悪役令嬢の誕生日プレゼント〜偽物と蔑まれて拷問された王女の、本物の復讐。砂漠に捨てられた愚王と、真の夜明けを呼ぶ令嬢の知略

御厨そら

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悪役令嬢の誕生日プレゼント〜偽物と蔑まれて拷問された王女の、本物の復讐。砂漠に捨てられた愚王と、真の夜明けを呼ぶ令嬢の知略

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「アリーヤ、お前と我が国王太子グレムとの婚約は破棄だ! 破棄する!!」



 ドガーラ王国の華やかな大宴会場でラモス国王は、人々の輪の中心にいる令嬢を指差しながら声を張り上げた。会場の人々から驚きと戸惑いの声があがった。


「なぜですか。いったいどうなされたのです?」


「この女狐め、尻尾を掴まれたつもりはないだろうがすでに明らかだ。お前はアルゴ王国の王女アリーヤというのは真っ赤な嘘、何を企んでこのような陰謀に加担したのか正直に述べよ。さすれば命だけは助けてやらんでもないぞ」


「何だって! 国王陛下、今のお言葉本当ですか?」


「あの方、アルゴ王国の王女じゃなかったの?」


「まぁ、きれいな薔薇には棘があるけど、まさにあの女のことね」


「どこぞの国の謀略か。ヘタをしたら戦争になるぞ」


「国王陛下、何を根拠に偽者だと言うのですか、私は本物のアリーヤです!」


「片腹痛い。その美貌を武器にこれまでさんざん人を騙してきたのだろうが、お前の仮面はもう剥がれた。どこの馬の骨か分からん悪女と我が愛息グレムは釣り合うわけがなかろうが!」


「信じてください。私は本物です!」


「まだ抜かすか。そこまで言うのなら証拠を見せてやる」


 国王の合図とともにパーティー会場の大扉が開いて、車椅子に乗った女性が入って来た。


「誰だあの女性は? 痛々しいな、顔と手足に包帯を巻いてる……」


「あら、車椅子を押してるのはグレム王太子よ」


 車椅子が国王の側に来た。車椅子の女性が立ち上がろうとしたが、できなかった。


「無理をなさらないでください」

 グレム王太子がやさしく言った。


「……すみません。このようなぶざまな姿でラモス国王陛下に拝謁するのは本意ではありませんが、なにぶん体の自由が利かぬゆえお許しください」

 車椅子の女性は国王に深々と頭を下げた。


「かまわぬ。そなたの窮状を知らないでいたことを悔いておる」


「では彼女は本当にアリーヤ王女の偽物なのか?」


「あっ、車椅子の女性が顔の包帯に手を……」


 ──かけた。


 そしてゆっくり顔の包帯をほどいた。


 おおおお──っ!!


 大宴会場の人々がどよめいた。


 車椅子の女性が素顔をさらした。

 

 額と左の頬にあざがあったが、それをのぞけばきれいな顔だった。背後に立っていた近衛兵が、背中に隠れていた肖像画を会場の人々に見えるように掲げた。


「この方こそ、アルゴ王国のアリーヤ王女様でございます!」


 肖像画には立ち姿のアルゴ王国の国王と椅子に座った王女の姿が描かれていた。会場の人々の視線が、肖像画と車椅子に向けられた。


「……肖像画の王女様と瓜二つじゃないか」


「ほんとだわ」


「車椅子の方が本物のアリーヤ王女様なのね!」


 大宴会場が騒然となった。


「──私は拉致監禁されていたのです」

 車椅子の女が言った。



      ◇



 わずかな騎兵を連れた馬車が峠を越えようとしたさなか、突如山奥の森林から男が馬車の前に飛び出した。両手を広げた。

 御者は慌ててブレーキレバーと手綱を同時に引いた。


「何だ、何があった」

 馬車の背後にいた騎兵が前に出た。


「ウッ!」


 騎兵の首に矢が刺さって馬上から落下した。隠れていた集団が武器を手に襲いかかった。

 双方の激しい闘いでアリーヤ王女陣営は敗北した。



 馬車は襲撃者に囲まれた。アリーヤ王女は引きずり出されて目隠しとさるぐつわをされた。



 その一部始終を隠れながら見ていた男がいた。近くの村の猟師であった。


 猟師は拉致された女が気になって後をつけた。山奥の猟師も知らない小屋に女は監禁された。


「こいつは大変だ!」


 猟師は一部始終を村の村長に話した。



     ◇     



「──そして国境警備隊の騎馬隊に救助されました。その後、村で治療を受けて体が動かせるようになったのは一週間前でした。一刻も早くラモス国王陛下とグレム王太子に会わなければとの一心でした」

