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07 誰がために鐘は鳴る。

誰がために鐘は鳴る。その4

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 それは、ただのきっかけだった。
 クラスメイトが、その場から離れたのは俺が玉藻の不幸を食べたから……
 「詩空くん……?」
 「うん」
 俺は、うなずいた。
「どうして、そんなにいじめられるの?」
 俺の問に玉藻は、首を傾げた。
「詩空くんは、わかんないの?」
「なにが?」
 俺が、首を傾げると玉藻も首を傾げた。
「もしかして、詩空くんも能力者?」
「あ、うん……
 そうだよ。俺の能力は不幸を食べる不食だよ」
 俺は、オールウェポンのことは言わなかった。
「そうなんだ……
 私は、人から愛されない呪いを持っているの」
「そっか……」
「詩空くんは私をイジメない?」
「うん」
「そう……よかった」
 玉藻が、そう言って涙を流した。
「え?
 どうして泣くの?
 俺、なにかまずいこと言っちゃった?」
「うんん。
 嬉しくて……」
「嬉しかったら泣くの?」
「うん……
 そうだよ……」
 玉藻が、小さく笑った。
 俺は、その笑顔のどこで救われた気がする。
 今まで、こんな笑顔を俺に向けてくれた人なんていなかった。
 だから、嬉しくてついこんなことを言ってしまった。
「食べてあげようか?」
「え?」
 玉藻が目を丸くさせて驚く。
「多摩月さんの、呪い……
 俺が食べるよ」
「でも、それをすると詩空くんが……」
「そうだね……
 今度は、俺がみんなに嫌われる番だ……
 呪いを食べたら食べた人がその呪いを引き継ぐ……
 そしてもう一つ呪いが増える」
「それじゃ、詩空くんがつらいよ」
「うん。
 でも、俺には不食があるから……」
「でも!」
 玉藻は、涙目で俺の方を見る。
「じゃ、俺の友だちになってよ……
 俺も友達とかいたことがないからさ……」
「いいの?」
「うん」
「じゃ、私、詩空くんの友達になる!」
「違うよ、多摩月さん。
 友達は下の名前で呼び合うんだよ」
「えっと……」
 玉藻が少し困った顔をした。
「俺の名前は、亜金だよ」
「亜金!私と友だちになってください」
「うん、よろしくね、玉藻」
「うん!」
 僕は、そっと手を伸ばした。
 玉藻の手を握りしめ、そして僕は玉藻の呪いを食べた。
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