めざメンター

そいるるま

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序章「仲間の集結」

序章 7

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加納かのうさん……それだけの情報で探せって言うつもりじゃないでしょうね。スカイツリーは地上どころか、飛行機の窓からも見えるんですよ!」

 せいは加納のおおざっぱな情報に呆れ返る。

「ごめん、ごめん。誠なら探せるかなぁと思って」
「僕は加納さんみたいなスーパーマンじゃないんですから。何か他に目印になるようなものはないんですか?」
「そう言えば、明歌めいかちゃんがスゴイ怪力だとか言ってたなぁ。──ってことは、柔道とか古武道みたいなものをやってる道場なのかな、この窓は……」

「何かわざとかかけてるのは見えませんか。格闘技ならどの種類なのか特定しないと」
 加納は脳裏にうっすらと見える映像を面白がっている。
「ああ、これはスゴイ。まるでアクション映画だ」
「先生、一人で楽しまないでくださいよ~」海里かいりが玄関の植木鉢を片付けながらふくれた。

「わかりましたか」誠が加納の顔を覗き込む。

「うん、たぶんあれだ」



 その翌日、誠は加納が示したヒントを手がかりに隼優しゅんゆうと接触するため、探索を始めた。

 スカイツリーが窓から見えるということは、墨田区周辺の道場かもしれない。

 そして、加納の透視映像に浮かび上がったのは、隼優が後ろ回し蹴りをしているイメージだった。あまりにも綺麗にきまっているので、加納には隼優がアクション俳優のように見えた。

 後ろ回し蹴り──と、なるとおそらく空手の道場である。一つ一つ、しらみつぶしに探すしかないな……と、誠は各道場に見学を申し込んだ。

「加納さんが本気出せば、場所なんかすぐ特定できるんだけどなぁ」と、誠はつぶやく。しかし、その本気というのは積み重ねるほど負担がかかる。本当は安易に使えない力であるはずなのに、バランスをとらない能力者が多い。


「これで三軒目かぁ、ここも人数多そうだな~」

 誠は一つの流派の本部と思われる会館へ入っていく。見学担当のスタッフに道場へ案内された。

 上級クラスにも関わらず、子供がいる。こんなちっこい時から才能発揮してどーすんだよ……と、自分の子供の頃と比較してつい妬みに似た感情が起こる。いかん、いかん、神童に嫉妬している場合ではない。

 あれ?──誠は大人数の中でひときわ目をひく青年を見つけた。しかも、他の弟子たちと全く身のこなしが違う。それも端正な顔立ちだ。

「……いやいや、まさかあいつじゃないだろう。いくらなんだって顔で空手はできないからな」

 誠は始め、加納から隼優を怪力だと聞いていたので、筋骨隆々の大男だと思っていたのである。

「それにしてもあいつ目立ってるな~。あんなケリ入れられたら間違いなく病院行きだ」誠は当初の目的を忘れてすっかりその青年を目で追っていた。

 しかし、青年の力はイマイチよくわからない。なぜかずっと1人で練習しているからだ。そばで練習している子供に教えたり、同じ年頃の者たちにもアドバイスしているようだが、講師のアシスタントでもしているのだろうか。

 他の弟子たちは組んでやっているのに、一体なんでだ? 誠には皆目見当がつかなかった。


 稽古が終わると、弟子たちは廊下に出て話し出す。すぐに更衣室へ行く者もいる。誠は大勢の弟子が廊下で話している間、軽く目を閉じ耳をすます。廊下にはざっと見積もっても二十人ほどいたが、全ての会話に集中した。気になる会話が聞こえてくる。

「おい、明日二限の経済学休むからノート貸してくれ」

「え? 俺も休みなんだ。明人あきひとに言えば」
「そうするかな……明歌の様子も聞きたいし」
「明歌ちゃんかぁ、難しい病気だもんなぁ。じゃ、隼優、またな!」誠が目で追っていた端正な顔立ちの青年が隼優だった。

──ビンゴ! なんだ、やっぱこいつか。僕って耳だけでなく、勘もいいのかも!容姿端麗だし、と誠は自分に酔い痴れつつ、隼優の後ろから声をかける。


「やぁ、隼優? くん」

 隼優は後ろを振り返った。

「誰? あんた。見学してたけど、ここに入るのか」隼優は誠の一般人とは思えないモデルのような出で立ちを見て訝しむ。

 誠は普段、華美な服装を加納に禁じられている。その日も上下とも無地で、地味な黒いジャケットを羽織っていた。それでも容姿の華やかさは隠しきれなかった。顔立ちも先祖がえりかと思うほど洋風だ。

「来るとこ間違えてるような気もするけどな」
「僕、君に興味があるんだ。この道場では強そうだね。お茶でもどう?」
「いや、俺あんたに興味ないから」
「ふーん、でも明歌ちゃんは気になるんだ」

 隼優の表情が緊張した。

「──あんた。何者だ」



 隼優と誠は道場に近い公園のベンチに座った。

「今、明歌ちゃんはうちに通って治療している。明人くんから聞いてるかい?」
「ああ……あのうさんくさいホームページの治療に行くか行かないか、さんざん迷ったあげく、行ってみたら予約の時間にぐーすか寝てたっていう不届きな先生があんた?」

 ひどい言われようだな……誠は加納をあわれんだ。

「いや、それは僕の上司なんだけどね。うちの事務所、男ばかりでたまに女性の手を借りたいと思っていたんだ。君、明歌ちゃんと一緒にうちでバイトしない?」
「俺はただでさえバイト掛け持ちで忙しいんだ。あんたたちの怪しげなビジネスにつきあっているヒマはない」
「でもさ、うちがたぶん一番時給いいよ。そのうちの一つのバイトを辞めてうちに来るってのはどう?」

「──なんで俺なんだ」

 誠は少し迷ったが、単刀直入に聞く。

「君、明歌ちゃんの変わった力を知ってる?」

 隼優の顔に再び緊張が走った。

「……知らないな」

「なんだ、知ってたのか」誠は隼優の声からわずかな動揺を感じとる。
「知らないって言ってるだろ!」
「悪いけど、僕の耳はちょっと変わっててさ、そういう嘘はわかっちゃうんだよね」

 隼優は誠の肩をつかみ、ものすごい形相で力を入れる。

「おまえら……明歌をどうするつもりだ」

 誠は隼優から後ずさる。

「ま、待て、待て! 君が本気出したら僕なんかひとたまりもないんだから」

 隼優はむっとしたまま誠の肩から手を離した。


「──明歌ちゃんに歌うの禁止したのって君?」
「禁止できるかよ。あれしかとりえがないのに」
「じゃあ、誰が──」

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