 

「アリーヤ王女、酷い目に遭わせた犯人は必ずや捕らえてその報いを受けさせるゆえ、お許しあれ」

 ラモス国王はアリーヤ王女の右手を両手で包むように握った。


「陛下……」


「その偽者の女を連行しろ!」


 近衛兵二人が女の脇に立って腕をつかんだ。


「国王陛下、私は本物のアリーヤ王女です!! 信じてください」


「まだ言うか、失せろ!」





 偽者の王女は地下牢に閉じ込められた。そして連日の苛烈な取り調べが続いた。


 水責め。


 背中に執拗なムチ。


 ベリッ、ベリッ、ベリッ!


 両手両足の爪をナイフで一枚ずつ剥がされた。


 うぎゃああ──!!


 拷問室に悲鳴がこだました。



 

「まだ吐かないのか? あやつの背後関係は誰がいる」

 ラモス国王が宰相に言った。


「わかりません。偽王女の連れの者たちは早々と姿を消しました。今、国中をくまなく探しております」


 執務室のドアの外側から荒々しい声がした。


「陛下、緊急事態でございます!」


 


「何だと、国境付近にアルゴ王国の軍隊が集結しておると。なぜだ? アルゴ王国とはアリーヤ王女との婚約が成立したばかりではないか」


「はっ、使者が申しますには、拉致監禁されたアリーヤ王女の奪還のために軍隊を総動員したとのことです」


「拉致監禁じゃと? それはもう解決済みではないか。これは言いがかりとしか思えない。それでアルゴ軍の総数はいかほどじゃ」


「およそ15万の兵力かと」


「ばかな!!」


 ドガーラ王国は小国だった。大陸北部の草原の湿地帯を含む地域を治めているにすぎない。周辺の大国3カ国を通る街道の中心にあるため、物流のハブ国家として君臨していた。

 兵力は総数8千人。


 かたやアルゴ王国は北部地域最大の国家である。最大兵力は30万人を超える。まともに戦ってどうにかなる相手ではない。蟻が象と戦うようなものだ。ドガーラ王国は無血開城の白旗を掲げた。



     ◇



「アリーヤ王女様! ……なんと痛ましいお姿であられましょうか」


 牢屋の奥にボロ雑巾のように放り投げられた私の姿を見て、白髭の鎧姿の老人が床に両膝をついた。アルゴ王国の大将軍モラレスだ。


「爺、来てくれ……て嬉しい……ぞ」


 私は蚊の鳴くような声しか出なかった。ムチで喉を締められて声帯が傷んだせいだ。

 

 私はモラレス将軍の腕の中で体を起こされた。


「見ろ、この方が我がアルゴ王国のアリーヤ王女様であられる!!」


「将軍、何かの間違いでは……」

 背後で突っ立っていたドガーラ王国のラモス国王が震えながら言った。


「産声をあげたときから、わしはこのお方の側にいたのだぞ。見間違えるわけがない!」


「そ、そんな────、何てことを!!」

 ラモス国王がへなへなと腰砕けになった。





 私はドガーラ宮殿に運ばれた。ベッドの中で意識が朦朧としながら、次から次へと慌ただしく出入りする人々を目で追っていた。医者、爺、騎士たち……そして目を閉じた。




 体が動かせるように回復したのは二ヶ月後だった。




 ベッドの上で軽い朝食を済ませた私は窓辺に近づいた。ドガーラ王国の町並みと行き交う人々の姿を見つめた。



 ──私は転生者だ。



 シングルマザーでネグレクトの母は、私にろくな食べ物も着るものも与えず小学校に通わせた。学校では薄汚いとののしられ、家に帰ると母が連れて来た男に暴力を振るわれた。生き地獄だった。唯一心を解放してくれたのは、本の物語だった。


