めざメンター

そいるるま

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第1章「明人の本音」

第1章 7

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「しかし今は、無理にでもお連れするしかない」

 フロランタンの背後に控えていた四人の男性が身構える。

「俺を倒してからにするんだな」隼優しゅんゆう明歌めいか明人あきひとの前に立ちふさがる。
「フフッ。──ミスタークラト。おまえもこの場所じゃ力を発揮しにくいだろう」

 そのリーダーは隼優のことをよく調べていた。スケート靴をはいていれば本来の力を発揮できないだろうと思い、少しはがあると考えていたのだ。
「さぁ、どうかな」

 せいは俺の着信に気づいただろう。大先生と警察のどちらが早く到着するかはわからないが、それまで時間を稼げばいい。せいぜい大暴れしてやるさ。

「──明人、明歌、下がっていろ」

 リーダー以外の男性のうち二人が隼優めがけて突進してきた。隼優は一瞬下にかがみこみ、リンクの特性を活かして二人の背後に滑り込んだ。隼優が消えたために前のめりによろけた一人の腕をつかみ、もう一人へ向かって投げ飛ばす。床が滑るせいで、二人とも遠くへ向かってボーリングの玉のように転がっていった。

 さすがにここまで来るともうリンクでは客が騒然と逃げていく。

 その間に、残りの二人が明歌の腕をつかみ、連れていこうとする。

「やめろ!頼むから明歌を連れていかないでくれ!」明人は屈強な体格をした男性に後ろからしがみつく。

「兄さん、私は大丈夫だから離れて!」
「明人!そいつらから離れろ!」

 明歌の腕をつかんでいた一人の男性が明人の腕をつかみ殴り飛ばす。その拍子に明人は右足をひねって転倒した。
「ぐぁっ!!」
「兄さん!」
 しゃがみこんだ明人の腕をつかみリンクの壁に叩きつける。明人はショックで気絶した。
 それを見て隼優は正気を失ってしまう。

「きさまら……」隼優は明人を気絶させた男性が今度は明人の頭をつかもうとしていたため、その男性に向かって体当たりし、普段なら手加減するところを力いっぱい殴りつけてしまった。
「隼優! だめ!!」

「──そこまでだ」

加納かのうさん……」明歌は加納がこんなに早く到着したことに驚く。
「うっ、動けない。なんだこれは」加納は明歌をつかんでいた男性の動きを催眠で止めた。

 明歌は男性の腕からするっと抜けると隼優に向かって走った。隼優に殴られた男性は転倒した後、リンクで気を失っていた。

「隼優、しっかりして」隼優は目が虚ろで明人に向かってふらふらと歩いている。

 加納は明人にかけよって抱きおこす。気を失ってはいるが、重傷ではないことが救いだ。

「──なんで私の忠告を聞かない。いや、今の君じゃ無理か……」
 海里かいりが駆け寄った。
「先生。警察が到着しました。救急車も来ましたから」
「そうか……」加納の顔に苦悩の表情が浮かんだ。


 明人は都内の総合病院に担ぎ込まれた。意識が回復せず、さまざまな検査が行われたが異常は見つからない。

「兄さん、起きてよ……」明歌は力のない声で明人に話しかける。
「明歌……」隼優は時間が経つにつれ正気を取り戻し、食事もろくにとらない明歌に寄り添っていた。

 明人が病院へ担ぎ込まれた日、鹿屋人志かのやひとし明乃あきのはすぐに病院へ駆けつけた。医者や警察から事情を一通り聞き終わると父の人志は「おのれ菓子屋め。菓子だけ売ってればいいものを余計な事に手を出しおって」と怒り心頭だ。結局、フロランタンがあれだけ説明したというのに、人志の中では魚屋から菓子屋へイメージが変換されただけのようだった。

 フロランタンは早々に姿を消していた。加納が到着した時にはもう姿が見えなかったため、監視員や近くで滑っていた客、あとは隼優と明歌の証言からしか追跡する方法がない。


 隼優は人志に頭を下げた。

「親父さん……俺がついていながらこんなことになってすみません」

 人志は隼優の右手をとった。隼優の右手は包帯でぐるぐる巻きになっている。

「ひどいケガをしたな。殴りすぎだ」
「はい。でも……」
「──隼優。おまえが無事で本当によかった。そんなに心配するな。明人は大丈夫だ」

「隼優。あなたにお願いがあるの。この病院の近くにホテルがあるのよ。そこに泊まってしばらくここへ通ってもらえないかしら。明歌は私たちよりもあなたの言うことなら聞くから」明乃はホテルの鍵を渡そうとする。
「おばさん、俺はホテルなんて行かないよ。どうせ明歌はここから動かない。俺も明人が目覚めるまでここにいたいから」
「ダメよ、隼優。明人はすぐには目を覚ましません」
「──え?」隼優は一瞬面食らう。その予感は親の勘とかいうやつか?
「あの子はいったん眠るとそう簡単には起きない子だって知ってるでしょう。三つ子の魂は変わらないんだから。長丁場を覚悟してちょうだい。今日は私たちが明人を見ているから、あの子をホテルへ連れてって」

 い、いやちょっと待て。いくら幼なじみだからって、娘をホテルへ連れていけ、はないだろう。隼優は頭を抱える。


「……で、なんで僕?」海里は先にホテルのロビーで待っていた。

 隼優は明歌を何とか説得し病院から連れ出して海里と合流した。その後、ホテルの部屋へ三人で入る。さすがに明歌も疲れ果て、先に眠ってしまった。

「おまえが一番安全そうだからな」
「ちぇっ、隼優は誠を誤解してるよ。弱ってる女の子に手なんか出さないんだからさ~ほとんどの場合、女の子の方が誠に寄ってくるんだ。明歌ちゃんは誠に関心なんかないから、そんな心配ないだろ」
「……そんなことはないさ。明歌は確かに今まであまり男に関心を示さなかった」

 そりゃあ、おまえが四六時中そばにいたからだろ、と海里は心の中で隼優につっこみを入れる。

「でも、最近は大先生やおまえらの事ばっか話に出てくる。よっぽど楽しいんだろう。誰かが言い寄ったら明歌だってわからないさ」
「ええ~そうかなぁ」海里が照れる。
「おまえが一番確率低そうだけどな」
「──隼優。僕に帰ってほしいの、いてほしいの!?」海里は隼優の皮肉に腹を立てた。

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