その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は見たことのない道に立つ ②

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カラが戻ってきてそれぞれ着替えさせてもらって、アーウェンとエレノアは仲良く手を繋いで部屋を出る。
デビニアン町の宿とは違い、廊下は剥き出しの木の板ではなく寄木細工で綺麗に蝋ワックスでツルツルに仕上げられた床材がろうそくの光を反射している。
「きれい……」
「きえ~……」
アーウェンがその煌めきに目も足も止めて見惚れると、エレノアも一緒に見上げてほぅ…と大人びた溜め息をついた。
どこかで母が美しい物を見てそんな溜め息をついたのを覚えていたのだろう──ふたりを見守るラリティスや侍女は笑いを堪える顔をしているが、カラはまだ侍従として主人一家の傍に仕える日が浅いため、くるりと後ろを向いて蹲って声を上げることを堪えるのが精一杯である。
使用人が仕えるべき主人の可愛らしい姿を見て悶絶したり笑ったりする姿を見せるわけにはいかず、侍女たちがスカートでカラを隠す位置に立ち、十分に──特にアーウェンが満足するまで周囲を見回してから、ラリティスは先へ進むようにと促した。
「お母さまとお父様がお待ちですよ?早く行かないと、おやつを食べてから街を見る時間がなくなってしまいますよ?」
「おやちゅ!たべゆ!」
「えっ?!」
「あっ!お嬢様!エレノア様!走ってはなりません!!」
馬車に揺られていたのと眠ったせいで空腹だったのか、エレノアは乳母の言葉に飛び上がるように返事をして走り出す。
手を繋いだままのアーウェンは転びそうになりながらも、小さな義妹に引っ張られるままについて軽く走り出すと、ラリティアもその後を追いかけてしまった。
「まぁまぁまぁ……まったく……ラリティスもお転婆さんなんだから」
「ふふ……ジェーリー侍女長様も『ティスは小さい頃から好奇心旺盛だった』と言われていたわね。今もまだ可愛らしいわ」
「あ、あの……?」
領地の本邸と王都の伯爵邸で勤めるのが長い者ほど、他の使用人たちの繋がりは知っているが、新参者のカラにはわからない関係は多いし、特に女性である侍女たちとの接点はない。
「侍女長様って……王都のお邸の?ラリティスさん…は、侍女長様の……?」
「そうよ。侍女長の娘さんよ。侍女長はご結婚されるまで奥様の乳母から専属侍女となって、王都のお邸の侍女長を任されたの。一時は侍女長ご自身の結婚と懐妊で職を離れられたけど」
「ねぇ~。本当に可愛い赤ちゃんだったわ!旦那様がまだ大学部の方に通われていらっしゃったから、産まれたティスを節度は保ちつつ、一緒に育てられて……」
「奥様にとっては歳の離れた妹のような存在なのよ~。でも、驕ることもなく、本当にいい子だわ」
三人が廊下を遥か進み、伯爵夫妻がそれぞれ寝室と応接室の続き部屋として使っている上階へ階段を登っていくのを見送りながら、ゆっくりと進んで話してくれる。
「ラリティスさんのお父様って、バラット様ですか?」
「あら!あなたもけっこう好きなのね!うふふ~…幸いなことに、ラリティスのお父さんは奥様のご実家で仕えていた方よ。」
「幸い……?」
「バラットさんの末息子はロフェナさんだもの!異母いぼ兄妹きょうだいでは恋人にはなれないものね~」
「ね~」
まだ十三歳とは言えカラ自身は母が売春をさせられていた経緯から男女間に起こることは知っているが、心の機微についてまで学んではおらず、ターランド伯爵邸で比較的身近にいるふたりが恋仲だという素振りを見せることなく仕事に徹底していることに驚くと共に、アーウェンの先ほどの照れたような表情を見て少し複雑な気持ちになった。

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