 《悪役令嬢》の物語が大好きだった。転生した悪役令嬢が人が変わったように周りの人たちに信頼されて、ライバルの令嬢をやっつけることが爽快だった。でも現実は母親のネグレクトがひどくなってご飯を食べられなくなった。衰弱した私を母親の男がおもしろがってサンドバッグのように殴った。


 殴った。


 殴り続けた。


 そしてこの世界に転生した。




 転生先は北方地域の大国アルゴ王国の王女だった。私は歓喜した。夢に見た本物の王女様になれたからだ。しかも、彼女の記憶と精神年齢までもが引き継がれていた。



 私は7歳の女の子ではなく、19歳の女性になっていた。



 ただアリーヤ王女は引きこもりだった。社交界にも姿を見せず、ひたすら部屋にこもっていた。各国の要人でアリーヤ王女と会った人物は皆無だった。


 父のイーライ国王が頻繁に部屋にやってくる。書類を大量に入れた鞄を持っていた。


「すまないが今夜も頼む。知恵を貸してくれ」


 名君の誉れ高いイーライ国王がもっとも信頼して頼りにしていたのは、ほかならぬアリーヤ王女、私だった。


 異才、天才、呼び名はいろいろあろうが、アリーヤ王女は戦略を練る飛び抜けた才能があった。

 雑務が片づいたら、父が言った。


「もうすぐ誕生日だな。誕生日プレゼントは何がいい? 遠慮せずにいいなさい」


「それを見つけるために旅をしたいと思います」


 私が外出すると知って父は驚愕した。


「そうか……やっと外の世界に目を向けてくれるか」

 父は目頭が熱くなり、涙をぬぐった。



 わずかな伴を連れて私はお忍びの旅に出た。国境越えの山道で馬車を止めた。辺りの地形を確認するために馬車から降りた。遠くの山間に小さな村が見えた。


「近いうちにあの村の村長を籠絡(ろうらく)しなさい。方法は任せます」

 私は部下に指示をした。


「かしこまりました」

 

 

 

 馬車の旅は楽しかった。ネグレクトの母は私をどこにも連れていかなかった。馬車の窓から見える空は広くて澄みきっていた。




 目的地のドガーラ王国に着いた。


 《北方地域のオアシス》との異名がある小国だ。水源が豊かでいたるところに森と湖がある美しい国だ。北方の3カ国に向かう中継地点であるため、物資の補給基地としての役割を担っていた。

 人々の表情は明るく、旅人に対するまなざしは温かいものだった。


 私はこの国の開放的で明るい雰囲気が好きになった。

  

 しかし、光には影があった。 


 宿を出て向かったのは、町外れにある貧民街だった。そこのリーダーの老人ナルセに会った。


「これまでのあなた様の多大なるご支援に感謝しております」

 ナルセ老人が言った。


「奴隷農場《・・・・》からの脱走者を保護したと聞いたのですが」


「カミーラこっちに来なさい」


 3歳ぐらいの女の子が連れて来られた。手を握っているのは若い男だった。


「奴隷農場で生まれ育った子どもです。手引きした仲間が脱走させました」


「ご両親は?」


「母親は逃げる途中足手まといになるからと、この子を託されました。父親は……誰かわかりません。母親自身もわからないようでした」

 彼は床に視線を落とした。


「ディエゴ、この方々の案内を頼む」 

 ナルセ老人が言った。





 私たちはディエゴの案内で奴隷農場を見渡せる丘に登った。

  

 頂上から平原の奥に広がる畑といくつかの建物が見えた。これまで見たことのない大規模な農場だった。


「北部地域で最大規模の奴隷農場です。もとは小規模の農場だったのですが、労働力不足を解消するため、囚人や不法滞在者を送り込んでいます」


「奴隷農場は私の国では違法だが、この国では合法なのですか?」


「恥ずかしながらドガーラ王国が運営しています。ラモス国王の指示には誰も逆らえません。一族と取り巻きだけが裕福になってる国家、それがドガーラ王国なのです。農場の人々は死ぬまで過酷な労働を続けるのです」


 ディエゴはこの国を変えてみたいと熱く語った。

 王国・独裁専制国家が当たり前のこの世界で、彼は異質の存在だった。


 もしかして、この男ならばこの国に新しい風を呼び込むかもしれない。


 ドガーラ王国に滞在中、私とディエゴは毎日会っていた。

 朝、昼、晩ほとんど一緒にいた。語ることは山ほどあった。



 気づいた頃には、私とディエゴは恋人同士になっていた。



     ◇



 一ヶ月後、私はアルゴ王国に戻った。


「誕生日プレゼントは見つかったかね」

 父のイーライ国王は何やら複雑そうな顔をしていた。私の行動は逐一報告されていたのだ。



「はい。ドガーラ王国を所望(しょもう)したいと思います」





「そうか……全面的に協力するぞ」



 私は父にサドラー伯爵宛に手紙を送ってもらった。そこには《これまでの不祥事を不問にするゆえ力を貸して欲しい》と書かれていた。


 かつて貴族院の有力議員であったサドラー伯爵は不祥事がきっかけで没落して領地の三分の二をなくしていた。それを国王が返還して貴族院の役職にも戻れるようにはかるとあったので、サドラー伯爵はすぐさま長女をともなって宮殿に駆けつけた。


 長女のヘイゼルは私と同年代だ。子供の頃に何度か会っている。気の強さと私にいくぶん似ている容姿は申し分なかった。

 宮廷画家のもとでヘイゼルは絵のモデルをつとめた。完成した絵は立ち姿の国王と椅子に座った王女そのものだった。


 そしてチームを作った。

 父に私直属の親衛隊50人を要請した。いずれも私の信奉者たちだ。彼らは手足のように私のために働いてくれた。


 人しれぬ山奥で馬車を襲撃する役割と襲われる側との芝居を何度もリハーサルした。その中に人質役のヘイゼルもいた。大事な役割をになう猟師や村長もこちらの手の内にあった。


 工作によって、アルゴ王国の王女アリーヤが結婚相手を探しているという情報がドガーラ王国の王室に流れた。北方地域で一番の大国アルゴ王国と縁戚になれるということで、グレム王太子に白羽の矢がたった。私の思惑通りの結果だった。


 引きこもりで知られている私はグレム王太子と手紙のやりとりを続けた。そしてお互いの気持ちが盛り上がりのピークに達したとき、ドガーラ王国に会いに行くと連絡した。


 もちろん婚約のためだ。



 ドガーラ王国で私は大歓迎された。北方随一の美姫との噂に国中の人々は興味津々だった。

 グレム王太子は私にプロポーズをした。私はそれを受け入れた。



 ──婚約パーティーが宮殿の大宴会場で開かれた。会場の主役は私だった。ドガーラ王国の有力者がこぞって私に挨拶をしに列を作った。グレム王太子の姿はなかった。

 しばらくして顔を真っ赤にしたラモス国王がやって来た。


 私の姿を見つけると、烈火のごとく激しい言葉を投げつけた。



「アリーヤ、お前と我が国王太子グレムとの婚約は破棄だ! 破棄する!!」





 窓辺でドガーラ王国の町並みを見ていると、背後のドアの向こうから声がした。


「アリーヤ入ってもいい?」


「どうぞ、お入りください」


 部屋に入って来たのは恋人のディエゴだった。





グレム・ディエゴ・ラモス王太子。





 この国の次期国王である。





 ディエゴは王太子でありながらラモス国王からうとまれていた。非道な行いを何度も諫言(かんげん)するので王太子を廃嫡して二男を跡継ぎにする話が進められていた。

 私はそれがこの国の未来に最悪の結果をもたらすと思った。だから、ディエゴにアプローチしたのだ。私の計画に驚きながら、この国の進むべき正しい方向だと協力してくれたのだ。


