喫茶★失恋

はらぺこおねこ。

文字の大きさ
70 / 93
05 にょ

70

しおりを挟む



 女の子は、ニッコリ笑うと私に軽く会釈をした。
 私も、その女の子に軽く会釈をした。

「……」

 女の子は、何も話さず私にスコップを貸してくれた。

「……」

 何かを言いたそうだったけど、何も言わなかった。
 私たちは無言で砂山を作った。
 そんな私達の元に、博くんが現れた。

「俺も一緒に遊んでもいい?」

 その女の子は、コクリと頷いた。

「コイツの名前は瞳。
 病気で『にょ』しか話せないんだ。」

 博くんは、そう言うと私の頭をくしゃりと撫でた。
 女の子は、にっこりと微笑んだ。

「でな、瞳。
 こいつの名前は、港。瞳より一つ上だよ。
 ちょっと色々あって、声を出す事が出来ないんだ。」

 港ちゃんは、コクリと頷き私の前に手をそっと出した。

 私は、その手を握る。
 この人は、私と同じなんだ。
 私と同じで言葉が話せないんだ。
 少し安心した。
 女の子は、私の袖をひっぱり、遊ぼうって目で訴えた。
 私は、コクリと頷き、砂場の砂にスコップを入れた。

 カシャリ。

 砂場の砂は少し硬かった。

 ――次の日

 話さなきゃ。
 私また一人ぼっちになってしまう。

 挨拶しなきゃ。
 私は、一人で砂場で遊ぶ私と同じ歳位の女の子に声を掛けることにした。
 挨拶は、簡単、手を上にあげてこう言うだけ。

「にょ!」

 女の子は、何にも反応しない。
 ただ無心で、砂場で砂山を作っている。

 私は、もう一度声を掛けた。

「にょ!」

 すると、女の子は私の目を見ながら首をかしげた。
すると女の子が、地面に指で、文字を書いた。

【わたしこえがでないの】

 私は、コクリと頷くと同じように文字を書いた。
 わたしは、にょしかいえない。

 ひらがなはある程度読み書きは出来る。

 ママに将来使えないと困るからと、叩き込まれたからだ。

 勉強は苦手だったけど、初めて意思疎通が出来た事に私は喜んだ。
 音のない会話。
 声をあげれば皆避けて行く…

 でも、文字だけだったら会話が出来る。

【よろしくね】

 私がそう書くと港ちゃんは、にっこりと笑う。
 そして、震えながら文字を書いた。

【ともだちになってくれる?】

 私は、コクリと頷き、港ちゃんの手を握った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...