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第一章 アーウェン幼少期
少年は取り引きされる ③
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子供が男ばかりで何の足しにもならない──そう思っていたのは、自分だけだったと思い知らされた。
ターランド伯爵邸を後にしたサウラス男爵は上機嫌で乗合馬車に揺られながら、赤ん坊を引き取ることを条件にアーウェンを連れていってターランド伯爵が約束した『援助金』を受け取ることについて考え、ニヤニヤと笑っていた。
とてもではないが今のサウラス家に女児をまともに育てられるだけの金はない。
なのに、その娘がきちんと男爵令嬢として身を立てられるだけの金を毎月くれるというのだから、今さらながら亡くなったメイドに小遣いと情けを施したくなった。
サウラス男爵が手を出した娘は、村の中でも評判の美人で──本人も容貌に自信があったため、どちらに似てもそれなりに華を持つ娘に成長するはずだった。
翻ってまだ五歳である末の息子は、次男や三男に比べて計算や商売など実になる分野に興味を示さないため家で下男をする以外に父の役には立たず、気紛れで領地に連れて行けば兵士たちにくっついて逆に剣を振ったり走り回ったり──幼児としては至極当たり前の行動しかしない。
つまり長男が領地経営を行ってようやく傾いた男爵家にわずかな収益がもたらされ、無駄飯食いだった次男と三男は奉公に出て行きはしたが、我が家に──いや、サウラス男爵家当主たる自分にとっていずれは金をもたらしてくれるだろうと計算している。
だからこそまったくまともに育たず、せいぜい家の中で下男の真似事をさせるぐらいしか役に立たない末子を『売りつける』ことができて、さらに上機嫌だった。
「喜べ!ターランド伯爵があの役立たずのアーウェンを引き取って、俺とヒューデリクのために金をくれるんだ!アーッハッハッ!これで厄介な荷物はなくなるし、しかも女の子が来るんだぞ?!欲しがっていただろう?女の子!役立たずだったとしても、あいつが女だったら……いや、でも万歳!よほど役に立ってくれたぞ!産まれた時はとんだ厄介者だったが……」
「いったい何のお話……?ア、アーウェンを、その、あの子は他の家では役に立たないから、養子の話は無しにするって……」
「ああ!そのつもりだったがな……アーウェンを寄こす代わりに、身寄りのない女の赤ん坊を引き取れば、その養育費を出すって言うんだ!どこまでお人好しなんだ……ハハハハハッ!さすがは慈善家と知られているターランド伯爵だよ!役立たずのアーウェンはこの家にいるだけで金を稼がんが、あっちにやればその分も金になるんだ!サウファーやミージャスは五つにはもう金勘定ぐらいは覚えていたのに、奴は金ばかり喰いやがる!」
「そ、それは私やあなたが……」
教育もまともな育児も行わなかったのは夫であるが、それに従ったのは己である。
しかし何とか末の息子を手放さないようにとサウラス夫人は抗おうとしたが、金に目のくらんだ男爵の意は強い。
「アレをこのまま手元に置いておいてもけっきょくはどこかに奉公にやるしかないが、あんな出来損ないを雇おうなどと、お前の父親でも考えるだろうな。だいたいヒューデリクの世話をする手がなくなることは辛い。だが、アーウェンを売る……い、いや、引き取らせることで支度金はもらえるし、辺境公爵家への推薦やそこに就くための訓練や勉学、生活まで見てくれるというんだ!ターランド伯爵が何故かアーウェンに剣を握る才能があると思い込んでいるが、万が一そんなものがあって騎士爵でも得られれば、お前の父親も少しは俺を見直すだろうさ」
「そ、それは……そう、かもしれませんが……」
フンッとジェニグス・ターラ・サウラスは顔を歪めて笑う。
妻の出身であるキャステ家は商会を営んでいるが、騎士として名を馳せた義父は金使いが荒いくせに商売の才能もなければ、別に脳筋タイプでもない娘婿を嫌っていた。
