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05 夏休み

07

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「ここは、攻めなきゃね……」

 葉月先輩が、顎に手を当てて考える。

「攻める猫……
 狩りをする猫。
 猫、魚……
 漁猫とかどうでしょう?」

「すなどりねこ?」

 川名さんの提案に僕は首を傾げる。

「自分で魚を漁するねこです。
 魚を見事に狩るんですよ」

「よし!ユニット名は漁猫に決まりね!」

 葉月先輩が嬉しそうにうなづく。
 そんな簡単に決めていいのかな。
 でも、いっか……
 そんな有名バンドになるわけじゃないんだしね。
 個人で楽しむ範囲の名前ならいっか。

「いいんじゃないかな?」

「よし!
 決定ね!
 あとで、ユニットメンバーを集めるためのチラシを作らないとね!」

 葉月先輩が、うれしそうに手を叩く。

「メンバーを集めるのですか?」

 僕がそう尋ねると葉月先輩が答える。

「望むならベースとドラムが欲しいわね」

「そ、そうですか……」

 結構本格的にやるんだな……
 すると大きなパフェを萌えさんが運んできた。

「頼んでませんよ?」

 川名さんが、そう言うと萌さんが答える。

「これは、私からのサービス。
 一くんが女の子ふたりとデートだなんて珍しいんだもん」

「デートって……」

 僕は言葉に詰まる。

「女の子と男の子がおでかけしたら、デートなんだよー」

 萌さんが、そう言って僕の手を握りしめる。

「え?」

 そして耳元で囁く。

「どっちが本命?
 葉月ちゃん?それとも隣の子?」

「どっち?」

 萌さんが聞くより先に葉月先輩が聞いてきた。

「じー」

 川名さんも僕の目を見ている。
 僕は、目をそらす。

 すると見知らぬ女の子と目が合う。
 小柄でショートカットな可愛らしい女の子。
 僕の学校と同じ制服を着ている。
 高校生かな?

「あんな感じの女の子がタイプです」

 僕は、そう言ってその女の子を指差した。
 すると聞こえたのかその女の子は、顔を真赤にしてうつむいてしまった。

「あら?一くんあの子がタイプなの?」

 葉月先輩が笑う。

「……選ばれなかった。
 残念」

 川名さんが溜息をつく。
 その溜息の意味はなんだろう?
 僕にはわからなかった。
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