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戦争編

第18話

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5分ほど後、魚雷の脅威は消え去った。
幸運にも1本も当たらず。
セクザン帝国艦隊は陣形を立て直し砲撃を再開する。
現状は、セクザン帝国艦隊戦艦2隻、駆逐艦3隻、(1隻沈没)、大テリブン王国巡洋戦艦2隻、巡洋艦5隻、駆逐艦7隻、(1隻戦闘不能)である。


9時57分
転機はやってきた。
隠れていたセクザン帝国艦隊本隊が大テリブン王国艦隊の退路を塞ぐ形で現れたのだ。
セクザン帝国艦隊本隊の内訳は、戦艦5隻、巡洋艦5隻、駆逐艦10隻だった。
全艦が砲撃を開始した。
戦闘開始である。


「新たな敵艦隊発見!戦艦……5!」
「なにィ!双眼鏡を!……嵌められたな!これは……」
嵌められたと知った大テリブン王国艦隊の提督は判断が早かった。
「撤退だ!逃げるぞ!」
今現在の艦隊の位置関係は、大テリブン王国艦隊を中央とすると、右に新鋭戦艦の艦隊がおり、左下に新たな艦隊がいる形だった。
そして大テリブン王国へ帰るためには下が左に向かわなければいけなかった。
進路を塞がれている形だった。
提督が選んだ道はまっすぐ下に向かうことだった。


「全艦転舵し最大速力!両舷全速!艦列が乱れてもいい!まずは脱出だ!」
その命令を受けた大テリブン王国艦隊はみるみる速力をあげ脱出を図る。
しかしそれを阻止せんとセクザン帝国艦隊本隊が進路を阻むように動く、が、大テリブン王国艦隊の判断が早かったためT字有利にはならず下方向への同航戦となった。
もちろん新鋭戦艦の艦隊も追いかけ砲撃を加える。
本隊の戦艦は新鋭艦ではなく、積んでいる砲も30センチ砲と特段優れているものでもないが、5隻という圧倒的量によって非常に有利であった。

10時30分
巡洋戦艦『モルヴェン』は旗艦であり、攻撃が集中した。もうすでに大小合わせて25発の砲撃を受けており、上部構造物は艦橋を除き無傷なものはなかった。艦橋には強固な装甲が施されているがそれでも提督をヒヤヒヤさせた。
マストはポッキリと折れ、煙突はズタボロに穴が空き戦闘の苛烈さを表していた。
巡洋戦艦『エルムリッジ』は大小合わせて14発ほど攻撃をもらい、自身のもつ攻撃力が半分ほど失われていた。
第二砲塔のバーベットに砲弾が命中し砲弾の装填機構が損傷した。
これによって前方への攻撃力は一斉を失った。
現在、大テリブン王国艦隊の進行方向からしてセクザン帝国本隊は右上に存在し、大テリブン王国艦隊は前方への攻撃力を必要としているため『エルムリッジ』は戦闘能力を失ったと言っても過言ではない。
戦艦合計7隻の副砲群によって、大テリブン王国艦隊の巡洋艦と駆逐艦はダメージを受けていく。
それに加えてセクザン帝国本隊の巡洋艦と駆逐艦もそれぞれ巡洋艦と駆逐艦に照準を合わせる。
撃沈は時間の問題であった。


10時54分
大テリブン王国駆逐艦D-14とD-15が同時に撃沈する。
もともとかなりの損傷を受けていたことに加え戦闘の経過で照準がより正確になったことが要因だろう。
戦いの流れは変わらなかった。

11時2分
駆逐艦D-16撃沈

11時6分
駆逐艦D-17撃沈

11時10分
駆逐艦D-18、D-19撃沈。
これによって大テリブン王国艦隊の駆逐艦は全滅した。
巡洋艦は駆逐艦より耐久性があるため生き残っているが無傷な艦はいなかった。

戦艦同士の対決では変わらず大テリブン王国艦隊が不利であった。
7隻対2隻の戦いの結果は誰の目にも明らかだった。
11時23分
戦艦数隻の集中砲火を浴びながらも1時間以上戦闘能力を保った戦艦『モルヴェン』もついに限界を迎えた。
「……提督、もうこの艦はだめです。せめて脱出を」
「うっ……くそぅ、しかたあるまい、脱出し、エルムリッジの方にうつる」
ふと艦橋から『エルムリッジ』を見た提督が目にしたものは驚愕するものだった。
『エルムリッジ』が爆沈する瞬間だった。
『エルムリッジ』の非装甲部分はほぼ全て損傷しており、榴弾の火の手が上がり、その火が弾薬庫まで達したのだ。
これは防火扉を開けっぱなしで戦闘していた結果であった。
『エルムリッジ』は第一砲塔の弾薬庫に誘爆しその部位からへし折れるように急速に沈んでいった。
船首は持ち上がり90度上を向き、沈む。


それを目にした提督は判断を下した。
「旗を掲げて信号を送れ、各々全速力で撤退せよと、もはや足の遅い戦艦に合わせる必要はない。そして、総員退艦だ。この艦はおわりだ……」
新たに戦艦『モルヴェン』のマストに旗が上がり、光での信号も送られる。
それを受け取った巡洋艦5隻は増速し、速力を出せるだけ出した。
逃げようとする大テリブン王国艦隊の生き残りだったが、それを阻止せんとするセクザン帝国艦隊は全ての砲火を巡洋艦に集中する。
しかし、枷を解かれた巡洋艦は早く、相対的に10ノットは差があった。
どんどんと撤退に成功していく大テリブン王国艦隊だったが、不運はここで訪れた。
砲弾の一つが魚雷発射管に命中し誘爆し大爆発を起こしたのだ。
それを見た他の巡洋艦の乗員は魚雷を投下することに決定した。
どうせなら新鋭戦艦目掛けて撃ってやると、最大射程距離に魚雷を設定して発射した。
これは、後に大きく、しかし小さな出来事を引き起こすことになる。

12時15分
大テリブン王国艦隊は追撃を振り切った。
戦闘はこれで終わりだった。
カルペラント海戦、ここに終わる。
終始セクザン帝国側の作戦がうまくはまり、セクザン帝国の勝利であった。
喪失艦は、セクザン帝国が駆逐艦1隻、大テリブン王国が巡洋戦艦2隻、巡洋艦1隻、駆逐艦6隻。
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