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「こちらがステージAのスケジュール表です。時間厳守ですから、遅れないようにお集まり下さい。その時にも説明しますが、前もってご自身で注意事項等をよくお読み下さい。」
「わかりました。」
受付で貰った案内に、ざっと目を通すと、私達とは別のステージBの出演者の欄に、聞いた事のある名前があった。
「ねぇ亜美、この『snow-boys』って、たしか子どもの頃に流行ったアニメ『ツーピース』の主題歌を歌っていたバンドじゃない?」
「そうそう、アニメに疎いひよりでもさすがに知ってるよね。バンドメンバー全員が地元出身だから、今日は友情出演でライブやってくれるみたいだよ。それに、ここに載っているイケメンカメラマンの西島貴男さんも地元出身なんだって。ここに、当日のグランプリの人の写真を撮ってくれるって書いてあるよ。副賞の一つにしては豪華だよね?一生の記念になるやつじゃんね。」
「うん、西島貴男さんは有名な写真家だもん。実を言うと、私は写真を見るのが趣味だから、写真家の西島さんが地元出身って事も当然知ってたの。でも、いくら地元出身とはいえ、これほど有名な人達が来るなんて、思ってたよりずっと大きなイベントなんだね。」
「うん、コスプレコンテストの他、グッズの販売とか、ゲームの対戦とか、キャラクターのショーとか盛り沢山だから、ゲーム・アニメファンには堪らないイベントだよ。それでさ、ものは相談なんだけど。ひよりの順番は後の方だから、最初の頃は私一人で他のところ見て来てもいいかな?」
「もちろんいいよ。私はこのまま控室に行くから。あと、私、帰りにこの近くで買いたい物とかあるし、ステージ見てくれたらそのまま現地解散でいいから。せっかくの機会だから、亜美も買い物とかあるだろうし、フェス、思う存分楽しんで?」
「え、いいの?」
「うん、そうして。帰る時、私もLINE送るからね。」
「ひより、ありがとう。これ、今日のバイト代。お礼は後で改めてするからね。」
「お礼なんていいから。これだけ貰うね。充分過ぎるくらいだよ。」
「ううん、本当に助かったし。それに、私の作ったコスチュームでこんなに素敵に完璧に変身してくれて、製作者として鼻が高いよ。ひよりの順番が楽しみだわ。」
「亜美ってば、オーバーね。それより、グッズとか買い物あるんでしょう?なくなっちゃうよ?ほら、行ってきなよ。」
「うん、そうだね。ありがとう、行ってくるね。私も帰る時にLINE送るから。気楽にステージ楽しんでね。ひより、本当に今日はありがとうね。」
「うん、ありがとう。亜美も買い物楽しんで来て。」
私達は、お互いにバイバイと手を振ってここで別れた。
さっき私は、「この近くで買いたい物がある」と亜美に言ったけど、本当はそんなものはなかった。
少し一人で見てみたい場所があった。
───それは。
写真家西島さんのブースだ。
写真家の「西島貴男」さんは、私の尊敬する憧れの人だ。だから、その名前を見つけた時は、興奮で胸がドキドキと高鳴るのを感じた。
・・・
私は、自分で写真を撮る事は苦手だけれど、写真を見るのは大好きで、好みの写真展があれば見に行っていたし、風景や人物問わず好きな写真集を見つけた時は購入する事もあった。
ある日書店で、手にとった1冊の写真集の表紙の写真に惹きつけられた。無名の写真家のようだったがすぐさま購入した。
家に帰って写真集を開くと、1枚1枚魂を揺さぶられるような、胸がかぁっと熱くなるような感覚を覚えた。
風景や人物、何もかもがそこに存在しているかのように感じられた。
どんな人が撮ったのだろうかとプロフィールを確認すると、それが西島貴男さんで、初めての写真集のようだった。
以来、西島さんのファンだ。
決して西島さんのプロフィール写真に惹かれた訳ではなく、本人が撮った写真に惹き付けられたのだ。本人がたまたまイケメンだった為、顔からファンになったんじゃないかと思われがちだが、そこは誤解されたくないところだ。
そして、約2年前の大学1年の夏、たまたま地元のフォトスタジオでアルバイトを募集している事を知った時は、写真好きの私はすぐさま応募し、面接を受けた。すると、幸運な事にみごと採用になった。
フォトスタジオの仕事は、大半が、家族写真や成人式、七五三、誕生や結婚などの記念日の撮影だった。
私の仕事は、受付の他、事務、清掃、撮影時の補助で、赤ちゃんや小さな子どもをあやしたり一緒に遊んであげたりという保育士のような事もやっていた。
そして、大学1年の秋、バイトを始めて3ヶ月程たった頃のことだった。
県知事の娘さんが、お見合い写真を撮る為に、このスタジオを使用する事になったという話が持ち上がった。そして、その撮影を、地元出身の西島貴男さんにお願いしたところ、快く引き受けてくれたのだと聞き、私の心は大きく弾んだ。
(もしかしたら西島貴男さんに会えるかも。会えなかったとしても、同じ建物内の同じ空間で写真撮影をするなんてそれだけで素敵…夢みたい。)
