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第三章 インテルメディオの崩壊
黒宰相
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そんなことを考えていたらなんと、村の娘カルメンがドン・ミゲルの陣営にいた。
下の者から〝ドーニャ〟を付けて呼ばれる彼女は長いマントを風になびかせ、まるで怪僧だった。
最近隣国の宮殿に〝黒宰相〟と呼ばれる謎の人物が出入りしている噂を聞いていた。
いつも黒いフードを被り長い黒のマントを着て馬車に乗り降りするのでそう呼ばれているという。
その正体は村娘のカルメンだった。
いったいどうやってここに来たのか。
おれの騎士姿を見た途端彼女はのけぞって大爆笑した。
話し合おう、と呼んだ。
丘を降りてやってきたカルメンはフードを取って淡い金髪をなびかせ、笑いながら先に口を開いた。
「ダァッ、ハッ、ハッ。アンタ、それ何。チンチクリンよ。全然ダメよ。何のファッション?」
その質問は無視して
「なんで君がここにいるのだ?」
カルメンはまだ笑っていた。
「ハッ、ハッ、ハッ……アンタが望遠鏡を覗きながら〝嫌だ〟と言った途端望遠鏡に吸い込まれるようにフッと消えたのよ。あんなに驚いたことってなかったわよ。ひょっとして、と思いアタシも覗きながら〝嫌だ〟と言ってみたの。そしたら突然アタシは月の砂漠にいたのよ」
「そこに白い年配の女性がいたろう」
「投げだされて転がって、周りを見回しても誰もいなかったよ。そこにあった足跡も一人のものだったよ。おそらく少し先に来たアンタがつけた足跡に違いない。ついていってやろうとたどったら黒い穴があったので入っていったらこの世界に出たのよ」
おれが去った直後の月面砂漠にカルメンが出現した。
銀砂の上で四つん這いになった民族衣装の彼女がキョトンとして周りを見回した。
あそこで〝嫌だ〟と言えば望遠鏡が異界に連れていってくれる魔法の言葉だったのだ。
魔人でも憑いていたのか。
「それで、なぜそちらのエスクード公国側にいるのだ?」
「大草原に降り立って目の前の長い道を歩いて行ったらエスクード公国だった。親切な貴族が拾ってくれたわ。その国の人々はアタシのような明るい金髪を見たことが無かったので驚いていたわ。そこで占い師を始めたの。たまたま住民にテコ、歯車、滑車など色々な技術を教えたら評判になってドン・ミゲルに呼ばれたわ。エスクード公国は男が一杯。一瞬女にとって天国かと思ったけど、この世界の男はアレが無いって言うじゃない。ここの男達はよくニヤニヤ笑いかけるからアタシも笑顔で応じたらしばらくすると意外そうな変な顔するのよ。気味が悪いわ。そんなとき隣国の宮殿に最近変わった男が出入りしているとの噂を聞いたときピンときた。アンタに違いない。よくもまあ、女公爵の弟なんて嘘ばっかり!」
「全く無関係じゃない。嘘とは言い切れない」
「本当かどうか確かめようと思ってアンタの寝所に忍び込んだのよ。でもアンタ! 久しぶりに会えて懐かしがっているアタシにあんなこと、あそこまでやらせておきながら、なんで途中で逃げたのよっ! ほったらかされたアタシのカッコ悪さと言ったら……ありゃしないじゃないの!」
彼女は睨みつけた。
「おれは何も頼んでいなかったぞ」
あれは夢じゃなくやっぱり現実だったのだ。
フリアーナに胸と臍を見せられて、さて次こそ、と思って見せられたのがカルメンの体だったとは詐欺だ!
