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未来に向かって
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「お先に失礼します。お疲れ様でした。」
「「お疲れ様」」
(あ、そうだ)帰りかけた私は、フロアを出る前に部長に声を掛けた。
「部長、明日はお休みの所、お邪魔してしまってすみませんが、よろしくお願いします。」
「ああ、いいよ、待ってる。」
日報を書いていた秋元君が、驚いて顔を上げたので、先回りして答えた。
「部長の奥さんと約束してるの。」
秋元君は、大袈裟に肩を落として息を吐いた。
「ふーっ、びっくりしたよ。課長と別れたかと思った。」
「もう、そんな訳ないじゃない。それに、部長と奥さんは本当に仲良しなんだからね。部長に失礼だってば。」
「いや、でも、さっきの会話は驚くって」
「それもそうだよね、言葉に気をつけないとダメよね。驚かせちゃってごめんなさい!…では、本当にこれでお先に失礼します!」
「「お疲れ様」」
私は、熱中症もどきで具合が悪くなり部長夫婦に助けて貰ったのをきっかけに、部長の奥さんの翔子さんと仲良くなった。
お礼のチョコレートを渡した時、そのチョコレートの銘柄が翔子さんのイチオシのものだった事で、話してみると、私達は実に好みがかぶっていた。食の好みだけでなく、身に付ける物まで。
そして、お料理の話から、トントン拍子に、翔子さんにお料理を教えて貰う事になった、という訳だ。
勿論、こういうちょっとした事も、朋輝とは報告し合っている。それは朋輝も同じだ。
だから、もしもお互いに重大で深刻な事態が起きたら、その時はすぐに駆けつけてお互いの力になろう、とも話し合っていた。"一ヶ月に一度"というのは、ダラダラの関係にならない為のけじめみたいなもので、苦しい足枷になってはいけないと、意見も一致していた。
まあ、結局の所、私が早く良い奥さんになれるスキルを身に付ける事が鍵なのだ。
─────
「はぁ~、良い奥さんになれるのはまだ大分先の事になりそうです~~。我ながら手際が悪すぎますねぇ。」
やっと夕食の準備ができたのは、夜7時だった。結構早いじゃないかって?…準備を始めたのは夕方4時からだったので、まる3時間かかってます、はい。
「美都ちゃん、最初から手早く出来てたら、習う必要ないでしょう?ふふ、上出来よ。」
「翔子さん、ありがとうございました。家で一人で復習しておきます~。」
「熱心ねぇ………。まあ、愛しのダーリンが新婚生活の奥さんの手料理を待ちわびてるから、仕方ないわね。」
「…翔子さん、部長と似てますね」
「ふふふ、今日は5人分のお料理、お疲れ様でした。皆でお夕食にしましょう。」
「はい、ご馳走になります。」
───
部長の家族4人と、夕食をご一緒して、やっぱり家族っていいなぁ~としみじみ思えた。いつも作るのは、一人分か、せいぜい二人分で、5人分のお料理は大変だったけど、やっぱり楽しい。高校2年の男の子と、中学2年の女の子は、二人ともよく食べる食べる。単純に5人分というより6、7人分あったような気もする。
「今日は、一家団欒の所へお邪魔してしまいましたが、快く迎えてくださって、どうもありがとうございました。とても美味しかったですし、とても楽しかったです。」
「こちらこそ、いつもに増して賑やかで、美味しく楽しく頂いたよ。また、いつでも歓迎だからね。」
「部長は幸せですね。可愛いお子さんが二人もいて、美味しい料理を作ってくれる奥さんがいて。」
「鈴原さんだってすぐにそんな家庭が持てるじゃないか?愛しのダーリンと。」
「部長~、さっきの会話聞いてましたねー?」
「ははは、聞いてたんじゃないよ、聞こえたんだよ。」と部長は笑った。
「お父さん、からかっちゃ可哀想だよ。」
と、妹の瑠菜ちゃんが助け船を出してくれた。
「そっかそっか、じゃあ、お父さんは駅まで送ってくるからな。」
「「「お姉さん(美都ちゃん)、また(来て)ね」」」
「ありがとう、またね」
一家に挨拶して、部長と二人、駅まで歩いた。
「鈴原さん、勉強熱心な所は長所だし美点だけど、すぐにでも結婚してしまっても、私はいいと思うよ。」
「部長………。」
「妻の翔子だって、今はああだけど、結婚当初は家事全般、全然だったんだよ?」
「え?そうだったんですか?」
「ちゃんと完璧になんて、杉崎だって望んでないさ。ちょっとおとぼけの可愛い鈴原さんに夢中だよ。」
「……部長、ディスってます?」
「距離を置くなんて必要ないって事。」
「部長は何でもお見通しって事ですか」
「会いたければ、毎日会ったっていいんだよ。鈴原さんは駄目にはならない。杉崎に甘やかされて来いって言ってるんだよ。」
「………部長………。」
「うわ、そんな目で見るのはやめてくれ、慰めてやりたくなるだろう?杉崎に殺されたくないからな。」
「部長、ありがとうございます。なんだか、とても課長に会いたくなりました。」
「うん、二人は大丈夫だ」
ちょうど、駅に着いたので、浮かんだ涙をこらえて部長に「送って頂きありがとうございました」とお礼を言って別れた。
部長に心の奥を刺激されて、朋輝を恋しく思う気持ちが溢れてきた。
(会いたければ、会えばいい)………か………。
長年生きてる人の言葉は深いな。
