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彼と私の新しい関係

書庫にて

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書庫には先客がいた。レオと共に、ゆうきさんの家に現れた黒髪の絶世の美女、どこか人形のようにも見える精気を食べる事が出来ないと言っていた、不思議なサキュバス。ぼくの治療をしてくれた。確か名前は。


「サラ」

レオが本棚が並ぶ一画に置かれた重厚な造りの机の前で、座り心地の良さそうな洒落たデザインの椅子に腰掛けて調べものをしているサラの肩を抱き、頬に軽くキスを落とす。サラは無表情だ。2人は恋人同士だと、確かレオは言っていたように思うが、この温度差は何なのだろう。

「レオ様、お帰りなさいませ」

サラは優雅に立ち上がると深々と礼をする。そして隣りのぼくに気付くと、ぼくにも丁寧に礼をした。

「由希人さま、いらっしゃいませ」

美しいカラクリ人形みたいだな。

「お茶を、お持ちいたします」

スッと姿勢良く、歩き出したサラの肩を、レオがそっと押さえる。

「急いでいるんだ、サラ、君の意見も聞きたいし、ここに居て」

「はい。かしこまりました」

レオが、今迄の事を、かいつまんで説明する。サラは真剣な表情で、それを聞いていた。

「非常に不可思議な現象ですね。由希人さまと、ゆうきさまは、私の理解を超えた何かで強く繋がっているように見受けられました。以前、由希人さまが倒れられた時に、ゆうきさまが由希人さまの手を取られました。その時、人間と我々とでは起こらない魔力の流れを感じました」

「由希人くんも、ゆうきさんもお互いがお互いに何らかの影響力が、あるって事………で、いいのかな」

レオが首を傾げて、サラに尋ねる。

「はい。規則性も関係性も全く、分かりませんが、そうなると思われます」

「どうしたらいいのか。わかる?」

「今回のケースでしたら、理論的には、由希人さまの器を大きくすれば、ゆうきさまに魔力が流れ込む事はなくなるのではないでしょうか」

「器って、どうやったら大きくなるの?」

ぼくは、思わず尋ねた。

「一番、手っ取り早いのは相性がいい人との食事だね~」

「そしたら、また大量の精気が発生して今回と同じ事が起こるよ」

「それでは、大量の精気を発生させないように、食事される方法を考えられては?そうやって回数をこなせば、いずれ器は大きくなるでしょうし、余剰の魔力も生まれないはず」

サラが淡々と答える。

「つまり、今でもボロボロの切れかけてる理性に、さらに負荷をかけろって言ってるんだね。食事するなと言われた方がまだ楽かもしれない。生殺しを、ダラダラ続けろって事だよね」

思わず、弱音を吐きたくなる。

「良いじゃないか。好きな子と、適度に、いちゃいちゃ出来て。で、究極熟成の事は聞きたい?まだ、君、童貞、守ってるみたいだけど」

「もう、次から次から問題ばっかりで!ぼくは、今にも彼女に捨てられそうなのに、恋人にもしてもらってないし、熟成の話すら出来てないのに!あるかどうかも分からない話まで、頭が追いついていかないんだけど」


「そんなに上等のインキュバスに育ったのに、ゆうきちゃんの前では形無しだね~。でも、やる事やってるでしょう。最後まで出来てないだけで、もう、ほとんど一緒でしょ。何で恋人になれないのか、それが分からないよ」

「彼女は純粋に、ぼくの食事だと思っているから、だと思う。そこにぼくの想いが、ある事を認めてくれない」

「惚気にしか聞こえない。私なんか1日100回くらい愛を囁き続けてるけど、まだキスしかさせてくれない。ねえサラ」

「わ、わ、私を食べても糧には、なりません。本来なら私など消えなくてはならない存在です」

初めて、サラに表情が浮かぶ。頬に赤みが差して、驚くほど可愛らしい。

「コレだよ。どう思う?酷くない?」

そう言いながらも、レオは幸せそうだ。惚気は、そっちじゃないのか?しかし、あの手の早そうなレオがキスだけ。ぼくにすら、易々とアレコレやっておきながら、本当に好きな相手には、なかなか奥手なトコがあるのだろうか?

「一応、聞くだけ聞いておく。どうやったら「究極熟成」出来るの?」

「分からない」

「当人同士しか分からないみたいなんです。書庫をひっくり返して調べたのですが。おとぎ話のような「人間の少女と子供のインキュバスが出会いました。お互いに仲良くなりました。ある日、2人は不思議な力で種族の垣根を超えて、沢山の家族に囲まれ幸せに暮らしました」こんな記述だったり。後々の憂いの為に記述は控えるみたいな資料だったりで。お手上げです。お力になりたくて手を尽くしたのですが、この辺りは皆、その関係の書物と資料です」

はぁーーーっと脱力する。

「でも、このまま「熟成」を、ダラダラ続けるのはマズイでしょう?彼女、どんどん熟成が進んで危険になるのでは?」

「バックに蛇みたいなお前が、へばり付いているから大丈夫そうだが、注意するに越した事は無いな。サラや信頼の出来るサキュバスを何人か都合してあげよう。あと、由希人くん、私の仕事を手伝ってよ。給料も出すし、色々な術も教えてあげるよ」

「……願っても無い話だけど旨すぎる気もする。なんで、ぼく?」

「青田刈り」

「何それ?」

「将来有望と言う事です。このまま順調に成長されたら、強大な力を持ち、それを正しく使いこなす良い淫魔になれるかもしれません」

サラは、そう言って、ニッコリと笑った。彼女、笑うと劇的に華やかで温かい雰囲気の魅力的な女性になるな。ちょっとドキッとする。

「惚れるなよ。童貞のガキが」

レオが横から口を挟む。

「もう、ぼくの恋愛容量には、一杯一杯に1人の人が居座ってるんで」


そこまで、話した時に、ぼくの結界が揺れた。彼女が起きた。ぼくは2人に挨拶も忘れて、彼女の部屋の前に飛んだんだ。


「全ての鍵は彼女だろうね~」

「上手くいくと、よろしいですね。微笑ましいお二方で、いらっしゃいますから」


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