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08 いちごみるく
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しおりを挟む「田中?ってもしかして太郎君と?」
「そそ、結婚したよ」
「そっか」
軽く失恋した気分になった。
でも、太郎君か。
なんとなくわかる気がする。
「でで?なにたべる?」
「じゃオムライス」
「了解!」
萌ちゃんは嬉しそうに笑うとカウンターのキッチンで手を洗う。
「ちゃちゃっと作るね。
って、あ。痛ッ」
萌ちゃんが目を細め胸を抑える。
「胸どうかしたの?」
それを聞いた萌ちゃんが苦笑いで言葉を返した。
「なんか胸の付け根にしこりができちゃって……」
私はこのとき嫌な予感がした。
「少し触ってもいい?」
私がそう尋ねると萌は静かに頷いた。
「えー!えっち!」
「いや、そうじゃなく……」
「知ってるよ。
田茂くんお医者さんだもんね」
「うん」
私は、萌ちゃんの胸のしこりの部分を触った。
そこには小石のような硬いものがあった。
「なにかわかった?」
萌ちゃんが心配そうな声でそう尋ねた。
私は医者だ。
でも……
「詳細はなんとも言えない。
早めに病院で精密検査をしたほうがいいよ?」
私はそういうことしか言えなかった。
「じゃ、時間があるときに行くー」
萌ちゃんが苦笑いを浮かべそう言った。
しかし、萌ちゃんが私の病院に来たのはそれから一ヶ月が過ぎようとしたころ。
そして、そのときの萌ちゃんの検査結果は最悪だった。
結果は、乳がん。
しかも長期に渡り放置していたのと若さからがんの進行はかなり悪化していた。
余命が僅かなことは、萌ちゃんの夫の太郎と萌ちゃんの両親に伝えた。
萌ちゃんの担当は私がすることになった。
そして、入院当日。
「ベッドふわふわー」
萌ちゃんは、今年で36歳。
まるで子どものようにベッドの上できゃっきゃとはしゃいでいる。
「田茂くん!」
萌ちゃんが不意に私の名前を呼ぶ。
「何どうしたの?」
私の心配を他所に萌ちゃんは楽しそうに言う。
「病院のベッド気持ちいいね!」
萌ちゃんはそんなことを言いながら枕に顔を埋める。
「ちょっといつになっても子ども過ぎない?」
副担当医の銘さんがそういうと萌ちゃんが口を尖らせる。
「なによー。
貴方たちできてるの?」
「たまたまよ」
銘さんがそういった。
なぜなら銘さんとその双子の妹の千春さん。
そして太郎君と萌と私。
みんなひっくるめて幼馴染なんだから……
運命とは凄いものだ。
「さぁ、着替えるから太郎君とふたりきりにさせて?」
「はいはい、おじゃま虫は出ますよーだ」
銘さんがそういって私の背中位を押した。
病室には萌ちゃんと太郎君のみが残った。
すると病室からすすり泣く声が聞こえた。
私はすぐに病室に戻り「大丈夫」と言って抱きしめてあげたかった。
でも、萌ちゃんが抱きしめてほしいのは私じゃない。
萌はこのあとすぐに手術が待っている。
太郎が病室の中でぎゅっと萌を抱きしめているのであろう。
「太郎君。
私、怖いよ」
萌ちゃんの声が聞える。
それはきっと心の底から信頼できる人に見せることができる弱さだと思う。
「絶対手術成功させてね」
千春さんが真剣な目でそう言った。
「全力で頑張る」
私がそういうと白衣を弱々しく引っ張る何かを感じた。
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