血盟の鎮魂歌(レクイレム)

海鳥

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第一章 混血少女の転生記

05.回想④~魔剣エウリュアレ~

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赤ん坊がワイバーンを手懐けると言う類を見ない事件から六日後、仕事と憂さ晴らしを終えてアスガイアに戻ってきたアリューゼは自宅の離宮にワイバーンの仔が住み着いている事に特に驚くことなくそれを受け入れ、帰ってきて早々二人分のおやつを作り、一人と一匹に与えた。

「シエー、あーん」

「あーん」

アシュレイが小さな手で正方形のクッキーを掴んでワイバーンの口に放り込む光景は荒んだアリューゼの心を和ませた。

「アシュレイ、シエルに食べさせるのは良いがお前は自分のも食べなさい。母上特製のゼリーが温くなるよ」

「シエが食べさせるー」

「お前は手が無いだろう」

シエル、魔竜の女王であるマザーに名付けられたワイバーンはアシュレイを主と定めてからは四六時中アシュレイにくっついており、アシュレイを傷つけないようにじゃれ合う光景は最早王宮内における名物となりつつあった。

「アリューゼ様、おくつろぎの所申し訳ありませんが陛下がお呼びでございます」

「ギルが?分かった、すぐに行く」

「ああうえ、おちごちょ?」

「ああ。シエル、アシュレイの事を頼んだよ?」

「ん。りょーかい」

控えていた侍女達にアシュレイとシエルの世話を頼み、アリューゼは自分の軍服とマントを纏って王宮へ向かう。

「アシュ、食べ終わったら遊ぼー?」

「あい!」

シエルは侍女達、特にあのパーティーの後から入った若い侍女を警戒しながら、美味しそうにゼリーを食べるアシュレイを優しげな目で見ていた。

一方、王宮に着いたアリューゼは兵に案内されて会議の間に入った。

「やぁ、アリューゼ。お帰り」

会議の間にはギルバートと王妃セディア、側室達、そして第1から第4までの王子達が集まっていた。

「ただいま、陛下。ところでこれは何の集まりだ?火急と聞いて軍服で来たんだが、家族会議でもするのか?」

「まあ、そんな感じだね」

マントを外して椅子に掛け、腰掛ける。

「で、今日の議題は?」

「アシュレイとシエルの話はもう聞いているね?」

「ああ、しかしあの若造、ホントに昔から余計な事しかしないなぁ…先王は結構まともだった気がするんだが?」

「基本的に愉快犯だからね。王としてはまだまともだと思うよ。さて、本題に入ろうか。先程、魔王から使者が来た」

「使者?まさか属国に降れとでも行ってきたか?」

「セディアが私に嫁いできた時点で奴等にそれをやる度胸はないよ。何せ、我が自慢の妻達は全員最強クラン「焔の乙女」のメンバーだったんだからね」

焔の乙女、構成メンバーが全員女性と言う異例のクランであり、200年以上前に解散した伝説のクラン。

解散の理由は、当時クランマスターだったセディアが実家の都合で当時王太子だったギルバートと結婚せねばならなくなったからだが。

「使者が来た理由というのはまぁ、アシュレイの件での謝罪だな。謝罪の手紙と、これを送ってきた」

ギルバートがテーブルの上に置いたのは黒いビロードの大きな箱。

「これは?」

「アシュレイへの詫びの品だそうだ。本来あの日渡す筈だった誕生日プレゼントだとも言っていたな」

「開けても?」

「ああ」

留め具を外し、恐る恐る開けば中には見事な長剣が納まっていた。

細やかな銀の装飾が施された鞘を抜いてみれば、刀身は黒水晶を削って作られたかのように透き通る黒、柄にはアシュレイの瞳のような蒼い大粒の宝玉がはまった片手用の黒い長剣、ある意味蒼黒の王女と呼ばれているアシュレイに相応しい剣とも言えるが、まだ赤子に等しい子供に持たせるべき代物ではない。

