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番外編 高志くんの甘い災難
中心の傷
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イブサイド
あたしは、いつの間にかいつもの、ベッドに組み敷かれていた。
彼がワンピースの中で下腹部から腰あたりまで手を差し入れて、あたしの肌を優しく撫でている。
「ねえ………イブお願い。見せて」
「や、やだ!みっともないから」
「え?」
「だって、高志くん、最初の日に急いで服、着せたじゃない。ヒョロヒョロでガリガリの身体、見たくなかったからでしょ。………やだ。見せない!」
「ち、違うよ。そうじゃない」
「?違うの?」
「ええと、何て説明したら良いんだろう。………身体はね。見せないんだ。普段は。キスと同じで。好きな人にしか見せたら駄目なんだよ。勝手に見ても駄目。………特に君みたいな子供の身体は、無条件で見たら駄目なんだ」
彼はワンピースから、手を引いた。あたしからも離れてベッドの端に腰掛けた。
「触るのも駄目なんだよ」
現実の彼が最近良く見せる一歩ひいたような、そばにいるのに何処か遠くに感じる笑顔を浮かべた。
「何故だろう。そんな事も忘れてた」
自分にビックリしたという様子で、彼はそう言った。
「ここが夢だから。夢は、やりたい事が優先されるからだよ」
「やりたい事。ボクは、イブの身体を………………」
そこで彼の言葉が戸惑うように途切れた。
「ろりこんだから?」
「え?ろりこん?ああ、ロリコン。よく知ってたね。そんな言葉」
クスクス、彼が笑った。
「そんな趣味なかったんだけど」
「あたし、子供じゃないよ。サキュバスだもの。それにろりこんでも良いと思う。夢だし」
「夢の中のイブって自由で面白いねえ。ボクの願望だからかな。正直ロリコンは勘弁して欲しいんだけどね。なんでこんな夢見ちゃうんだか」
現実のあたしも、夢のあたしもおんなじなんだけどな。
「ねえ、さくらぎたかし………じゃなかった、高志くんも裸になるなら、あたしも裸になっても良い」
彼の裸って実は見た事無い。「頂きます」は、スピード命なのでいつも部分的にしか脱がさない。
好きな人にだけ見せるのなら見たい。ぜひ。
「ええ!ボクの身体なんか見る程のものじゃないよ」
「じゃ、あたしも同じだし脱がない」
「………それはいいよ。ボクさっき少し、おかしくなってたみたいだ。でも、イブって最初に会った時には裸でも平気そうだったのにね」
「それはそれ、これはこれ」
あたしは、自分の身体が色気も素っ気もないので気に入らない。
特に、例の人間の交尾の履歴画像を見てから、彼に身体を見られたくないと思うようになった。
それにろりこんは犯罪らしいし。あたしは良いけど彼が困るんじゃないかと気にかかる。
夢の中でも気にしてるくらい繊細だし。
ああ、早く、成体になりたい。
あの画像など消し飛ぶくらいのナイスバディになってやるのに!