 今回の事態でラモス国王と反王太子の一派は、アルゴ王国辺境の流刑地おくりとなった。


 **********


 じりじりと皮膚がただれそうな炎天下。ラクダのキャラバン隊が砂漠の地平線から姿を現した。目的地の日干し煉瓦の白い建物がようやく見えてきた。


 長い旅路の果ての到着点だ。


 ラモス国王は、ラクダから降ろされた。側近の5名とともに目の前に広がったオアシスの泉とみすぼらしい隊商宿(キャラバンサライ)に目を向けた。

「ようこそ、ラモス国王。ここが新しいあなたの王宮です」
 出迎えたのは、この監獄の所長だった。

「ここが王宮だと、ふざけんな! ワシは帰るぞ」

「どうぞ、お帰りになってください。止めはしません」

「何だと」 
 
「ここは砂漠の孤島です。周囲300キロには、井戸も宿もありません。徒歩での移動は不可能です。キャラバン隊に紛れて逃げようとしてもオアシスで身体検査をされます。ここのキャラバン隊員は腕に細かな入れ墨をしていますが、それが通行手形になっておりますので、もし見つかればその場で処刑されます。そしてラモス国王の首に多大な報奨金がかけられていますので、周辺の族長たちが舌舐めずりして、脱出を心待ちにしていることをお伝えいたします。あしからず」

「ちきしょー。ワシはここで一生囚われの身になるのか!」

「いいえ、ここには牢屋がありません。どこに行こうが何をやろうとかまいません。みんな平等です。あなたは王族の枷(かせ)を外れて自由を手に入れたのです」


「うぎぁぁぁ──!」


 喚いたラモス国王が、ふと我に返った。

「そうか、わかったぞ。あまりにも手際が良すぎる。仕組んだな。いったい誰が? もしや……すべての災いはあの女がわが王国にやって来て始まった」

 ラモス国王の脳裏に、アリーヤの美しい顔が浮かんだ。


**********


 ディエゴは私の手をとって爪の状態を確かめた。10本の指の爪がすべて剥がされていた。爪のない醜い傷跡に顔をしかめた。


「だいぶ良くなったけど……完治には程遠いですね」


 私は肩をすくめた。背中にはムチで打たれた痕が残っているし、首を締めつけられた痣もある。打撲は数十箇所あった。よくぞ生きていたなと思う。



 拷問はアクシデントだった。



 買収した拷問官が病気になって急遽別の人物が務めることになった。これで“フェイク”の拷問はなくなった。

 私は歯を食いしばってひたすら耐え忍んだ。


 ネグレクトの母が連れて来た男の顔が目に浮かんだ。子どもをいたぶることに快感を得るサディストだった。そんな奴らに私は負けない。転生した世界でも負けたら、私の存在意義はどこにある。私はこの世界で強く生きる道を選んだのだ。



「こんな醜い体の女でも愛してくれますか?」


 私はディエゴの目を見ながら言った。少し不安だった。

 ディエゴは黙って指先の傷跡にキスをした。


 私はディエゴの首に両手をかけて背伸びをした。

 ディエゴは私の背中にやさしく手をまわした。


 唇へのキスは情熱的だった。





「会わせたい人がいるんだ」



 ディエゴは宮殿の控えの間に私を連れて行った。


 そこには貧民街で会った3歳の女の子カミーラがいた。隣にいる女性はひと目で母親だとわかった。


「カミーラの母でアイラともうします。グレム王太子様とアリーヤ王女様の尽力によって娘と再会できました。ありがとうございました」


「本当によかったですね」

 私は言った。


「ディエゴがグレム王太子? アリーヤが王女? なんで、変なの」

 カミーラが首をかしげた。


「これ! 呼びすてなんてとんでもない」


 私とディエゴはお互いの顔を見合わせて吹き出した。


「かまわないですよ。僕らとカミーラは友だちですから」


 カミーラと最初に出会ってから何度も一緒に遊んだ。この子と一緒に人形遊びをするのは楽しいひとときだった。


 二人が帰ったあとディエゴが言った。


「いつかカミーラみたいな子供が欲しいな」


「そうね」


 私はドレスの上からそっと下腹部を押さえた。

 ──もう誰にも、私の人生を踏みにじらせはしない。











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