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必然な話

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私は、日がな一日彼の工房に出入りする様になった。
蔵書の本を読んだり、余った生地で小物を作ったり、人形作りの作業を眺めたり。

筆談する私に、言葉少なく答える彼。
彼から話かけられるのも必要最低限。
父と同じで静かな人だったが、そこに張り詰めた空気はなく、居心地が良かった。

今は彼が作っているのは個人から注文を受けた実物大の関節人形。
作業台に置かれた白い手足を見る度に、我が家の女性達を思い出す。

彼はある日、父の作品を一点持ってると、小さなぐい飲みを見せてくれた。

あの釉薬の飛び具合、誰だったかな?
・・・あぁ百合子さんか、お久しぶり。

そんな静かな日々も必然の様に終わりを告げた。
今私は父に首を絞められている。

「お前も私を置いて行くのか。」

違うよ。

そう言ってあげたいけど、もとより出ない私の声は父に届く事はない。
あぁ、私も母と並ぶのね。
どんな作品になるのかしら・・。

ゴキリという、聞き慣れた音を耳にして、私は意識を手放した。

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