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Scene01 そして異世界へ

08 マッチング成立!

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小さな世界。
優しくない世界。
暗い世界。
苦しい世界。

暖かい世界にいた。
でも冷たい世界に投げられる。

そして狭い世界に入り。
そして死んだ。

時の女神は思った。

享年0歳のイチ。

他の異世界の転生者とは違う。
前世の記憶はほぼない。

その前世は1年も生きていない。
生前0歳。

それが彼なのだ。
彼は文字通り生まれたての赤ん坊なのだ。

時の女神はまるで母親のように感じていた。

どんな大人になるか……
どういうふうに育てるか。

勇者にならなくてもいい。
英雄にならなくてもいい。

ただその加護を。
ただその未来を。

可能性と信じて。

「美味しい」

イチは小さく笑う。

「もう、ほっぺたをこんなに汚して赤ちゃんみたいですね!」

クリスティーヌが笑いながらハンカチでイチの頬を拭う。
メルがそれを見て小さく笑う。

「なんかクリスティーヌ、お母さんみたいやな?」

ハデスも笑う。

「いや、そこは彼女じゃないのか?」

アースロックは苦笑い。

「だってねぇー」

メルがハデスの顔を見る。

「ねぇー」

ハデスも笑う。

時の女神はわかっている。
これはイチが放つ赤ちゃんオーラが根源だろう。
赤ちゃんに対しては人は優しくなれる。
魔王と魔獣もいるけれど……
優しくなれるのだ。

それがイチの魅力なのかもしれない。

「さて社長。
 ご飯を食べたらお仕事ですよ?」

アースロックがそういうとメルは笑う。

「ふ……
 書類ならもう済んでいるわ」

「え?」

メルの言葉にアースロックが驚く。
アースロックは書類を見る。

「凄い」

ハデスも驚く。

「ハウリングドラゴンの件は心配ね。
 村の被害も大きいし。
 でも、狩ってくれる人は――」

「ハウリングドラゴンは声まで美味しいんですよ!」

クリスティーヌがよだれを垂らす。

「ハウリングドラゴンの牙はいい魔道具ができるんやで!」

「えー、でも牙は食べれないですよ?」

「魔道具にしたいから食べんでええねんで?」

「あー、なるほど!」

クリスティーヌが笑う。

「ってことは?」

メルが期待の眼差しで二人を見る。

「引き受けます!」

クリスティーヌがうなずく。

「素材は頂くけどな!」

ハデスも笑う。

「マッチング成立!」

メルは目を輝かす。
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