不老に剣士

はらぺこおねこ。

文字の大きさ
上 下
90 / 223
Scene05 死を忘れるもの

91 猫の子13

しおりを挟む
オーシャンブルーに光輝く海。
そこに一本の血みどろの腕が流れ着きました。

フェニーチェは、そのギョロの村に調査に来ていました。
ハデスから貰った偵察の仕事にきました。
しかし、村に人の気配はありません。

冷たい空気。
そして塩っぽい臭いが立ち込めています。
海辺だからかフェニーチェは、そんなに気にてはいませんでした。

「情報収集の基本は酒場やで!
街に着いたら、真っ先に酒場に行きや!」

ハデスが言われたその言葉を頭に浮かべフェニーチェは、酒場へと向かったのです。
酒場は、外とは違い活気がありました。
フェニーチェが、入ると一瞬で静かになります。
フェニーチェは、静かにカウンターに座りました。

カウンターに立っていたのは若い20代前半の若い女性。
女性はフェニーチェに近づきゆったりとした口調で言葉を言います。。

「なにになさいますか?」

「えっと……
じゃ、ミルクをひとつ」

「旅の方ですか?」

「まぁ、そんなところです」

女性は、フェニーチェの体を舐めるように見ます。

「私の名前は、ディジーです。
貴方はもしかして剣士さんですか?」

ディジーは、フェニーチェの腰に収められている狂音の方を見てそういいます。

「んー。
剣士と言うか騎士です
装備とか見ると騎士っぽくないですよね」

フェニーチェがそう言うとディジーが笑います。
狂音が小さな声でフェニーチェにいいます。

「フェニ……
この子……」

狂音がそう言うとフェニーチェがうなずきます。

「はい。
この人からは、人の血の匂いがしますね……」

「あら?気づいちゃった?
騎士様のお肉、美味しそうね!」

ディジーは、ニヤリと笑うとナイフでフェニーチェに襲いかかります。
フェニーチェは、そのナイフを避けます。
狂音が、叫び声をあげます。

「あ……?」

ディジーの体から力が抜けます。
その声に腰を抜かしました。

「馳走だ……
俺、あの女喰ってみたかったんだ……
お前はどうだ?」

酒場の客のひとりが、そう言うと他の男が立ち上がります。

「そうだな。
俺も喰ってみたかった……
強いし喰われるの怖いし、でも今は腰を抜かして動けねぇ」

男たちの意味不明の言葉にフェニーチェは、戸惑います。
男たちは一斉にナイフを取り出し構えます。
フェニーチェも狂音を構えます
しかし、男たちが襲ったのはフェニーチェにではなく、ディジーでした。

ディジーが、悲鳴をあげます。

「アンタたち何を……」

ディジーが、抵抗するも腰が抜けて力が入りません。

「俺たちは、お前を喰うことに決めた。
賞味期限が切れる前にお前を喰らう。
若い女の肉は柔らかくて美味いんだ。
お前も知っているだろう?」

男のひとりが、そう言ってディジーに斬りかかりました。。
フェニーチェは、見てられなかったのか狂音で男たちに剣圧を当てました。

「フェニどういうつもり?」

狂音が、小さな声で尋ねます。

「目の前で困っている人がいたら助ける……
なんとなくですが、そうしなくちゃいけない気がするんです」

フェニーチェの答えに狂音が、小さく笑いました。

「いいわ。
それも青春よ!
か弱い女の子を護るのもナイトの仕事よ!
ガツンと決めなさいな!」

「はい!」

フェニーチェは、大きくうなずくと男たちを狂音で峰打ちにしていきます。

「ぐ……」

男たちがうめき声をあげてその場に倒れました。
するとディジーが、ゆっくりとフェニーチェに近づきます。

「あの、ありがとう」

「いえいえ」

フェニーチェが、小さく笑う。

「アンタいいやつだから教えてあげる。
この村は、人を襲い金品を奪って人肉を食べて生活しているの。
だから、ここから早く逃げたほうが――」

ディジーが、そこまで言ったとき目を丸くさせて驚く。

「どうしたのですか?」

「どうして貴方が……」

ディジーが、視線を移す場所。
フェニーチェの後ろには、大きな斧を持ったオークがいました。
気配を隠していました。
強いものほど気配を隠すのが上手い。
それは、フェニーチェにもわかっていました。

「フェニ……
後ろに……」

「はい……
でも、振り返れば殺されますね……
悔しいけれど後ろのオークには僕は勝てそうもないです」

「わかっているようだな。
なら楽に……」

オークが、斧を振り上げたその瞬間。
赤い波動がオークにぶつかります。

「赤の魔導砲だよ。
君がいかに強くてもこの砲弾に当たれば魔力はガンガン削られるよ」

フェニーチェは、その隙を狙って大きくその場から離れた。

「貴方は?」

狂音が、そう言うと少年が答えます。

「僕は13。それ以上でもそれ以下でもないさ」

「そうですか。。
僕はフェニーチェ」

フェニーチェは優しく笑いながら言いました。

「え?フェニーチェって名前なの?」

13の言葉にフェニーチェが驚きます。

「もしかして僕の知り合いですか?」

「え?」

フェニーチェの言葉に13は驚きます。

「ごめんね。
この子、記憶喪失みたいで……」

狂音がフェニーチェの代わりに謝ります。

「そっか……
まぁ、それぞれ事情があるからね。
仕方がないか……
僕の名前は、13。
新しく覚えてね」

13が、そう言って簡単に自己紹介をしました。

「そう、僕はフェニーチェ。
失った武器と記憶を探しているんです。
よろしくおねがいしますね」

フェニーチェがニッコリと笑います。

「猫は美味くないから喰わずに殺してやろう」

オークが、そう言って斧を13に向けて投げます。

しおりを挟む

処理中です...