その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は男爵を問い詰める ①

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それよりラウド自身もやらねばならないことがあった。
何が起きても王宮への報告や仕事、領地管理は止まることはない。
そして厄介なことに、アーウェンの実父であるサウラス男爵が、なぜ自分の息子──ターランド家へ正式な養子として迎えられたことで、ある意味縁が切れてしまっているのだが──を殺害しようとしたのか、正当な理由があるとは思えないが、そのまま釈放はできないと考えた。
納得できてもできなくても、伯爵家子息・・・・・に対して男爵当主が殺害しようとし、万が一にも成功してしまっていたら、どうしようとしたのか──
ふとラウドは男爵がアーウェンに向かって言っていたことを思い返す。

「ターランドだと?!ターランドだとっ?!貴様が?笑わせるな!貴様はただのアーウェンだ!サウラス男爵家の…私の所有物だ!伯爵家の息子になぞいさせてたまるか!その籍は、ヒューデリクの物だ!さっさといなくならんか?!なぜお前はまだ生きてるんだ?!死んだはずだろう?お前は…死んだはずだ……死ね…死ねっ…死なないのなら、殺してやる……殺して…お前さえいなくなれば、ヒューデリクが、伯爵の……」

……なぜだ?なぜ男爵は「アーウェンがいなくなれば、四男のヒューデリクをターランド伯爵家の養子にできる」と考えた?
貴族籍の子供を養子にするというのは、馬や羊を売り買いするような簡単なものではない。
しかるべき手続きを踏まなければ実子とほぼ変わらない身分とはならず、それこそ使用人の雇用契約のようになってしまう。
両家の親権者による親権異動、寄子であれば親家の承認(この場合はターランド伯爵家が親家となるので必要ないが)、王家の承認、貴族の出生や死亡など貴族籍を管轄する教会本部への届け出など──アーウェンを養子にするのだって、サウラス家での養育状態から経済状態、領地経営、支度金を出すのか、資産の譲渡や援助の有無など、諸々を決定した書面を交わした後、王家や教会から許可が下りるのに三年もの月日が必要だった。
そんな手間をたった半年で繰り返すことなど簡単ではないし、おまけに同じ家に対して『先にもらった子が死亡したので次を寄こせ』というなど、王家や貴族院からの徹底的な調査が入るようなことを言えるわけがない。
家格が上がれば上がるほど、その手続きは複雑かつ厳正に取り扱われ、宣誓書を作成して審問官の前で養子縁組のための権利委譲内容に間違いがないという宣誓を行う場合もあるのだ。
アーウェンを養子に迎えるための承認印サインをするために対面した教会での男爵の態度は、まるで今すぐにでもアーウェンを連れて行けと言わんばかりだったのを思い出す。
「何でまた……こんな面倒なことを。ところで、この…『支度金』というのはいくらぐらいもらえるんですか?」
「……ご子息の身なりを整えるだけに必要なだけ出す。もっとも、生活するのに必要な物は伯爵家に来てから揃えるから、そんなには要らないはずだろう?当座として馬車代など金貨十枚を用意した」
思えばその時の男爵の目付きは、単なる守銭奴というだけではないぐらいのギラツキだった。
領地経営も破綻に近いのは報告書から知ってはいたから、対面後にさらに詰めた話をしようかと思っていたのに、ラウドはその様子を見て後日としたのである。
「まさか最後の別れの日に、自分の息子を叩いて気絶させるとは思わなかったが……」
先に渡した金貨があれば、どんなに困窮していようと銀貨一枚程度でもかけて新しい服や靴を買い与えることぐらいはできたはずなのに、アーウェンのあの日の服装はまさしく『捨てても惜しくない』物を身につけさせられていた。

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