それにしても彼女の尻の大きなできものはどうなったのだろう。
「それからアタシ、ドン・ミゲルにうまく取り入ったわ。およそ組織的なものがほとんどない国に新組織を提案するのは何のしがらみもなくて簡単よ。ゴミ収集もしていなかったのよ。アタシの提言で逓信省や内務省を作り富国強兵、殖産興業をやって街はきれいになり国に勢いがついてきたの。ドン・ミゲルの威光は高まり、アタシは神の使いとも言われたわ。アタシの提案で船を作り漁の道具を改良し、水揚げが急に増えて皆豊かになった。そして子供が増えたと思った頃魚が減ってきた。貿易交渉が以前より厳しくなったでしょ? そんなこともあってリリオ国を手に入れようと考えたの。両国の統合に成功すればインテルメディオは帝国となり、ドン・ミゲルは王となるのよ。そのため軍事も教えたわ」
「細かいようだけど、帝国の支配者なら王ではなくて皇帝だよ」
「あら、そう。そのときアタシは帝国の総理大臣だからアンタを文部大臣にしてあげるわよ! ドン・ミゲルがアタシを側近にして信用し、古い臣下の言うことを聞かなくなった頃合いに侵略をけしかけたのよ。うまくいったわ、フッ、フッ、フッ」
たかが幼馴染と、おれはカルメンを見くびりすぎていた。
凄い奸婦に成長している。
カルメンはドン・ミゲルに取り入るために現世界の(最先端ではないが)進んだ文明の知識を利用した。
たった一人異文明からやって来ただけでこうも変わることがあるとは。
宮廷遊泳術も人心操作術、謀略術もいつの間にか心得ている。
進んだ文明の力を見せびらかす……なんとなくアジア・アフリカを植民地化した欧州人の謀略を思い出させる。
それもそれなりにすごいが、フリアーナに仕掛けた壁紙の謀略は現世界型の体の構造を持つ女の心理が解るカルメンの悪智慧だろう。
ド田舎の村娘カルメンは天才策士だった。
でも神の使いだと?
いずれお前には蛇が脱皮するように化けの皮がはがれる時が来るであろう……
「教育制度や金融制度はどうした」
「やってない」
ふん、時間のかかること、専門的で難しいことは先送りしている。
文明のつまみ食いだ。
バランスが崩れる。
これまでうまくいっても文明は発展せず長続きしないだろう。
この世界の先人の知恵である穏やかな古いしきたりを一顧もせずポイしている。
「何かを得るには何かを諦める。その決断が男達にはできないのよ」
うるさい、だまりやがれ!
「ここで大軍を動かせばどういうことになるのか分かっているのか。この宇宙が脆弱なことを考えないのか。話し合いを考えないのか」
「必ず勝つ。領地を取って皆大満足するわ。エスクードはこれからどこまでも発展するわ。人間が動いただけで中間界が崩壊するなんてどういう理屈なの? アンタ、証拠があって? どこかで実際あって? アンタはざれごと師なのよ」
彼女は昔からおれが言い出す話に逆張りする癖があった。
しかも今は自分に酔っているように、何を言っても逆張りされるだけで説得できそうもない。
白い母の警告で……それも言いかけてやめた。
彼女は自軍の陣地に帰った。
下の者から〝ドーニャ〟を付けて呼ばれる彼女は長いマントを風になびかせ、まるで怪僧だった。
最近隣国の宮殿に〝黒宰相〟と呼ばれる謎の人物が出入りしている噂を聞いていた。
いつも黒いフードを被り長い黒のマントを着て馬車に乗り降りするのでそう呼ばれているという。
その正体は村娘のカルメンだった。
いったいどうやってここに来たのか。
おれの騎士姿を見た途端彼女はのけぞって大爆笑した。
話し合おう、と呼んだ。
丘を降りてやってきたカルメンはフードを取って淡い金髪をなびかせ、笑いながら先に口を開いた。
「ダァッ、ハッ、ハッ。アンタ、それ何。チンチクリンよ。全然ダメよ。何のファッション?」
その質問は無視して
「なんで君がここにいるのだ?」
カルメンはまだ笑っていた。
「ハッ、ハッ、ハッ……アンタが望遠鏡を覗きながら〝嫌だ〟と言った途端望遠鏡に吸い込まれるようにフッと消えたのよ。あんなに驚いたことってなかったわよ。ひょっとして、と思いアタシも覗きながら〝嫌だ〟と言ってみたの。そしたら突然アタシは月の砂漠にいたのよ」
「そこに白い年配の女性がいたろう」
「投げだされて転がって、周りを見回しても誰もいなかったよ。そこにあった足跡も一人のものだったよ。おそらく少し先に来たアンタがつけた足跡に違いない。ついていってやろうとたどったら黒い穴があったので入っていったらこの世界に出たのよ」
おれが去った直後の月面砂漠にカルメンが出現した。
銀砂の上で四つん這いになった民族衣装の彼女がキョトンとして周りを見回した。