でも、それには魔力が沢山、必要だ。
どのみち、さくらぎたかしの身体をキチンと治さなければ、彼は現実でも夢でも履歴画像のような激しい運動は出来ない。
だから、今は魔力を貯めるのが優先だ。
「本当に夢のイブは口が達者なんだから。ボクの身体なんか見るもんじゃないよ………傷があるんだ」
「傷?怪我の跡?」
「いや、心臓の手術の跡。身体を切って治療した跡が結構、大きく残ってるから、あまり見せたくない」
「それ、今も痛いの?」
「もう塞がってるから痛みは無いよ」
「なら見たい」
見せたくないところでも好きな人にだけ、見せるのなら見たい。
「ええ~」
「見~~た~~い~~!見~~~~る~~~~!」
「何なの、いったい。駄々っ子なの?」
「見る!見る!見せて~~~~!」
ジタバタしてみる。
「後悔しても知らないよ………」
はあ、と一つ息を吐いて、仕方無さそうに彼は後ろを向いて、モソモソ着ていたTシャツを脱いだ。
Tシャツを脱いで片手に持ったまま、ゆっくり振り返る。
胸の中央に真っ直ぐ一本傷痕がある。
首から、少し下から20センチくらい皮膚の色が薄くなって再生した様子が見てとれる。
ここを切ったんだなぁ。痛かっただろうと切なくなる。
「頑張ったんだね。痛かったね」
そっと近づいて指先で触れた。
「!」
彼は、ビクッと身体を震わせた。
あたしは傷に顔を寄せて、そこに口付けた。
それからチロっと舐めて、上を見上げた。
「カッコいいよ。傷のあるオトコ」
「も、もう!変な事しないでよ」
彼も、この傷が気に入らないのだろうか。
私は好きだ。彼の一部だから。
彼も同じだろうか。
あたしが嫌いな、あたしの身体が好きだろうか。
サラサラとワンピースを消してゆく。
「みすぼらしくて、あまり見られたくないけど高志くんなら見ても良い」
「わ、いきなり脱がないで」
「高志くんも見せてくれたから」
「変なところで真面目だね。みすぼらしくないよ。綺麗で可愛い子供の身体だよ。きっとイブは特別綺麗なサキュバスになるよ」
「大人が良いよね。高志くんが驚くくらい綺麗になる予定なんだけど」
「………もうすぐ大人になれる?いつくらいになれそう?」
「………………まだ、分かんない。ガッカリした?」
「ううん、イブはイブだもの。ボクはどんなイブでも好きだよ。好きで困るくらい。大人になったら、ボクは捨てられてしまいそうだから心配」
「あ、あたしも好き!絶対、捨てないよ!何、言ってんの。馬鹿じゃないの」
人が、どれだけ頑張っているか知りもしないで。言って無いけど。
でも、完全に治る方法が見つからないのに、迂闊に言えない。
「抱き締めて良い?」
遠慮がちに彼が尋ねる。
ベッドに腰掛けたままの彼の首に両手を回して身体を預ける。
彼は上半身だけ裸で、あたしは全裸だ。
「良いよ」
長いワサワサした髪ごと抱き寄せられる。
素肌同士が触れ合って気持ちいい。
「君をいつまでも大人にしてあげられなくて、ごめん。そんなボクに寄り添ってくれて感謝してる。ずっとボクに力をくれているよね。食事もボクを気遣ってる。甲斐性無しの家畜でごめんね。わかってるけど、君を離せないボクを許して」
「何を言っているのか分かんないんだけど」
ほんとに分かんない。成体にならないのも、そばにいるのも、あたしの意思だ。確かに、力もあげてるし、食事も工夫してる、だって、彼を元気に健康にするのが一番の、あたしの生きる意味だから。
「かいしょうなしのかちく」に至っては意味がわからない。
甲斐性は確か頼りがいとかの意味だ。家畜は人間の為の動物だったと思う。まだまだ単語は完全じゃない。
頼りにならない人間の為の、いや、ここでは、サキュバスの為の動物。
「そんなんじゃない!あたしは、さくらぎたかしを元気にしたいだけなの!」
ああ、言ってしまった。夢の中だから忘れてしまうよね。
「ボクを?」
