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05 にょ
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しおりを挟む女の子は、ニッコリ笑うと私に軽く会釈をした。
私も、その女の子に軽く会釈をした。
「……」
女の子は、何も話さず私にスコップを貸してくれた。
「……」
何かを言いたそうだったけど、何も言わなかった。
私たちは無言で砂山を作った。
そんな私達の元に、博くんが現れた。
「俺も一緒に遊んでもいい?」
その女の子は、コクリと頷いた。
「コイツの名前は瞳。
病気で『にょ』しか話せないんだ。」
博くんは、そう言うと私の頭をくしゃりと撫でた。
女の子は、にっこりと微笑んだ。
「でな、瞳。
こいつの名前は、港。瞳より一つ上だよ。
ちょっと色々あって、声を出す事が出来ないんだ。」
港ちゃんは、コクリと頷き私の前に手をそっと出した。
私は、その手を握る。
この人は、私と同じなんだ。
私と同じで言葉が話せないんだ。
少し安心した。
女の子は、私の袖をひっぱり、遊ぼうって目で訴えた。
私は、コクリと頷き、砂場の砂にスコップを入れた。
カシャリ。
砂場の砂は少し硬かった。
――次の日
話さなきゃ。
私また一人ぼっちになってしまう。
挨拶しなきゃ。
私は、一人で砂場で遊ぶ私と同じ歳位の女の子に声を掛けることにした。
挨拶は、簡単、手を上にあげてこう言うだけ。
「にょ!」
女の子は、何にも反応しない。
ただ無心で、砂場で砂山を作っている。
私は、もう一度声を掛けた。
「にょ!」
すると、女の子は私の目を見ながら首をかしげた。
すると女の子が、地面に指で、文字を書いた。
【わたしこえがでないの】
私は、コクリと頷くと同じように文字を書いた。
わたしは、にょしかいえない。
ひらがなはある程度読み書きは出来る。
ママに将来使えないと困るからと、叩き込まれたからだ。
勉強は苦手だったけど、初めて意思疎通が出来た事に私は喜んだ。
音のない会話。
声をあげれば皆避けて行く…
でも、文字だけだったら会話が出来る。
【よろしくね】
私がそう書くと港ちゃんは、にっこりと笑う。
そして、震えながら文字を書いた。
【ともだちになってくれる?】
私は、コクリと頷き、港ちゃんの手を握った。
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