あそこで〝嫌だ〟と言えば望遠鏡が異界に連れていってくれる魔法の言葉だったのだ。
魔人でも憑いていたのか。
「それで、なぜそちらのエスクード公国側にいるのだ?」
「大草原に降り立って目の前の長い道を歩いて行ったらエスクード公国だった。親切な貴族が拾ってくれたわ。その国の人々はアタシのような明るい金髪を見たことが無かったので驚いていたわ。そこで占い師を始めたの。たまたま住民にテコ、歯車、滑車など色々な技術を教えたら評判になってドン・ミゲルに呼ばれたわ。エスクード公国は男が一杯。一瞬女にとって天国かと思ったけど、この世界の男はアレが無いって言うじゃない。ここの男達はよくニヤニヤ笑いかけるからアタシも笑顔で応じたらしばらくすると意外そうな変な顔するのよ。気味が悪いわ。そんなとき隣国の宮殿に最近変わった男が出入りしているとの噂を聞いたときピンときた。アンタに違いない。よくもまあ、女公爵の弟なんて嘘ばっかり!」
「全く無関係じゃない。嘘とは言い切れない」
「本当かどうか確かめようと思ってアンタの寝所に忍び込んだのよ。でもアンタ! 久しぶりに会えて懐かしがっているアタシにあんなこと、あそこまでやらせておきながら、なんで途中で逃げたのよっ! ほったらかされたアタシのカッコ悪さと言ったら……ありゃしないじゃないの!」
彼女は睨みつけた。
「おれは何も頼んでいなかったぞ」
あれは夢じゃなくやっぱり現実だったのだ。
フリアーナに胸と臍を見せられて、さて次こそ、と思って見せられたのがカルメンの体だったとは詐欺だ!
それにしても彼女の尻の大きなできものはどうなったのだろう。
「それからアタシ、ドン・ミゲルにうまく取り入ったわ。およそ組織的なものがほとんどない国に新組織を提案するのは何のしがらみもなくて簡単よ。ゴミ収集もしていなかったのよ。アタシの提言で逓信省や内務省を作り富国強兵、殖産興業をやって街はきれいになり国に勢いがついてきたの。ドン・ミゲルの威光は高まり、アタシは神の使いとも言われたわ。アタシの提案で船を作り漁の道具を改良し、水揚げが急に増えて皆豊かになった。そして子供が増えたと思った頃魚が減ってきた。貿易交渉が以前より厳しくなったでしょ? そんなこともあってリリオ国を手に入れようと考えたの。両国の統合に成功すればインテルメディオは帝国となり、ドン・ミゲルは王となるのよ。そのため軍事も教えたわ」
「細かいようだけど、帝国の支配者なら王ではなくて皇帝だよ」
「あら、そう。そのときアタシは帝国の総理大臣だからアンタを文部大臣にしてあげるわよ! ドン・ミゲルがアタシを側近にして信用し、古い臣下の言うことを聞かなくなった頃合いに侵略をけしかけたのよ。うまくいったわ、フッ、フッ、フッ」
たかが幼馴染と、おれはカルメンを見くびりすぎていた。
凄い奸婦に成長している。
カルメンはドン・ミゲルに取り入るために現世界の(最先端ではないが)進んだ文明の知識を利用した。
たった一人異文明からやって来ただけでこうも変わることがあるとは。
宮廷遊泳術も人心操作術、謀略術もいつの間にか心得ている。
進んだ文明の力を見せびらかす……なんとなくアジア・アフリカを植民地化した欧州人の謀略を思い出させる。
それもそれなりにすごいが、フリアーナに仕掛けた壁紙の謀略は現世界型の体の構造を持つ女の心理が解るカルメンの悪智慧だろう。
ド田舎の村娘カルメンは天才策士だった。
でも神の使いだと?
いずれお前には蛇が脱皮するように化けの皮がはがれる時が来るであろう……
「教育制度や金融制度はどうした」
「やってない」
ふん、時間のかかること、専門的で難しいことは先送りしている。
文明のつまみ食いだ。
バランスが崩れる。
これまでうまくいっても文明は発展せず長続きしないだろう。
この世界の先人の知恵である穏やかな古いしきたりを一顧もせずポイしている。
「何かを得るには何かを諦める。その決断が男達にはできないのよ」
うるさい、だまりやがれ!
「ここで大軍を動かせばどういうことになるのか分かっているのか。この宇宙が脆弱なことを考えないのか。話し合いを考えないのか」
「必ず勝つ。領地を取って皆大満足するわ。エスクードはこれからどこまでも発展するわ。人間が動いただけで中間界が崩壊するなんてどういう理屈なの? アンタ、証拠があって? どこかで実際あって? アンタはざれごと師なのよ」
彼女は昔からおれが言い出す話に逆張りする癖があった。
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