綺麗なだけなら飾り太刀にもなろうが、これは戦場で戦う事を目的として作られた実用的な剣。しかも、アリューゼはこの剣に見覚えがある。

かつて魔族の国を作った初代魔王であり、神々から無理矢理神格を与えられて魔神となったあの紫紺の青年が神となっても手放さなかった唯一の品。

「エウリュアレ…!」

「エウリュアレ?アリューゼ、その剣を知っているのか?」

セディアの言葉にアリューゼは頷き、言葉を続ける。

「この剣は紛れもなく魔剣エウリュアレ。初代魔王にして魔神ルーファスの所有していた愛剣、彼が神となっても手放さなかった唯一の武器…!武器としてのランクは伝説級だが、下手をすれば幻想級(ファンタジアクラス) に匹敵すると言われている剣だ」

この世界の武器にはランクが存在し、下から順に普通(ノーマル)、稀少(レア)、固有(ユニーク)、古代(エンシェント)、伝説(レジェンダリィ)、神話(マイソロジー)、幻想(ファンタジア)の七つに分類され、エウリュアレはランクこそは伝説級だが、その力は2ランク程上の幻想級に匹敵する。

『我が先祖にして偉大なる初代魔王ルーファス様より贈り物と伝言だ。「君の行く末に幸多からん事を心から願う」だそうだ。アシュレイ、いや悠季嬢に関してはルーファス様から多少の事情は聞いている。願わくば、彼女の歩む道が禁忌を犯せし愚かな女神に邪魔立てされぬ事を祈る』

剣と共に送られた手紙の最後に記されていたのは悠季の、アシュレイの行くであろう過酷な道を案じる一文。

「…全く、普段能天気なくせにこんな気の利いた手紙をよく書けたものだな…」

悪友の気遣いを嬉しく思うが、何か下心を感じてしまうのは何故なのだろう。

「アリューゼー」

突然聞こえた声に窓の方を見れば、窓の外にはアシュレイのお守りを頼んだ筈のシエルがいた。

「シエル、どうした…」

シエルの脚には何故か紐で深めの篭が吊るされており、その中にいたのは、シエルの主であるアシュレイ。

「…何してるんだ、お前は」

「ヴィルにやってもらった。この方が落ちにくいって」

確かに背中に乗せるよりも安全性は遥かに高いが。

「…それで、どうした?」

「アシュレイがあそこいるのやーって」

「どうした、アシュレイ。あの離宮は私とお前のお家だぞ」

「やー!」

「何かね、昨日来たのが嫌な感じがするって言ってる」

「昨日来た…?」

はて、自分は今朝早くに帰ってきたばかりだから二人が言う昨日来たのが何なのかは分からない。

「もしかして、昨日ヴァリエンス伯爵の家から来たばかりの侍女の事かしら?」

第5王子クロウェルの母であり、王宮や離宮の人事と諜報を請け負うレイラの言葉に全員がそちらを向く。

「ヴァリエンス伯って、確か未だにアシュレイを不義の子だとか言い募ってる?」

「はい。先日アリューゼ様の離宮の侍女が産休に入られたので臨時の募集をかけていたらヴァリエンス伯が娘をアリューゼ様の離宮へ奉公に出したいと言ってきたので」

「…きな臭いな」

「私もそう思ったので、アリューゼ様には申し訳ありませんでしたがご不在の間は私の権限で天井裏に密偵を潜ませて見張らせておりました」

「…今度、チョコレートケーキでも作ってあげましょうか?中も外もベリーをたっぷりにして表面をブラックチョコでコーティングしたのを」

「1ホールでお願いします」

レイラの大好物であるベリーたっぷりのチョコレートケーキを作る事を約束し、議題は魔王から内側へと移る。

吸血鬼王と王妃、側室達の密談が夜まで続く中、やはり渦中の人であるアシュレイは迎えに来た兄に抱かれて(アレクセイ)の離宮へと戻っていった…。

余談だが、あのパーティーの一件後、他国から向けられてくる暗殺者は全てシエルのブレスによって焼死させられ、遺体は裏の山に埋められた。


END
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感想 1

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みんなの感想(1件)

ik
2019.07.25 ik

こんにちは!
つい最近読み始めましたが、とても面白く2、3度ほど読み直してしまいました!続きが気になるので、よろしくお願いします!

解除

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