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第一章 アーウェン幼少期
少年はみんなに癒される ⑤
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カラの言葉に、ラウドは目の前の騒ぎをそっちのけに考える。
「なっ、なので!もし……エレノア様に理解していただけるかわかりませんが……オレ……」
「上手くいくかどうかわからぬ……が、エレノアの加護の力をわずかでもそのスープに混ぜることが可能なら、何かしらアーウェンの体調に変化をもたらせる、か……」
「はい。エレノア様の力です。アーウェン様に悪いことは起きないと思うのですが」
しかしそれはあくまでも希望的観測に過ぎず、エレノアがカラのようにアーウェンの口に入る物に魔力を込められたとしても、実際はどうなるかはわからない。
だが──
「……魔術師たちがどんなに手を尽くしても、一時的にしかアーウェンの状態を良くするしかできないようだ。先延ばしにしても仕方あるまい。ノア、来なさい」
「あい!おとーしゃま!」
涙に濡れた顔を拭うのもそこそこに、小さな身体は精一杯の早さで父に駆け寄ってくる。
「……いいかい?これはカラがアーウェンのために作ったスープだ。今は眠っているから、明日の朝に食べてもらおうと思っているんだが……『お義兄様が元気になりますように』と祈りながら、お手伝いをしてほしい」
「うん」
父が話すことのどこまでを理解できたかは怪しいが、とにかく『お手伝い』というその言葉に目を輝かせて力強く頷いた。
「どんな手伝いをしたらいいかは、ちゃんとカラの言うことを聞きなさい」
「あい!」
「カラ。思いつくことは何でもやりなさい。必要な物は……ロフェナに言いなさい、可能な限り揃うように手配させる」
「はい」
「あい!」
ターランド伯爵当主からの直々の許可にカラは畏まって返事をしたが、同時にエレノアも決意を込めて姿勢を正して返事をした。
とはいえ、カラ自身は理論立ててアーウェンのスープに魔力を込めているわけではなく、自分で切り出した手製のレードルやヘラでスープをかき混ぜているだけである。
もちろんその際に『どうかアーウェン様が元気になりますように。少しでも身体が丈夫になりますように』という気持ちを込めているだけだ。
「……えぇと………」
呆然と目の前の光景を見ているしかない。
カラが言ったのは、幼い令嬢が気持ちを込めやすいようにと砕けた『願い』の言葉だ。
「おにいしゃまのあたまから~わるいやつ~でてけ~~!でてけ~~!おにいしゃまのあたまから~わるいやつ~でてけ~~!でてけ~~!おにいしゃま、げんきになってぇ~~」
何度も節をつけてそう唱えるエレノアはカラの魔力がたっぷりと詰まっていた木製のヘラを両手で持ち、休まずスープをかき混ぜている。
エレノアの魔力はどんどんスープに注がれ、最初に作った物とはまったくの別物だ。
「……すごい……オレの魔力とうまく融合して、いつもよりすごいものができてます……」
「えぇと……もうそろそろ、お止めした方がいいのでは?」
「そっ、そうですよね?!」
ロフェナとカラは揃って呆然と見ていたが、まだ魔力を注ぎ続けようとするエレノアを何とか言い聞かせて止めさせたのだった。
ターランド伯爵家は血筋の者だけでなく、本邸で働いている者たちの多くも魔力持ちである。
そのため厨房でターランド伯爵令嬢であるエレノアに木製のヘラを渡して、かき混ぜる手真似をして教えるカラを見るために集まっていた。
「……なるほど。皮革を巻いた物や金属ではなく、一本切り出しの木匙などなら魔力を流しやすいみたいだな」
「加熱した場合もあの魔力添加効果は残るのか?それとも調理後に入れた方がいいのか……?」
「いや、それよりも、カラのように木匙を使って魔力を流し込めるか…だ。治癒魔法に特化した者ならば、直接相手の身体に手を当てて流し込む感覚がわかるが、俺は無属性だからな……」
「む……そういえば、俺の属性って何だったか……おい、お前は?」
「え……そういえば、私も知らないわ……」
警備兵のように所属する前に特性を調べられるわけでもない本邸の使用人で、自分の属性を知っている者は少ない。
それは仕入れた野菜な肉などの食べ物に毒や腐った物が無いかと見極めたり、来訪者が危険人物ではないかと探るぐらいしか使用しておらず、危険なことは本邸警備担当の兵士が警戒してくれているため、特に知る必要が無かったのだ。
