんて思わないよ。強いとか弱いとか、答えなんか見つけないでよ。どっちでもOKだよー?」
一緒に暮らしているのに。指輪の交換もしたのに。そう早瀬は口にした。そんなことはどうでもいい。なんでもOKだと言い返した。
上手く言えない分、行動して気持ちを伝えよう。両手で早瀬の顔を包み込むようにした。そっと覗き込むようにして見つめた。灯りに反射しているから、グリーンが黄色っぽくも見えた。角度を変えると暗くなり、虹彩だけが分かる。
「俺の目は黒っぽいよね?反射したら別の色味に見えるだろー?裕理さんも同じだよ。角度を変えれば違う色になるんだ。へへへ……。ここでも ”可視光線” を見つけたよ。虹みたいなプリズムかも?……裕理さんも”可視光線”だよ!」
「ありがとう……」
「うん……」
「大きな目だな。今日は沢山色んな物を見てきたか?」
「うん。さっきまで夢を見ていたよ。ステージが成功する正夢だったよー」
「目を閉じて見る夢もいいけど、これからは目を開けて夢を見よう。いいか?」
「裕理さん……」
「俺は目を閉じて見ていたぞ。今はもう見なくなった。もう過去のことだし、キミのことで頭がいっぱいだからだ」
「……っ」
どうしよう?嬉しいことだらけなのに、涙があふれてきた。これでは水分不足になりそうだ。何か飲んだら追加で溢れてくるだろう。それでもOKだ。ここに涙を拭いてくれる人がいる。
「悠人君。いいことで泣いたね」
「裕理さーん。まだまだこれからだよーー」
そう囁きあった後、ずっと早瀬のことを抱きしめていた。何も言わなくても伝わる言葉がある。優しいキスという方法で伝え合った。
「裕理さん……」
「どうした?色気がなくなったじゃないか」
「グリーンになっているから……」
「その色のことじゃないぞ」
「あああ……。なんでも……」
なんでもない。それは言わない約束だ。しかし、今は口をつぐんでいたい。本当の両親のことは聞かされていないし、こっちから話題に出すのはいけないことだ。何かあったわけでもない。しかし、綺麗な色をしているから、もっとよく見たいと思った。
「悠人君?どうしたんだ?」
「あああ……」
「吐いてしまえ」
「うぇーーーっ」
どうしよう?こんなことをすると余計に怪しい。まるでいけないものを見ている扱いだ。それこそ失礼だし、コソコソするのは性に合わない。言葉を慎重に選ぶ必要はある。親しきなかにも礼儀ありだ。
そっと起き上がり、なるべく姿勢をよくした。何を言い出すのかと待っているようで、ずっと笑いっぱなしだ。かえって切り出しやすい。もしかしたら、分かっているかもしれない。グリーンという言葉で。
「裕理さんの瞳の色が、グリーンに見えるよ。綺麗な色だなって……」
「生まれつきのカラーだよ」
「ふむふむ。ナチュラルはいいですねー」
「おそらく父親譲りだ。今までは茶色のカラーコンタクトを入れていた。でも、少し前からキミの前では外していたぞ」
「ふむふむ。分かりませんでした。うひぇー?」
真剣に相づちを打った結果、早瀬から、今の両親は実の母の姉夫婦だと聞かされた。父親は海外の人だと思うということと、詳しいことはまだ聞いていないということも。
「知らなくてごめん。いつからカラコンを外しての?」
「最近だ。打ち上げパーティーの前の日に、実家へ寄っただろう?莉奈に会った日だ……」
「うん。何かあったの?」
「あの日は佐久弥にも会った。生まれ変わる決心をした友達に会った。その手伝いをする君のパートナーなのに、偽るのはおかしいことだ。次の日からやめた」
「気づかなかったよ。ごめんね……」
「キミのせいじゃないぞー?眼鏡を掛けているから分からなかったんだろう」
早瀬から話を聞かせてもらった。グリーンの瞳のことで、小さい頃に周りから注目されたそうだ。そんなに親しくもない相手から、両親のことを聞かれ続けた。そこで、今の両親が本当の親ではないと分かる。大学入学後、カラコンを使うようになったそうだ。
去年の秋、昇進前の多忙な時期に、急にメガネに変えた。目が疲れたのは本当だが、家の中ではカラコンをやめたからだ。俺の前では、ありのままで居たいからだと。そして今では完全にやめた。
「オフィスでは気にも止められない。いちいち聞かないのかもしれない。……メガネは印象が変わるし反射もする。……ベッドにいるときは、最初から外していたぞー?明るい場所で抱かれるのを嫌がるから、分からなかったはずだ」
「そういうことかー。つらくなかった?」
「いや全く。自分自身の弱さを痛感した」
「そんなこと言わないでよ。弱いなんて思わないよ。強いとか弱いとか、答えなんか見つけないでよ。どっちでもOKだよー?」
一緒に暮らしているのに。指輪の交換もしたのに。そう早瀬は口にした。そんなことはどうでもいい。なんでもOKだと言い返した。
上手く言えない分、行動して気持ちを伝えよう。両手で早瀬の顔を包み込むようにした。そっと覗き込むようにして見つめた。灯りに反射しているから、グリーンが黄色っぽくも見えた。角度を変えると暗くなり、虹彩だけが分かる。
「俺の目は黒っぽいよね?反射したら別の色味に見えるだろー?裕理さんも同じだよ。角度を変えれば違う色になるんだ。へへへ……。ここでも ”可視光線” を見つけたよ。虹みたいなプリズムかも?……裕理さんも”可視光線”だよ!」
「ありがとう……」
「うん……」
「大きな目だな。今日は沢山色んな物を見てきたか?」
「うん。さっきまで夢を見ていたよ。ステージが成功する正夢だったよー」
「目を閉じて見る夢もいいけど、これからは目を開けて夢を見よう。いいか?」
「裕理さん……」
「俺は目を閉じて見ていたぞ。今はもう見なくなった。もう過去のことだし、キミのことで頭がいっぱいだからだ」
「……っ」
どうしよう?嬉しいことだらけなのに、涙があふれてきた。これでは水分不足になりそうだ。何か飲んだら追加で溢れてくるだろう。それでもOKだ。ここに涙を拭いてくれる人がいる。
「悠人君。いいことで泣いたね」
「裕理さーん。まだまだこれからだよーー」
そう囁きあった後、ずっと早瀬のことを抱きしめていた。何も言わなくても伝わる言葉がある。優しいキスという方法で伝え合った。
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