断罪されるのは勝手ですが、お茶会のケーキだけは包ませてください!

小梅りこ

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「アンネ! 鍬(くわ)よ! もっと鋭角に大地を穿つ、情熱的な鍬を持ってきてちょうだい!」


朝靄(あさもや)が立ち込めるシュバルツ城の庭園――もとい、ただの凍りついた空き地で、ヴィラの凛とした声が響き渡りました。


彼女は今、ポム公爵家特注の最高級シルクドレスの裾を、膝上まで大胆に捲り上げて紐で固定しています。


その足元には、泥にまみれた長靴。手には、王都から持参した「農具セット(金メッキなしの実用本位)」が握られていました。


「お、お嬢様……。公爵令嬢がそのような格好で土を弄るなんて、もし王都の社交界に知られたら、今度こそ完全に除名されてしまいますわ!」


アンネが顔を覆いながら嘆きますが、ヴィラの決意は岩よりも固いものでした。


「アンネ、よく聞いて。昨日のイノシシ肉は最高でしたわ。でもね、肉だけを食べていては、美食の真理にはたどり着けないの。脂の乗った肉には、シャキシャキとした瑞々しい野菜が必要不可欠……! そう、栄養バランスこそが、次の食卓を輝かせるためのスパイスなのよ!」


ヴィラは、まるで聖戦に赴く騎士のような眼差しで、カチカチに凍った地面を睨みつけました。


「ですが、ここはノースランドですわよ? 一年中雪が降るこの地で、野菜なんて育つはずが……」


「ふふふ、甘いわねアンネ。私はこのために、父様の貯蔵庫から『魔力付与された腐葉土』と、極寒地でも育つように改良された『不屈の小松菜』の種を密輸……いえ、譲り受けてきたのよ!」


ヴィラは懐から、宝石箱のような小さな袋を取り出しました。


中には、黒光りする小さな種たちが、出番を待つ精鋭のように収まっています。


「さあ、まずはこの凍土を耕して、私の情熱(と堆肥)で温めて差し上げますわ!」


ヴィラが気合と共に鍬を振り下ろした、その時でした。


「……貴様、一体全体、何をやっているんだ」


低く、地鳴りのような声。


振り返ると、そこには朝の巡回中だったアルベルトが、信じられないものを見る目で立ち尽くしていました。


「あら、閣下。見ての通りですわ。私の胃袋の未来を切り拓くための、開墾作業ですの」


「開墾だと? 貴様、その格好……。令嬢としての矜持(きょうじ)はどこへ捨ててきた。泥だらけではないか」


アルベルトがこめかみを押さえながら近づいてきますが、ヴィラは全く動じません。


「矜持でお腹は膨れませんわ、閣下。それより見てください、この土! 一見凍っているようですが、少し掘れば火山の恵みを感じる豊かな黒土です。ここで育つ野菜は、さぞかし力強い味がすることでしょうね」


ヴィラはスコップで掘り起こした土を鼻先に近づけ、ソムリエのように香りを嗅ぎました。


「……土の香りを嗅ぐ令嬢など、私は見たことがない」


「それは王都の令嬢たちが、完成された一皿しか見ていないからですわ。私は、その一皿が生まれる『根源』から愛したいのです」


ヴィラは腰に手を当てて胸を張りました。泥が頬についていますが、その笑顔は園遊会の誰よりも輝いています。


「閣下。この地を不毛と呼ぶのは、土地に対して失礼ですわ。ただ、誰も彼らを『美味しくしてあげよう』と情熱を注がなかっただけ。私は、この冬の沈黙を、野菜たちの歓喜の合唱に変えてみせます!」


アルベルトは、ヴィラのあまりにも真っ直ぐで(食欲に忠実な)瞳に、毒気を抜かれたように立ち尽くしました。


「……勝手にしろ。だが、腰を痛めて寝込まれては毒味の約束が果たせなくなる。……おい、そこの騎士たち」


アルベルトが背後の護衛たちに合図を送ると、屈強な男たちが三名、おずおずと前に出ました。


「こいつらに手伝わせろ。……勘違いするなよ。領内の土地を荒らされては困るから、管理させるだけだ」


「あら! 閣下、意外とお優しいのね!」


「……うるさい。私は仕事に戻る。夕食までに、その泥を落としておけよ」


アルベルトは足早に去っていきましたが、その耳たぶが微かに赤くなっているのを、ヴィラは見逃しませんでした。


「さて、皆様! 閣下の許可も出ましたし、さっそく取り掛かりましょう! そこのガイルさん、あなたには土運びを。こちらの騎士様には、ビニールハウス代わりの防風壁の設置をお願いしますわ!」


「は、はい! ヴィラ様のためなら、喜んで土になります!」


もはやヴィラの信徒と化した騎士たちが、一斉に鍬を手に取りました。


数時間後。


極寒のシュバルツ城の一角に、奇妙な熱気を孕んだ「ヴィラ菜園」の基礎が完成しました。


ヴィラは、丁寧に種を蒔き、その上にたっぷりと藁を被せました。


「いい子たちね。ゆっくりお休み。春を待たずとも、私の食欲で芽吹かせてあげますからね……」


種に向かって不気味な(慈愛に満ちた)囁きを投げかけるヴィラを、アンネは遠い目で見つめていました。


「お嬢様……。その野菜が育つ頃には、この領地の騎士様たちは全員、農夫に転職しているかもしれませんわね」


「あら、それも素敵なことじゃない? 剣を鍬に持ち替えて、美味しい野菜を作る。平和の象徴だわ」


ヴィラは泥だらけの手を洗い、満足げに空を仰ぎました。


北の冷たい風が吹きますが、ヴィラの脳内にはすでに、獲れたての小松菜とお肉を煮込んだ、温かいスープのイメージが完成していました。


「さあ、アンネ。次は……この作業で消費したカロリーを補給するために、最高に甘いおやつを作らなくてはね!」


「結局、食べるためなんですわね……」


ヴィラの「美食開拓」は、今や大地の下にまでその魔の手(愛情)を広げ始めていたのでした。
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