「……ひょっとして、例えば攻撃性が強い魔力や逆に防御に特化した者が添付できれば、我々も旦那様や兵士さんたちの手助けとなるのでは……?」
誰かが発したその言葉は、ただの使用人たちの目を輝かせた。
「なっ、なので!もし……エレノア様に理解していただけるかわかりませんが……オレ……」
「上手くいくかどうかわからぬ……が、エレノアの加護の力をわずかでもそのスープに混ぜることが可能なら、何かしらアーウェンの体調に変化をもたらせる、か……」
「はい。エレノア様の力です。アーウェン様に悪いことは起きないと思うのですが」
しかしそれはあくまでも希望的観測に過ぎず、エレノアがカラのようにアーウェンの口に入る物に魔力を込められたとしても、実際はどうなるかはわからない。
だが──
「……魔術師たちがどんなに手を尽くしても、一時的にしかアーウェンの状態を良くするしかできないようだ。先延ばしにしても仕方あるまい。ノア、来なさい」
「あい!おとーしゃま!」
涙に濡れた顔を拭うのもそこそこに、小さな身体は精一杯の早さで父に駆け寄ってくる。
「……いいかい?これはカラがアーウェンのために作ったスープだ。今は眠っているから、明日の朝に食べてもらおうと思っているんだが……『お義兄様が元気になりますように』と祈りながら、お手伝いをしてほしい」
「うん」
父が話すことのどこまでを理解できたかは怪しいが、とにかく『お手伝い』というその言葉に目を輝かせて力強く頷いた。
「どんな手伝いをしたらいいかは、ちゃんとカラの言うことを聞きなさい」
「あい!」
「カラ。思いつくことは何でもやりなさい。必要な物は……ロフェナに言いなさい、可能な限り揃うように手配させる」
「はい」
「あい!」
ターランド伯爵当主からの直々の許可にカラは畏まって返事をしたが、同時にエレノアも決意を込めて姿勢を正して返事をした。
とはいえ、カラ自身は理論立ててアーウェンのスープに魔力を込めているわけではなく、自分で切り出した手製のレードルやヘラでスープをかき混ぜているだけである。
もちろんその際に『どうかアーウェン様が元気になりますように。少しでも身体が丈夫になりますように』という気持ちを込めているだけだ。
「……えぇと………」
呆然と目の前の光景を見ているしかない。
カラが言ったのは、幼い令嬢が気持ちを込めやすいようにと砕けた『願い』の言葉だ。
「おにいしゃまのあたまから~わるいやつ~でてけ~~!でてけ~~!おにいしゃまのあたまから~わるいやつ~でてけ~~!でてけ~~!おにいしゃま、げんきになってぇ~~」
何度も節をつけてそう唱えるエレノアはカラの魔力がたっぷりと詰まっていた木製のヘラを両手で持ち、休まずスープをかき混ぜている。
エレノアの魔力はどんどんスープに注がれ、最初に作った物とはまったくの別物だ。
「……すごい……オレの魔力とうまく融合して、いつもよりすごいものができてます……」
「えぇと……もうそろそろ、お止めした方がいいのでは?」
「そっ、そうですよね?!」
ロフェナとカラは揃って呆然と見ていたが、まだ魔力を注ぎ続けようとするエレノアを何とか言い聞かせて止めさせたのだった。
ターランド伯爵家は血筋の者だけでなく、本邸で働いている者たちの多くも魔力持ちである。
そのため厨房でターランド伯爵令嬢であるエレノアに木製のヘラを渡して、かき混ぜる手真似をして教えるカラを見るために集まっていた。
「……なるほど。皮革を巻いた物や金属ではなく、一本切り出しの木匙などなら魔力を流しやすいみたいだな」
「加熱した場合もあの魔力添加効果は残るのか?それとも調理後に入れた方がいいのか……?」
「いや、それよりも、カラのように木匙を使って魔力を流し込めるか…だ。治癒魔法に特化した者ならば、直接相手の身体に手を当てて流し込む感覚がわかるが、俺は無属性だからな……」
「む……そういえば、俺の属性って何だったか……おい、お前は?」
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「……ひょっとして、例えば攻撃性が強い魔力や逆に防御に特化した者が添付できれば、我々も旦那様や兵士さんたちの手助けとなるのでは……?」
誰かが発したその言葉は、ただの使用人たちの目を輝かせた。
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