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第一章 アーウェン幼少期
伯爵は好奇心に浮かれる
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伯爵位の中でも裕福なターランド家の遠距離用の馬車は、かなり快適だ。
さすがに王族や公爵などに比べれば装飾も広さも控えめであるが、魔術を施した骨組みのおかげで、街乗りの物よりも振動が少なく、少しだけ防音や寒暖を穏やかにするような作用の術も施してある。
おかげで──いつの間にやらラウドとロフェナも、アーウェンと共に眠ってしまっていた。
「……んぅ……」
義父の膝枕でぐっすりと眠っていたアーウェンが身じろぎをして薄く目を開けると、見たことのないロフェナの居眠り姿がいる。
「ふふ……」
小さく笑いが零れたが、そしてまたトロトロと眠りに落ち、ついでに腕に抱いていたぬいぐるみまで床にポトリと落ちた。
そのわずかな音でロフェナは目を覚まし、うっかりとはいえ主人たちの前で転寝をしてしまったことに驚愕する。
ラウドはよほど気が張っていたのか、今の音程度では起きないことに安堵しつつ、ぬいぐるみを拾って小さな主人のひとりであるアーウェンの腕の中へ戻した。
「……父上、なんだか私に弟ができたような気持ちになりますよ。しかもふたりも。カラは信用できる人物だと判断しました。アーウェン様はだいぶ深く呪術が掛けられていますが、徐々に解呪されております。ただ根本的な解決が見つからず……旦那様は男爵邸に問題の素と解決の糸があるのではないかと考えておられます………では、お元気で」
思わず付け加えてしまった最後の言葉は、ラウドが無意識にアーウェンが座席から落ちないようにと腕をその小さな身体に添えているのを見たせいかもしれない。
仕事中は親子関係を持ち込まないと徹底して教え込まれているが──
「さ、お行き。父…バラット様に失礼のないように。最後の言葉は、父上だけに伝えておくれ」
そう言うとロフェナは伝言紙を素早く畳んで鳥の形にすると、ふっと息を吹きかけて窓の外に放つ。
ひらりと浮いたそれは、鳥ではなく蝶のように羽搏くと、スイッと今まで来た方角のさらに先を目指して青い空を、風に逆らって昇って行った。
やがて馬車は大きな市のはずれに差し掛かり、カタンと仕様が変わる。
轍が抉れ、石が剥き出しになった土の道に合った振動の吸収具合を調整し、今度はなめらかな道に合わせてわずかに車体が沈んだ。
「……いつも通っても、おかしい感じだ」
「まったくです」
目を覚ましたラウドがまったく振動しない馬車の中で眉を寄せると、ロフェナも同意する。
まるでなめらかなゴムの上を進むように道のデコボコなど一切ないのが、本当に不思議だ。
「どうやってこんな長い石畳を、繋ぎ目なく敷けるのか……」
「魔力も感じませんし、かなり画期的な土木術を施しているのだとは思うのですが。他の領でも同じようにしたいとずいぶん技術者要請が来ているとか」
「ふぅむ……だが、立ってみると石のように固い……魔術でも解明できないものというのは面白いな!」
ラウドはいつものことではあるが、やはりこの市に来ると変わらず抱いてしまう疑問と好奇心に目を輝かせ、その様子はまるで十代の少年のようだった。
さすがに王族や公爵などに比べれば装飾も広さも控えめであるが、魔術を施した骨組みのおかげで、街乗りの物よりも振動が少なく、少しだけ防音や寒暖を穏やかにするような作用の術も施してある。
おかげで──いつの間にやらラウドとロフェナも、アーウェンと共に眠ってしまっていた。
「……んぅ……」
義父の膝枕でぐっすりと眠っていたアーウェンが身じろぎをして薄く目を開けると、見たことのないロフェナの居眠り姿がいる。
「ふふ……」
小さく笑いが零れたが、そしてまたトロトロと眠りに落ち、ついでに腕に抱いていたぬいぐるみまで床にポトリと落ちた。
そのわずかな音でロフェナは目を覚まし、うっかりとはいえ主人たちの前で転寝をしてしまったことに驚愕する。
ラウドはよほど気が張っていたのか、今の音程度では起きないことに安堵しつつ、ぬいぐるみを拾って小さな主人のひとりであるアーウェンの腕の中へ戻した。
「……父上、なんだか私に弟ができたような気持ちになりますよ。しかもふたりも。カラは信用できる人物だと判断しました。アーウェン様はだいぶ深く呪術が掛けられていますが、徐々に解呪されております。ただ根本的な解決が見つからず……旦那様は男爵邸に問題の素と解決の糸があるのではないかと考えておられます………では、お元気で」
思わず付け加えてしまった最後の言葉は、ラウドが無意識にアーウェンが座席から落ちないようにと腕をその小さな身体に添えているのを見たせいかもしれない。
仕事中は親子関係を持ち込まないと徹底して教え込まれているが──
「さ、お行き。父…バラット様に失礼のないように。最後の言葉は、父上だけに伝えておくれ」
そう言うとロフェナは伝言紙を素早く畳んで鳥の形にすると、ふっと息を吹きかけて窓の外に放つ。
ひらりと浮いたそれは、鳥ではなく蝶のように羽搏くと、スイッと今まで来た方角のさらに先を目指して青い空を、風に逆らって昇って行った。
やがて馬車は大きな市のはずれに差し掛かり、カタンと仕様が変わる。
轍が抉れ、石が剥き出しになった土の道に合った振動の吸収具合を調整し、今度はなめらかな道に合わせてわずかに車体が沈んだ。
「……いつも通っても、おかしい感じだ」
「まったくです」
目を覚ましたラウドがまったく振動しない馬車の中で眉を寄せると、ロフェナも同意する。
まるでなめらかなゴムの上を進むように道のデコボコなど一切ないのが、本当に不思議だ。
「どうやってこんな長い石畳を、繋ぎ目なく敷けるのか……」
「魔力も感じませんし、かなり画期的な土木術を施しているのだとは思うのですが。他の領でも同じようにしたいとずいぶん技術者要請が来ているとか」
「ふぅむ……だが、立ってみると石のように固い……魔術でも解明できないものというのは面白いな!」
ラウドはいつものことではあるが、やはりこの市に来ると変わらず抱いてしまう疑問と好奇心に目を輝かせ、その様子はまるで十代の少年のようだった。
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