「うん、健康な身体にしたい。だから魔力を貯めてるの。でも方法が見つからないの。一日に何度も食べられて嫌だった?」
「………………そうだったんだ」
彼は、感慨深く呟いてから、そうっと片手で、あたしの頭を撫でた。
あたしは頷いた。
「君は、ボクの夢ではないんだね。君は、現実のイブなんだね」
あたしは、もう一度頷いた。
「だから、この夢には、いつも違和感があったんだ。夢魔って事か。もしかして、ここでも、ボクの身体を守ってる?」
また頷く。
「そうだったんだね。ボクが自分の事ばかり考えていた間、イブはボクの事、こんなに大切にしてくれてたのに何も知らなかった」
「言ってないし」
内緒でやって、成体になって、ビックリさせて、うんと喜ばせたかった。
「起きて忘れてしまってたら現実のボクにも教えてあげてよ。馬鹿だから色々悩んでるんだ」
「でも、まだ治す方法が見つからない」
「それでも知らないより、ずっと良い」
彼は優しく笑って、あたしの額にキスをした。
「約束だよ」
彼は、そう言って消えた。
キスされた額があったかくて、ああ、起きてしまったんだと、しばらくボーっとしてから気がついた。
あたしは、いつの間にかいつもの、ベッドに組み敷かれていた。
彼がワンピースの中で下腹部から腰あたりまで手を差し入れて、あたしの肌を優しく撫でている。
「ねえ………イブお願い。見せて」
「や、やだ!みっともないから」
「え?」
「だって、高志くん、最初の日に急いで服、着せたじゃない。ヒョロヒョロでガリガリの身体、見たくなかったからでしょ。………やだ。見せない!」
「ち、違うよ。そうじゃない」
「?違うの?」
「ええと、何て説明したら良いんだろう。………身体はね。見せないんだ。普段は。キスと同じで。好きな人にしか見せたら駄目なんだよ。勝手に見ても駄目。………特に君みたいな子供の身体は、無条件で見たら駄目なんだ」
彼はワンピースから、手を引いた。あたしからも離れてベッドの端に腰掛けた。
「触るのも駄目なんだよ」
現実の彼が最近良く見せる一歩ひいたような、そばにいるのに何処か遠くに感じる笑顔を浮かべた。
「何故だろう。そんな事も忘れてた」
自分にビックリしたという様子で、彼はそう言った。
「ここが夢だから。夢は、やりたい事が優先されるからだよ」
「やりたい事。ボクは、イブの身体を………………」
そこで彼の言葉が戸惑うように途切れた。
「ろりこんだから?」
「え?ろりこん?ああ、ロリコン。よく知ってたね。そんな言葉」
クスクス、彼が笑った。
「そんな趣味なかったんだけど」
「あたし、子供じゃないよ。サキュバスだもの。それにろりこんでも良いと思う。夢だし」
「夢の中のイブって自由で面白いねえ。ボクの願望だからかな。正直ロリコンは勘弁して欲しいんだけどね。なんでこんな夢見ちゃうんだか」
現実のあたしも、夢のあたしもおんなじなんだけどな。
「ねえ、さくらぎたかし………じゃなかった、高志くんも裸になるなら、あたしも裸になっても良い」
彼の裸って実は見た事無い。「頂きます」は、スピード命なのでいつも部分的にしか脱がさない。
好きな人にだけ見せるのなら見たい。ぜひ。
「ええ!ボクの身体なんか見る程のものじゃないよ」
「じゃ、あたしも同じだし脱がない」
「………それはいいよ。ボクさっき少し、おかしくなってたみたいだ。でも、イブって最初に会った時には裸でも平気そうだったのにね」
「それはそれ、これはこれ」
あたしは、自分の身体が色気も素っ気もないので気に入らない。
特に、例の人間の交尾の履歴画像を見てから、彼に身体を見られたくないと思うようになった。
それにろりこんは犯罪らしいし。あたしは良いけど彼が困るんじゃないかと気にかかる。
夢の中でも気にしてるくらい繊細だし。
ああ、早く、成体になりたい。
あの画像など消し飛ぶくらいのナイスバディになってやるのに!