そして、県知事の娘さんの撮影日の当日、私もスタジオに出勤をしていた。けれど、その日は、七五三さんやらの撮影で2つあるスタジオはひっきりなしに出入りされて、私もずっとてんやわんや状態だった。
時には、七五三の着物のお姉ちゃん一人の撮影の時に、お母さんの代わりに小さな弟さんを抱っこしたり。
時には、カメラマンさんの横に立ち、被写体の子ども達をリラックスさせたり笑わせたり。
撮影が終わると掃除してアルコール消毒。
その間に、西島貴男さんがスタジオに入られたと聞いたような気がしたが、私の忙しさはずっと続いていた。他のスタジオの様子など見る余裕もない程に。
そして、トイレ清掃を終えて、休憩しようとした時に、若い女性と、その後ろを見送るように、背の高い男性が出口へ向かう所を見かけた。お客様が帰る所のようだった為、私は声をかけた。
「お疲れ様でございます。ありがとうございました。」
私は、少し離れた場所からその二人に声をかけた。
「…ふん、ジミ」
聞き間違いか、こちらの方を見ている若い女性の口からそんな言葉が出たような気がした。でも、初対面のスタッフの私にそんなことを言う筈もないだろうし、聞き間違えたのかも知れない。
その後彼女は、ちらに背を向けている男性ににっこりと微笑んで、「今日はありがとうございました」とお礼の言葉を言い、普通に出て行ったのだから。
その男性は、彼女に向かって「ありがとうございました」と一礼した。
そして、私の方を向き、「今日は大変だったな。お疲れ。」と表情を変えずに言った。
「え…?」
私は、驚き過ぎて反応する事ができなかった。
西島さんだった。
こちらを向いた男性の顔を見て、西島さんだとすぐにわかったけれど、返事をする事もお疲れ様でしたの一言も言えずにいた。
西島さんはそのままその場を去り、私は、去っていく西島さんの後ろ姿をただ見ていた。
追いかける事も感謝やねぎらいの言葉をかける事もなく。
放心のまま勤務に戻って少しした後、西島さんが仕事を終えて帰られた事を聞いた。
西島さんが写真を撮っている姿までは見られないにしても、ちょっとだけでも遠巻きにでも見られたらいいな、とは思っていた。
それなのに私ときたら。
憧れの西島さんがせっかく声をかけてくれたのに。
(やだ、もしかして私、西島さんのこと、よりによって無視しちゃった事になってる…?本当に信じられない!なんて事しちゃったの…!)
結局、楽しみにしていた初対面の日はそんな風に終わってしまった。
そんな苦い出来事をぼんやり思い出しているうちに、集合の時刻になったとアナウンスされた。
「わかりました。」
受付で貰った案内に、ざっと目を通すと、私達とは別のステージBの出演者の欄に、聞いた事のある名前があった。
「ねぇ亜美、この『snow-boys』って、たしか子どもの頃に流行ったアニメ『ツーピース』の主題歌を歌っていたバンドじゃない?」
「そうそう、アニメに疎いひよりでもさすがに知ってるよね。バンドメンバー全員が地元出身だから、今日は友情出演でライブやってくれるみたいだよ。それに、ここに載っているイケメンカメラマンの西島貴男さんも地元出身なんだって。ここに、当日のグランプリの人の写真を撮ってくれるって書いてあるよ。副賞の一つにしては豪華だよね?一生の記念になるやつじゃんね。」
「うん、西島貴男さんは有名な写真家だもん。実を言うと、私は写真を見るのが趣味だから、写真家の西島さんが地元出身って事も当然知ってたの。でも、いくら地元出身とはいえ、これほど有名な人達が来るなんて、思ってたよりずっと大きなイベントなんだね。」
「うん、コスプレコンテストの他、グッズの販売とか、ゲームの対戦とか、キャラクターのショーとか盛り沢山だから、ゲーム・アニメファンには堪らないイベントだよ。それでさ、ものは相談なんだけど。ひよりの順番は後の方だから、最初の頃は私一人で他のところ見て来てもいいかな?」
「もちろんいいよ。私はこのまま控室に行くから。あと、私、帰りにこの近くで買いたい物とかあるし、ステージ見てくれたらそのまま現地解散でいいから。せっかくの機会だから、亜美も買い物とかあるだろうし、フェス、思う存分楽しんで?」
「え、いいの?」
「うん、そうして。帰る時、私もLINE送るからね。」
「ひより、ありがとう。これ、今日のバイト代。お礼は後で改めてするからね。」
「お礼なんていいから。これだけ貰うね。充分過ぎるくらいだよ。」
「ううん、本当に助かったし。それに、私の作ったコスチュームでこんなに素敵に完璧に変身してくれて、製作者として鼻が高いよ。ひよりの順番が楽しみだわ。」
「亜美ってば、オーバーね。それより、グッズとか買い物あるんでしょう?なくなっちゃうよ?ほら、行ってきなよ。」
「うん、そうだね。ありがとう、行ってくるね。私も帰る時にLINE送るから。気楽にステージ楽しんでね。ひより、本当に今日はありがとうね。」
「うん、ありがとう。亜美も買い物楽しんで来て。」
