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王都の喧騒から遠く離れた、かつての「呪われた地」。
そこには今、王国のどの都市よりも活気にあふれ、黄金色に輝く温泉郷が広がっていた。
「……お嬢様。本日の宿泊客数、および物販の売上報告です。予測値を一二%上回り、過去最高益を更新いたしました」
数年前と変わらず、しかしさらに洗練された動きでアンナが書類を差し出す。
「素晴らしいわ。……でも、アンナ。利益に甘んじるのは、市場の後退を意味するのよ。次は『温泉熱を利用した冬限定の温室イチゴ狩り』の単価設定を見直しましょう」
エーミは、最高級の執務机(もちろん自社開発の木材製だ)でペンを走らせる。
その薬指には、大粒の魔石をあしらった指輪が鈍く光っていた。
そこへ、玄関先から賑やかな声が響いてくる。
一台の、実用性を重視した頑丈そうな馬車から降りてきたのは、かつての「バカ王子」……現在は王国の若き摂政(せっしょう)として知られるユリウスだった。
「エーミ! 今月の『王宮予算・監査報告書』を持ってきたぞ。……あと、例の『大浴場清掃マニュアル・最新版』も、実地で検証してきたからな!」
「あら、ユリウス様。わざわざ摂政自ら足を運ぶなんて、公務のコストパフォーマンスが悪すぎましてよ?」
エーミがテラスから声をかけると、ユリウスは清々しい笑顔で見上げた。
以前のような傲慢さは微塵もなく、その立ち振る舞いには、現場を知る者特有のたくましさが宿っている。
「いいんだ。君に直接ダメ出しをされないと、どうも王都の役人たちがまた無駄遣いを始めそうで怖くてね。……おっと、フローラからも伝言だ」
馬車から、今度は甘い香りを漂わせた女性が顔を出した。
エプロンを外し、職人らしい引き締まった表情をしたフローラだ。
「エーミ様! わたくしのプロデュースした『温泉泥クッキー・プレミアム』、王都で完売いたしましたわ! はい、これ、今月のロイヤリティの小切手ですわよ!」
「おほほほ! 助かりますわ、フローラ様。あなたの『計算高い可愛らしさ』が、ようやく正当なマーケティング資産になったようね」
かつて「泥棒猫」と罵り合った二人は、今や「最強のビジネスパートナー」として、王国のスイーツ市場を独占していた。
「……おい、ユリウス。あまり俺の妻を、公務という名の雑談で拘束するなと言っただろう」
低い、しかしどこか落ち着いた声と共に、ラインハルトが現れた。
彼はエーミの隣に立つと、当然のようにその腰を抱き寄せる。
「ラインハルト、相変わらず過保護だな。……安心しろ、エーミはもう誰の操り人形にもならない。……それに、君という『最強のガードマン』がいるんだろう?」
「……当たり前だ。彼女の時間は、一秒たりとも無駄にはさせん」
ラインハルトの眼差しは、数年前よりもさらに深く、情熱的な色を帯びていた。
彼はエーミが提示する「非合理な愛情」という難解な数式に、今も喜んで頭を悩ませているのだ。
「あら、ラインハルト。あなたのその独占欲、今月の『夫婦円満・幸福指数』の数値をさらに五%押し上げているわよ」
「……数値などどうでもいい。……今夜は、温泉の貸切時間を一時間延長してあるからな」
「まあ。それは素晴らしい『時間投資』ね。……アンナ、夜の会議は全てキャンセルして。……私、今夜は『プライベートな資産運用』に忙しいの」
エーミが茶目っ気たっぷりにウィンクすると、アンナは「心得ました」と深く一礼した。
辺境の温泉宿。
そこには、婚約破棄から始まった「逆転劇」の果てに、誰もが自分の『価値』を見出し、笑い合える楽園が完成していた。
かつての悪役令嬢は、今や王国の経済を支える「慈愛の債権者」として。
そして、一人の男を、どんな金貨よりも熱くさせる「生涯の伴侶」として。
「……さあ、皆様。お喋りはこれくらいにして、宴(うたげ)を始めましょう! 今日の夕食の原価率は……サービスで、少しだけ高めにしてありますわよ!」
「「「「最高ですわ(だ)!!」」」」
全員の声が重なり、辺境の夕暮れに溶けていく。
エーミの人生という名の帳簿は、これからも永遠に、右肩上がりの最高益を更新し続けるのだ。