でも、それには魔力が沢山、必要だ。
どのみち、さくらぎたかしの身体をキチンと治さなければ、彼は現実でも夢でも履歴画像のような激しい運動は出来ない。
だから、今は魔力を貯めるのが優先だ。
「本当に夢のイブは口が達者なんだから。ボクの身体なんか見るもんじゃないよ………傷があるんだ」
「傷?怪我の跡?」
「いや、心臓の手術の跡。身体を切って治療した跡が結構、大きく残ってるから、あまり見せたくない」
「それ、今も痛いの?」
「もう塞がってるから痛みは無いよ」
「なら見たい」
見せたくないところでも好きな人にだけ、見せるのなら見たい。
「ええ~」
「見~~た~~い~~!見~~~~る~~~~!」
「何なの、いったい。駄々っ子なの?」
「見る!見る!見せて~~~~!」
ジタバタしてみる。
「後悔しても知らないよ………」
はあ、と一つ息を吐いて、仕方無さそうに彼は後ろを向いて、モソモソ着ていたTシャツを脱いだ。
Tシャツを脱いで片手に持ったまま、ゆっくり振り返る。
胸の中央に真っ直ぐ一本傷痕がある。
首から、少し下から20センチくらい皮膚の色が薄くなって再生した様子が見てとれる。
ここを切ったんだなぁ。痛かっただろうと切なくなる。
「頑張ったんだね。痛かったね」
そっと近づいて指先で触れた。
「!」
彼は、ビクッと身体を震わせた。
あたしは傷に顔を寄せて、そこに口付けた。
それからチロっと舐めて、上を見上げた。
「カッコいいよ。傷のあるオトコ」
「も、もう!変な事しないでよ」
彼も、この傷が気に入らないのだろうか。
私は好きだ。彼の一部だから。
彼も同じだろうか。
あたしが嫌いな、あたしの身体が好きだろうか。
サラサラとワンピースを消してゆく。
「みすぼらしくて、あまり見られたくないけど高志くんなら見ても良い」
「わ、いきなり脱がないで」
「高志くんも見せてくれたから」
「変なところで真面目だね。みすぼらしくないよ。綺麗で可愛い子供の身体だよ。きっとイブは特別綺麗なサキュバスになるよ」
「大人が良いよね。高志くんが驚くくらい綺麗になる予定なんだけど」
「………もうすぐ大人になれる?いつくらいになれそう?」
「………………まだ、分かんない。ガッカリした?」
「ううん、イブはイブだもの。ボクはどんなイブでも好きだよ。好きで困るくらい。大人になったら、ボクは捨てられてしまいそうだから心配」
「あ、あたしも好き!絶対、捨てないよ!何、言ってんの。馬鹿じゃないの」
人が、どれだけ頑張っているか知りもしないで。言って無いけど。
でも、完全に治る方法が見つからないのに、迂闊に言えない。
「抱き締めて良い?」
遠慮がちに彼が尋ねる。
ベッドに腰掛けたままの彼の首に両手を回して身体を預ける。
彼は上半身だけ裸で、あたしは全裸だ。
「良いよ」
長いワサワサした髪ごと抱き寄せられる。
素肌同士が触れ合って気持ちいい。
「君をいつまでも大人にしてあげられなくて、ごめん。そんなボクに寄り添ってくれて感謝してる。ずっとボクに力をくれているよね。食事もボクを気遣ってる。甲斐性無しの家畜でごめんね。わかってるけど、君を離せないボクを許して」
「何を言っているのか分かんないんだけど」
ほんとに分かんない。成体にならないのも、そばにいるのも、あたしの意思だ。確かに、力もあげてるし、食事も工夫してる、だって、彼を元気に健康にするのが一番の、あたしの生きる意味だから。
「かいしょうなしのかちく」に至っては意味がわからない。
甲斐性は確か頼りがいとかの意味だ。家畜は人間の為の動物だったと思う。まだまだ単語は完全じゃない。
頼りにならない人間の為の、いや、ここでは、サキュバスの為の動物。
「そんなんじゃない!あたしは、さくらぎたかしを元気にしたいだけなの!」
ああ、言ってしまった。夢の中だから忘れてしまうよね。
「ボクを?」
「うん、健康な身体にしたい。だから魔力を貯めてるの。でも方法が見つからないの。一日に何度も食べられて嫌だった?」
「………………そうだったんだ」
彼は、感慨深く呟いてから、そうっと片手で、あたしの頭を撫でた。
あたしは頷いた。
「君は、ボクの夢ではないんだね。君は、現実のイブなんだね」
あたしは、もう一度頷いた。
「だから、この夢には、いつも違和感があったんだ。夢魔って事か。もしかして、ここでも、ボクの身体を守ってる?」
また頷く。
「そうだったんだね。ボクが自分の事ばかり考えていた間、イブはボクの事、こんなに大切にしてくれてたのに何も知らなかった」
「言ってないし」
内緒でやって、成体になって、ビックリさせて、うんと喜ばせたかった。
「起きて忘れてしまってたら現実のボクにも教えてあげてよ。馬鹿だから色々悩んでるんだ」
「でも、まだ治す方法が見つからない」
「それでも知らないより、ずっと良い」
彼は優しく笑って、あたしの額にキスをした。
「約束だよ」
彼は、そう言って消えた。
キスされた額があったかくて、ああ、起きてしまったんだと、しばらくボーっとしてから気がついた。
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