嫌ってはいたが──所詮、庶民と変わらない一代限りの騎士爵では、どんなに貧乏でも男爵令息のジェニグス・ターラ・サウラスからの婚姻の申し込みは断れず、嫌々ながら娘の中でも一番の美人であるルゥエ・クルス・キャステへの求婚を認めざるを得なかったのである。
そうして商会で得た資産から少なくない財産を持って嫁いできた妻からその金を取り上げると、まるで沸騰する鍋にでも放り込んだかのようにあっという間にサウラス男爵は使い果たしてしまった。
その後は何度も遠回しな言い方で無心してくるサウラス男爵に対して不信感と不快感を露わにしてきたが、さすがに身分の差に屈服して「孫たちのために」という使用目的を限る金を寄こしてきたが、それすらも誤魔化して散財したのである。
しかし長男は婚礼可能な年齢になると自分でどこかの令嬢を見つけて婚姻し、父親の代わりに領地に行くと言ってくれた。
次男と三男は初等教育が終わるとすぐに義父の伝手で商会へ衣食住付き奉公という好条件で家から出せたし、上等な物はすべて自分自身と産まれた時から別格扱いしている四男のヒューデリクの物とし、出来損ないの末っ子には粗末ではあるが着れないことはない服と、生きているのが不思議なぐらいの低栄養な食事をさせていることに罪悪感はない。
むしろなぜわざわざ食事をするのかと忌々しく思っているほどだ。
だからといって───
「せ、せめて……援助をいただいて、我が家からその……アーウェンも学校に通わせるなどは、できませんの?」
「はぁ?!お前は何を言ってるんだ?あんな出来損ないを産んでおいて……あんなのに教育だと?そんな金の無駄をするなど、やはり美しい女は考えが足りないというが真だな!」
「そ、そんな……」
嘲笑い罵られるごとに夫人が俯いていくのを、サウラス男爵は心地良さそうに嗜虐的な眼差しで眺める。
確かにどの子にもたいして興味を示さず「また産まれたか」程度でいたのに、四男のヒューデリックだけ特別扱いし、さらに末子のアーウェンに関してはまるで『息子』と認識することすら拒否した。
しかしここで金と引き換えに厄介払いができて、将来的に金持ち貴族に嫁がせることができるかもしれない女児を手に入れられるなど──だがその前に、妻を丸め込んで赤ん坊を引き取る言質を取らねばならない。
ターランド伯爵邸を後にしたサウラス男爵は上機嫌で乗合馬車に揺られながら、赤ん坊を引き取ることを条件にアーウェンを連れていってターランド伯爵が約束した『援助金』を受け取ることについて考え、ニヤニヤと笑っていた。
とてもではないが今のサウラス家に女児をまともに育てられるだけの金はない。
なのに、その娘がきちんと男爵令嬢として身を立てられるだけの金を毎月くれるというのだから、今さらながら亡くなったメイドに小遣いと情けを施したくなった。
サウラス男爵が手を出した娘は、村の中でも評判の美人で──本人も容貌に自信があったため、どちらに似てもそれなりに華を持つ娘に成長するはずだった。
翻ってまだ五歳である末の息子は、次男や三男に比べて計算や商売など実になる分野に興味を示さないため家で下男をする以外に父の役には立たず、気紛れで領地に連れて行けば兵士たちにくっついて逆に剣を振ったり走り回ったり──幼児としては至極当たり前の行動しかしない。
つまり長男が領地経営を行ってようやく傾いた男爵家にわずかな収益がもたらされ、無駄飯食いだった次男と三男は奉公に出て行きはしたが、我が家に──いや、サウラス男爵家当主たる自分にとっていずれは金をもたらしてくれるだろうと計算している。
だからこそまったくまともに育たず、せいぜい家の中で下男の真似事をさせるぐらいしか役に立たない末子を『売りつける』ことができて、さらに上機嫌だった。
「喜べ!ターランド伯爵があの役立たずのアーウェンを引き取って、俺とヒューデリクのために金をくれるんだ!アーッハッハッ!これで厄介な荷物はなくなるし、しかも女の子が来るんだぞ?!欲しがっていただろう?女の子!役立たずだったとしても、あいつが女だったら……いや、でも万歳!よほど役に立ってくれたぞ!産まれた時はとんだ厄介者だったが……」