そこには今、王国のどの都市よりも活気にあふれ、黄金色に輝く温泉郷が広がっていた。
「……お嬢様。本日の宿泊客数、および物販の売上報告です。予測値を一二%上回り、過去最高益を更新いたしました」
数年前と変わらず、しかしさらに洗練された動きでアンナが書類を差し出す。
「素晴らしいわ。……でも、アンナ。利益に甘んじるのは、市場の後退を意味するのよ。次は『温泉熱を利用した冬限定の温室イチゴ狩り』の単価設定を見直しましょう」
エーミは、最高級の執務机(もちろん自社開発の木材製だ)でペンを走らせる。
その薬指には、大粒の魔石をあしらった指輪が鈍く光っていた。
そこへ、玄関先から賑やかな声が響いてくる。
一台の、実用性を重視した頑丈そうな馬車から降りてきたのは、かつての「バカ王子」……現在は王国の若き摂政(せっしょう)として知られるユリウスだった。
「エーミ! 今月の『王宮予算・監査報告書』を持ってきたぞ。……あと、例の『大浴場清掃マニュアル・最新版』も、実地で検証してきたからな!」
「あら、ユリウス様。わざわざ摂政自ら足を運ぶなんて、公務のコストパフォーマンスが悪すぎましてよ?」
エーミがテラスから声をかけると、ユリウスは清々しい笑顔で見上げた。
以前のような傲慢さは微塵もなく、その立ち振る舞いには、現場を知る者特有のたくましさが宿っている。
「いいんだ。君に直接ダメ出しをされないと、どうも王都の役人たちがまた無駄遣いを始めそうで怖くてね。……おっと、フローラからも伝言だ」
馬車から、今度は甘い香りを漂わせた女性が顔を出した。
エプロンを外し、職人らしい引き締まった表情をしたフローラだ。
「エーミ様! わたくしのプロデュースした『温泉泥クッキー・プレミアム』、王都で完売いたしましたわ! はい、これ、今月のロイヤリティの小切手ですわよ!」
「おほほほ! 助かりますわ、フローラ様。あなたの『計算高い可愛らしさ』が、ようやく正当なマーケティング資産になったようね」
かつて「泥棒猫」と罵り合った二人は、今や「最強のビジネスパートナー」として、王国のスイーツ市場を独占していた。
「……おい、ユリウス。あまり俺の妻を、公務という名の雑談で拘束するなと言っただろう」
低い、しかしどこか落ち着いた声と共に、ラインハルトが現れた。
彼はエーミの隣に立つと、当然のようにその腰を抱き寄せる。
「ラインハルト、相変わらず過保護だな。……安心しろ、エーミはもう誰の操り人形にもならない。……それに、君という『最強のガードマン』がいるんだろう?」
「……当たり前だ。彼女の時間は、一秒たりとも無駄にはさせん」
ラインハルトの眼差しは、数年前よりもさらに深く、情熱的な色を帯びていた。
彼はエーミが提示する「非合理な愛情」という難解な数式に、今も喜んで頭を悩ませているのだ。
「あら、ラインハルト。あなたのその独占欲、今月の『夫婦円満・幸福指数』の数値をさらに五%押し上げているわよ」
「……数値などどうでもいい。……今夜は、温泉の貸切時間を一時間延長してあるからな」
「まあ。それは素晴らしい『時間投資』ね。……アンナ、夜の会議は全てキャンセルして。……私、今夜は『プライベートな資産運用』に忙しいの」
エーミが茶目っ気たっぷりにウィンクすると、アンナは「心得ました」と深く一礼した。
辺境の温泉宿。
そこには、婚約破棄から始まった「逆転劇」の果てに、誰もが自分の『価値』を見出し、笑い合える楽園が完成していた。
かつての悪役令嬢は、今や王国の経済を支える「慈愛の債権者」として。
そして、一人の男を、どんな金貨よりも熱くさせる「生涯の伴侶」として。
「……さあ、皆様。お喋りはこれくらいにして、宴(うたげ)を始めましょう! 今日の夕食の原価率は……サービスで、少しだけ高めにしてありますわよ!」
「「「「最高ですわ(だ)!!」」」」
全員の声が重なり、辺境の夕暮れに溶けていく。
エーミの人生という名の帳簿は、これからも永遠に、右肩上がりの最高益を更新し続けるのだ。
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