私達は、お互いにバイバイと手を振ってここで別れた。
さっき私は、「この近くで買いたい物がある」と亜美に言ったけど、本当はそんなものはなかった。
少し一人で見てみたい場所があった。
───それは。
写真家西島さんのブースだ。
写真家の「西島貴男」さんは、私の尊敬する憧れの人だ。だから、その名前を見つけた時は、興奮で胸がドキドキと高鳴るのを感じた。
・・・
私は、自分で写真を撮る事は苦手だけれど、写真を見るのは大好きで、好みの写真展があれば見に行っていたし、風景や人物問わず好きな写真集を見つけた時は購入する事もあった。
ある日書店で、手にとった1冊の写真集の表紙の写真に惹きつけられた。無名の写真家のようだったがすぐさま購入した。
家に帰って写真集を開くと、1枚1枚魂を揺さぶられるような、胸がかぁっと熱くなるような感覚を覚えた。
風景や人物、何もかもがそこに存在しているかのように感じられた。
どんな人が撮ったのだろうかとプロフィールを確認すると、それが西島貴男さんで、初めての写真集のようだった。
以来、西島さんのファンだ。
決して西島さんのプロフィール写真に惹かれた訳ではなく、本人が撮った写真に惹き付けられたのだ。本人がたまたまイケメンだった為、顔からファンになったんじゃないかと思われがちだが、そこは誤解されたくないところだ。
そして、約2年前の大学1年の夏、たまたま地元のフォトスタジオでアルバイトを募集している事を知った時は、写真好きの私はすぐさま応募し、面接を受けた。すると、幸運な事にみごと採用になった。
フォトスタジオの仕事は、大半が、家族写真や成人式、七五三、誕生や結婚などの記念日の撮影だった。
私の仕事は、受付の他、事務、清掃、撮影時の補助で、赤ちゃんや小さな子どもをあやしたり一緒に遊んであげたりという保育士のような事もやっていた。
そして、大学1年の秋、バイトを始めて3ヶ月程たった頃のことだった。
県知事の娘さんが、お見合い写真を撮る為に、このスタジオを使用する事になったという話が持ち上がった。そして、その撮影を、地元出身の西島貴男さんにお願いしたところ、快く引き受けてくれたのだと聞き、私の心は大きく弾んだ。
(もしかしたら西島貴男さんに会えるかも。会えなかったとしても、同じ建物内の同じ空間で写真撮影をするなんてそれだけで素敵…夢みたい。)
そして、県知事の娘さんの撮影日の当日、私もスタジオに出勤をしていた。けれど、その日は、七五三さんやらの撮影で2つあるスタジオはひっきりなしに出入りされて、私もずっとてんやわんや状態だった。
時には、七五三の着物のお姉ちゃん一人の撮影の時に、お母さんの代わりに小さな弟さんを抱っこしたり。
時には、カメラマンさんの横に立ち、被写体の子ども達をリラックスさせたり笑わせたり。
撮影が終わると掃除してアルコール消毒。
その間に、西島貴男さんがスタジオに入られたと聞いたような気がしたが、私の忙しさはずっと続いていた。他のスタジオの様子など見る余裕もない程に。
そして、トイレ清掃を終えて、休憩しようとした時に、若い女性と、その後ろを見送るように、背の高い男性が出口へ向かう所を見かけた。お客様が帰る所のようだった為、私は声をかけた。
「お疲れ様でございます。ありがとうございました。」
私は、少し離れた場所からその二人に声をかけた。
「…ふん、ジミ」
聞き間違いか、こちらの方を見ている若い女性の口からそんな言葉が出たような気がした。でも、初対面のスタッフの私にそんなことを言う筈もないだろうし、聞き間違えたのかも知れない。
その後彼女は、ちらに背を向けている男性ににっこりと微笑んで、「今日はありがとうございました」とお礼の言葉を言い、普通に出て行ったのだから。
その男性は、彼女に向かって「ありがとうございました」と一礼した。
そして、私の方を向き、「今日は大変だったな。お疲れ。」と表情を変えずに言った。
「え…?」
私は、驚き過ぎて反応する事ができなかった。
西島さんだった。
こちらを向いた男性の顔を見て、西島さんだとすぐにわかったけれど、返事をする事もお疲れ様でしたの一言も言えずにいた。
西島さんはそのままその場を去り、私は、去っていく西島さんの後ろ姿をただ見ていた。
追いかける事も感謝やねぎらいの言葉をかける事もなく。
放心のまま勤務に戻って少しした後、西島さんが仕事を終えて帰られた事を聞いた。
西島さんが写真を撮っている姿までは見られないにしても、ちょっとだけでも遠巻きにでも見られたらいいな、とは思っていた。
それなのに私ときたら。
憧れの西島さんがせっかく声をかけてくれたのに。
(やだ、もしかして私、西島さんのこと、よりによって無視しちゃった事になってる…?本当に信じられない!なんて事しちゃったの…!)
結局、楽しみにしていた初対面の日はそんな風に終わってしまった。
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