「いったい何のお話……?ア、アーウェンを、その、あの子は他の家では役に立たないから、養子の話は無しにするって……」
「ああ!そのつもりだったがな……アーウェンを寄こす代わりに、身寄りのない女の赤ん坊を引き取れば、その養育費を出すって言うんだ!どこまでお人好しなんだ……ハハハハハッ!さすがは慈善家と知られているターランド伯爵だよ!役立たずのアーウェンはこの家にいるだけで金を稼がんが、あっちにやればその分も金になるんだ!サウファーやミージャスは五つにはもう金勘定ぐらいは覚えていたのに、奴は金ばかり喰いやがる!」
「そ、それは私やあなたが……」
教育もまともな育児も行わなかったのは夫であるが、それに従ったのは己である。
しかし何とか末の息子を手放さないようにとサウラス夫人は抗おうとしたが、金に目のくらんだ男爵の意は強い。
「アレをこのまま手元に置いておいてもけっきょくはどこかに奉公にやるしかないが、あんな出来損ないを雇おうなどと、お前の父親でも考えるだろうな。だいたいヒューデリクの世話をする手がなくなることは辛い。だが、アーウェンを売る……い、いや、引き取らせることで支度金はもらえるし、辺境公爵家への推薦やそこに就くための訓練や勉学、生活まで見てくれるというんだ!ターランド伯爵が何故かアーウェンに剣を握る才能があると思い込んでいるが、万が一そんなものがあって騎士爵でも得られれば、お前の父親も少しは俺を見直すだろうさ」
「そ、それは……そう、かもしれませんが……」
フンッとジェニグス・ターラ・サウラスは顔を歪めて笑う。
妻の出身であるキャステ家は商会を営んでいるが、騎士として名を馳せた義父は金使いが荒いくせに商売の才能もなければ、別に脳筋タイプでもない娘婿を嫌っていた。
嫌ってはいたが──所詮、庶民と変わらない一代限りの騎士爵では、どんなに貧乏でも男爵令息のジェニグス・ターラ・サウラスからの婚姻の申し込みは断れず、嫌々ながら娘の中でも一番の美人であるルゥエ・クルス・キャステへの求婚を認めざるを得なかったのである。
そうして商会で得た資産から少なくない財産を持って嫁いできた妻からその金を取り上げると、まるで沸騰する鍋にでも放り込んだかのようにあっという間にサウラス男爵は使い果たしてしまった。
その後は何度も遠回しな言い方で無心してくるサウラス男爵に対して不信感と不快感を露わにしてきたが、さすがに身分の差に屈服して「孫たちのために」という使用目的を限る金を寄こしてきたが、それすらも誤魔化して散財したのである。
しかし長男は婚礼可能な年齢になると自分でどこかの令嬢を見つけて婚姻し、父親の代わりに領地に行くと言ってくれた。
次男と三男は初等教育が終わるとすぐに義父の伝手で商会へ衣食住付き奉公という好条件で家から出せたし、上等な物はすべて自分自身と産まれた時から別格扱いしている四男のヒューデリクの物とし、出来損ないの末っ子には粗末ではあるが着れないことはない服と、生きているのが不思議なぐらいの低栄養な食事をさせていることに罪悪感はない。
むしろなぜわざわざ食事をするのかと忌々しく思っているほどだ。
だからといって───
「せ、せめて……援助をいただいて、我が家からその……アーウェンも学校に通わせるなどは、できませんの?」
「はぁ?!お前は何を言ってるんだ?あんな出来損ないを産んでおいて……あんなのに教育だと?そんな金の無駄をするなど、やはり美しい女は考えが足りないというが真だな!」
「そ、そんな……」
嘲笑い罵られるごとに夫人が俯いていくのを、サウラス男爵は心地良さそうに嗜虐的な眼差しで眺める。
確かにどの子にもたいして興味を示さず「また産まれたか」程度でいたのに、四男のヒューデリックだけ特別扱いし、さらに末子のアーウェンに関してはまるで『息子』と認識することすら拒否した。
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