111 / 436
第一章 アーウェン幼少期
伯爵は過去に翻弄される ④
しおりを挟む
あれは狡かった……そう思っても確かに負けは負けで、女と侮り、攻撃を補助する飛び道具として薬品を持ってくるとは思わずに、物理的防御壁しか展開していなかったラウドたちの思い上がりを叩き潰してくれたことを思い出す。
「しかしジェンがいなければ、私はちゃんとヴィーシャムと向き合うこともなかっただろうし、今こんなふうに幸せだったかはわからないよ。そうしてアーウェンを引き取ることだって……」
「そうね。感謝していいわよ?ついでに皆が『うちのヴィ…』と聞いた途端に席を立ってしまったお礼も、いただいてよくってよ?」
そう──あの頃傷ついていたのはヴィーシャムだけでなく、限られた教師や学生以外からはほとんど避けられてしまったラウドやバラットもそうだった。
互いにそんな弱さを見せたりはしなかったが、やはり心の奥では忸怩たる思いは積もり、長期休暇で領地に戻れることはとても開放的で幸せだった。
そこで初めて会った、膨大な魔力暴走を起こして、真夏の庭を冬景色に一変してしまった美しい少女。
緑と白が混じる景色の中で泣いているその少女に一目惚れをし、その場で結婚を申し込んだことをヴィーシャムは忘れてしまっているようだったが、申し込まずともすでに婚約者だったと思い出したラウドは恥ずかしさのあまり、そのことを忘れていてほしいと願っている。
「……確かに、あの頃から私はヴィーシャムが一番大切だったな。あぁ…『うちのヴィーシャムは……』か。懐かしいな。美しくて聡明なのに、妹の邪さに気付かない優しさがとても可愛らしかったんだ」
「あー、はいはい。その惚気はいずれまた聞かせていただくわ。それよりも……」
そう言いながらジェナリーが差し出してきたのは、瓶にいくつも入った砂糖菓子のようである。
「我が町の名物のひとつよ。魔力が込められているわけではないけれど、精神的に落ち着く効果のある薬草を使っているの。必ず効果があると保証はできないけれど……精神を支配される負担は少なくなるはず。目が覚めたらひとつ食べさせてあげて。同じ話をしても気を失うようなことは稀になると思うわ。こちらはエレノアちゃん用」
「……ふたつも?」
「ええ。別々の物なの。こちらは気持ちが落ち着く…というか、ヴィーシャム様に伺ったのだけれど、エレノアちゃんは時々興奮しすぎるみたいなの。少しだけ気持ちを穏やかにしてくれる作用があるわ。集中したい時に飲むお茶に似た成分の薬草よ。アーウェンちゃんの方はエレノアちゃんにあげてはいけないけれど、こちらならふたりに食べさせても大丈夫」
アーウェンの分はカラに任せれば大丈夫だろうが、エレノアはきっとアーウェンに対して「あげる」と言ってきかないだろう──そんな場面が目に浮かぶようで、ラウドは思わず笑みを浮かべた。
「……本当に幸せなのね。良かったわ。私の旦那様が『どうしても大将が幸せそうに見えない。辛い』ってずっと言っていたの。学院内での雰囲気もあったとは思う……ふたりと違って私は大学部には進学しなかったから、気になっていたの」
「そうだな……大学部に進学する前にと高等部修業式後に婚姻式を両家で進めて……リグレが産まれて……あの数年間はあまり家族と向き合うよりも、己の為すべきことが見えていなかったからな……ヴィーシャムがよく支えてくれなければ、私はもっと苦しかったかもしれない」
だからこそ、今度こそ、『家族』を自分の手で救いたい。
それは自分勝手な過去への償いかもしれなかったが、ラウドはその思いに囚われていた。
「しかしジェンがいなければ、私はちゃんとヴィーシャムと向き合うこともなかっただろうし、今こんなふうに幸せだったかはわからないよ。そうしてアーウェンを引き取ることだって……」
「そうね。感謝していいわよ?ついでに皆が『うちのヴィ…』と聞いた途端に席を立ってしまったお礼も、いただいてよくってよ?」
そう──あの頃傷ついていたのはヴィーシャムだけでなく、限られた教師や学生以外からはほとんど避けられてしまったラウドやバラットもそうだった。
互いにそんな弱さを見せたりはしなかったが、やはり心の奥では忸怩たる思いは積もり、長期休暇で領地に戻れることはとても開放的で幸せだった。
そこで初めて会った、膨大な魔力暴走を起こして、真夏の庭を冬景色に一変してしまった美しい少女。
緑と白が混じる景色の中で泣いているその少女に一目惚れをし、その場で結婚を申し込んだことをヴィーシャムは忘れてしまっているようだったが、申し込まずともすでに婚約者だったと思い出したラウドは恥ずかしさのあまり、そのことを忘れていてほしいと願っている。
「……確かに、あの頃から私はヴィーシャムが一番大切だったな。あぁ…『うちのヴィーシャムは……』か。懐かしいな。美しくて聡明なのに、妹の邪さに気付かない優しさがとても可愛らしかったんだ」
「あー、はいはい。その惚気はいずれまた聞かせていただくわ。それよりも……」
そう言いながらジェナリーが差し出してきたのは、瓶にいくつも入った砂糖菓子のようである。
「我が町の名物のひとつよ。魔力が込められているわけではないけれど、精神的に落ち着く効果のある薬草を使っているの。必ず効果があると保証はできないけれど……精神を支配される負担は少なくなるはず。目が覚めたらひとつ食べさせてあげて。同じ話をしても気を失うようなことは稀になると思うわ。こちらはエレノアちゃん用」
「……ふたつも?」
「ええ。別々の物なの。こちらは気持ちが落ち着く…というか、ヴィーシャム様に伺ったのだけれど、エレノアちゃんは時々興奮しすぎるみたいなの。少しだけ気持ちを穏やかにしてくれる作用があるわ。集中したい時に飲むお茶に似た成分の薬草よ。アーウェンちゃんの方はエレノアちゃんにあげてはいけないけれど、こちらならふたりに食べさせても大丈夫」
アーウェンの分はカラに任せれば大丈夫だろうが、エレノアはきっとアーウェンに対して「あげる」と言ってきかないだろう──そんな場面が目に浮かぶようで、ラウドは思わず笑みを浮かべた。
「……本当に幸せなのね。良かったわ。私の旦那様が『どうしても大将が幸せそうに見えない。辛い』ってずっと言っていたの。学院内での雰囲気もあったとは思う……ふたりと違って私は大学部には進学しなかったから、気になっていたの」
「そうだな……大学部に進学する前にと高等部修業式後に婚姻式を両家で進めて……リグレが産まれて……あの数年間はあまり家族と向き合うよりも、己の為すべきことが見えていなかったからな……ヴィーシャムがよく支えてくれなければ、私はもっと苦しかったかもしれない」
だからこそ、今度こそ、『家族』を自分の手で救いたい。
それは自分勝手な過去への償いかもしれなかったが、ラウドはその思いに囚われていた。
28
あなたにおすすめの小説
逆行転生って胎児から!?
章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。
そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。
そう、胎児にまで。
別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。
長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる