喫茶★失恋

はらぺこおねこ。

文字の大きさ
65 / 93
05 にょ

65

しおりを挟む
 部屋には、眠っているママと私が二人。
 看護婦さんの足跡は聞こえるけど、入ってはこない。
 私は、そっとママに触れてみた。

 冷たい。

 ひんやりとした部屋に私と二人。

「君のママは、死んだんだよ」

 誰も居ないはずの部屋の中でその声が響いた。
 私は、振り返る。

 そこには、知らない男の子が立っていた。

「君のママは死んだんだよ」

 男の子はもう一度繰り返した。

「にょにょ?」

 男の子は、苦笑いを浮かべながらこう言った。

「『にょにょ』って何語だよ。」

 男の子は、部屋に入りママの顔にハンカチを乗せると手を合わせた。

「にょ!?」

 何をするの?と私は言いたかった。
 でも伝わるはずも無い。

「もしかして、お前は『にょ』しか言えない
 にょにょにょ星人か!?」

 男の子は、そう言うと体を構え、私の頭にチョップをした。
 痛い。
 痛いときに痛いって言えたら幸せだろうな。
 私は、「にょー」
 と叫んだ。

 私の言葉を理解してくれる存在は、もう居ない。
 パパは、私の言葉を理解してくれなかったけど。
 ママは、私が何を言っても理解してくれた。

 もう、ママはいない。
 そう思うと、涙が流れた。

「なんだよ、何泣いているんだよ・・・」

 男の子は、そう言うと、頭を撫でてくれた。
 男の子の姿をもう一度確認すると、パジャマを着ていた。
 男の子は入院しているのだろうか?

「ごめん、泣くなってコレをあげるから……」

 男の子は、そう言うとクマのキーホルダーをくれた。

「にょー」

 私は、ありがとうって意味で言ったけど伝わったのか伝わってないのか、私の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。

「俺の名前は、斉藤 博。
 お前の名前は?」

「にょにょにょ」

 男の子は、困った顔で答えた。

「うーん。何が言いたいのかわかんない。
 もう、『にょにょにょ星人』で良いかな?」

「にょにょにょ!にょにょにょにょにょ!」

 私は、抗議した。
 そんな、あだ名は、嫌だ。

「やっぱ、ダメか?
 じゃ、なんて呼べば良い?」

 私は、考えた考えて考えて考えた結果。
 指で文字を書いた。

 ひ

 と

 み

「わかんない、もう一度」

 ひ

「ひ?」

 と

「と?」

 み

「み?」


「ひとみ!」

 私は、コクリと頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...