………長年は失礼か…?と一人ツッコミを入れる私だった。
「「お疲れ様」」
(あ、そうだ)帰りかけた私は、フロアを出る前に部長に声を掛けた。
「部長、明日はお休みの所、お邪魔してしまってすみませんが、よろしくお願いします。」
「ああ、いいよ、待ってる。」
日報を書いていた秋元君が、驚いて顔を上げたので、先回りして答えた。
「部長の奥さんと約束してるの。」
秋元君は、大袈裟に肩を落として息を吐いた。
「ふーっ、びっくりしたよ。課長と別れたかと思った。」
「もう、そんな訳ないじゃない。それに、部長と奥さんは本当に仲良しなんだからね。部長に失礼だってば。」
「いや、でも、さっきの会話は驚くって」
「それもそうだよね、言葉に気をつけないとダメよね。驚かせちゃってごめんなさい!…では、本当にこれでお先に失礼します!」
「「お疲れ様」」
私は、熱中症もどきで具合が悪くなり部長夫婦に助けて貰ったのをきっかけに、部長の奥さんの翔子さんと仲良くなった。
お礼のチョコレートを渡した時、そのチョコレートの銘柄が翔子さんのイチオシのものだった事で、話してみると、私達は実に好みがかぶっていた。食の好みだけでなく、身に付ける物まで。
そして、お料理の話から、トントン拍子に、翔子さんにお料理を教えて貰う事になった、という訳だ。
勿論、こういうちょっとした事も、朋輝とは報告し合っている。それは朋輝も同じだ。
だから、もしもお互いに重大で深刻な事態が起きたら、その時はすぐに駆けつけてお互いの力になろう、とも話し合っていた。"一ヶ月に一度"というのは、ダラダラの関係にならない為のけじめみたいなもので、苦しい足枷になってはいけないと、意見も一致していた。
まあ、結局の所、私が早く良い奥さんになれるスキルを身に付ける事が鍵なのだ。
─────
「はぁ~、良い奥さんになれるのはまだ大分先の事になりそうです~~。我ながら手際が悪すぎますねぇ。」
やっと夕食の準備ができたのは、夜7時だった。結構早いじゃないかって?…準備を始めたのは夕方4時からだったので、まる3時間かかってます、はい。
「美都ちゃん、最初から手早く出来てたら、習う必要ないでしょう?ふふ、上出来よ。」
「翔子さん、ありがとうございました。家で一人で復習しておきます~。」
「熱心ねぇ………。まあ、愛しのダーリンが新婚生活の奥さんの手料理を待ちわびてるから、仕方ないわね。」
「…翔子さん、部長と似てますね」
「ふふふ、今日は5人分のお料理、お疲れ様でした。皆でお夕食にしましょう。」
「はい、ご馳走になります。」
───
部長の家族4人と、夕食をご一緒して、やっぱり家族っていいなぁ~としみじみ思えた。いつも作るのは、一人分か、せいぜい二人分で、5人分のお料理は大変だったけど、やっぱり楽しい。高校2年の男の子と、中学2年の女の子は、二人ともよく食べる食べる。単純に5人分というより6、7人分あったような気もする。
「今日は、一家団欒の所へお邪魔してしまいましたが、快く迎えてくださって、どうもありがとうございました。とても美味しかったですし、とても楽しかったです。」
「こちらこそ、いつもに増して賑やかで、美味しく楽しく頂いたよ。また、いつでも歓迎だからね。」
「部長は幸せですね。可愛いお子さんが二人もいて、美味しい料理を作ってくれる奥さんがいて。」
「鈴原さんだってすぐにそんな家庭が持てるじゃないか?愛しのダーリンと。」
「部長~、さっきの会話聞いてましたねー?」
「ははは、聞いてたんじゃないよ、聞こえたんだよ。」と部長は笑った。
「お父さん、からかっちゃ可哀想だよ。」
と、妹の瑠菜ちゃんが助け船を出してくれた。
「そっかそっか、じゃあ、お父さんは駅まで送ってくるからな。」
「「「お姉さん(美都ちゃん)、また(来て)ね」」」
「ありがとう、またね」
一家に挨拶して、部長と二人、駅まで歩いた。
「鈴原さん、勉強熱心な所は長所だし美点だけど、すぐにでも結婚してしまっても、私はいいと思うよ。」
「部長………。」
「妻の翔子だって、今はああだけど、結婚当初は家事全般、全然だったんだよ?」
「え?そうだったんですか?」
「ちゃんと完璧になんて、杉崎だって望んでないさ。ちょっとおとぼけの可愛い鈴原さんに夢中だよ。」
「……部長、ディスってます?」
「距離を置くなんて必要ないって事。」
「部長は何でもお見通しって事ですか」
「会いたければ、毎日会ったっていいんだよ。鈴原さんは駄目にはならない。杉崎に甘やかされて来いって言ってるんだよ。」
「………部長………。」
「うわ、そんな目で見るのはやめてくれ、慰めてやりたくなるだろう?杉崎に殺されたくないからな。」
「部長、ありがとうございます。なんだか、とても課長に会いたくなりました。」
「うん、二人は大丈夫だ」
ちょうど、駅に着いたので、浮かんだ涙をこらえて部長に「送って頂きありがとうございました」とお礼を言って別れた。
部長に心の奥を刺激されて、朋輝を恋しく思う気持ちが溢れてきた。
(会いたければ、会えばいい)………か………。
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………長年は失礼か…?と一人ツッコミを入れる私だった。
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