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第二章 アーウェン少年期 領地編
幼い令嬢は友達を呼ぶ ①
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幼い伯爵令嬢は自分とひとつ違いと分かったタリーという少女と手を繋ぎ、実兄のリグレと同い年であるルダンの手を取り、意味もなくクルクルと踊りながら笑っていた。
タリーは同じテンションで笑ってステップを踏むが、ルダンはふたりに振り回されてたたらを踏む。
宿の超上客であるターランド伯爵夫妻が不在の今、令嬢であるエレノアの遊び相手として正式に招待され、ふたりはここにいる。
ちなみにふたりを迎えに行ったのはラリティスではなくロフェナより年上のラウド付き従者のひとりであるが、これは子供たちの扱い方を鑑み、女性を蔑視する輩かもしれないと考えたラウドからの指示で数十枚の銀貨と共に派遣された。
ルダンとタリーの父親はむろん大領主としてターランド伯爵の名前を知っていたが、まさか自分のボロ屋に桁違いに美麗な身なりの男が使いとしてやってくるなど、想像の範疇外である。
まさか子供たちが粗相をして──顔を青褪めさせ、鞭代わりのよく撓る太枝を掴んで自分の妻に子供たちを呼んでくるようにと怒鳴りつけた。
居間兼キッチンの他には寝室しかない質素な家でそんな大声を出す必要はなく、妻は怯えた顔をしつつ子供を引きずるようにして連れてきた。
見ればその子供たちが着ている物はあちこち縫われているだけで接ぎも当てられておらず、そのせいであちこちの裾が不格好に縮んでみっともない有様である。
一瞬その様子に眉を顰めそうになったがすぐに彼は表情を隠して微笑み、伯爵令嬢がタリー嬢を側に呼びたがっているということと、さらに付き添いとしてルダンも連れて行きたいと伝えた。
「……いやぁ…そんなお貴族様のお宅にやれるような奴らじゃぁ……それに着てく物だって無いですからねぇ……」
どうやって子供たちのことを知ったのかと訝りつつも、お貴族様がこのお荷物たちを咎めるためではなくこの町に滞在している間の遊び相手として呼ばれたのだと知り、父親は下卑た笑いと共に指をすり合わせて先立つものを要求する。
実はふたりが先日ラリティスに買い与えられた服や靴は、ルダンが小さく畳んで秘密の場所にしまっており、本当は新たに買い与える必要はない。
それを知らない父親は暗に子供たちの服を買うための金を要求したのだが、そんな要求を出されることは最初からわかっており、重たい金属音のする袋が父親に手渡される。
「服装を改めることはない。使用人の中に息子さんにちょうどいいのがある。タリー嬢が着られる服や靴も貸し出すゆえ、そのままで宿へ来てよいとのことだ」
「へっ……?そ、それ、は……」
モゴモゴと口を噤むのは、『支度金』として渡されたと思った金から子供たちの服を用立てる必要がないという喜びと、出来る限り安く手に入れた服をどこかの古着屋に売りつけてささやかでも小銭を手に入れようと思っていたのに、服を貸し付けられるとすればその金は手に入らないからである。
だがこの袋に入っている金は丸ごと自分の懐に入る──だが少しでも増やす機会が失われる──だが今日一日でも、ひょっとしたら滞在中毎日でも朝から晩まで子供たちがいなければ、その分食わせる必要はない──だが子供がいなければその日稼いでくるはずの金が手に入らない──だが明日もこれと同じだけの金で子供を差し出せばもっと──だがこの金がただ一回こっきりの奉仕料かもしれない──
「その金は、お嬢様からタリー嬢を側に置く際の給金ということだ。ターランド伯爵家で下働きとして働く者と同金額である」
「はぁ‥‥…そ、そう…ですか……」
父親は逡巡した。
ちらっと覗いただけでも、自分が日雇いで二十日間働く以上の金が入っているとわかる。
もしここで変にゴネて子供を召すことを止め、そしてこの金まで取り上げられるかもしれない。
ギリギリと奥歯を噛みしめながら、父親はようやく子供ふたりを渡すことを了承した。
タリーは同じテンションで笑ってステップを踏むが、ルダンはふたりに振り回されてたたらを踏む。
宿の超上客であるターランド伯爵夫妻が不在の今、令嬢であるエレノアの遊び相手として正式に招待され、ふたりはここにいる。
ちなみにふたりを迎えに行ったのはラリティスではなくロフェナより年上のラウド付き従者のひとりであるが、これは子供たちの扱い方を鑑み、女性を蔑視する輩かもしれないと考えたラウドからの指示で数十枚の銀貨と共に派遣された。
ルダンとタリーの父親はむろん大領主としてターランド伯爵の名前を知っていたが、まさか自分のボロ屋に桁違いに美麗な身なりの男が使いとしてやってくるなど、想像の範疇外である。
まさか子供たちが粗相をして──顔を青褪めさせ、鞭代わりのよく撓る太枝を掴んで自分の妻に子供たちを呼んでくるようにと怒鳴りつけた。
居間兼キッチンの他には寝室しかない質素な家でそんな大声を出す必要はなく、妻は怯えた顔をしつつ子供を引きずるようにして連れてきた。
見ればその子供たちが着ている物はあちこち縫われているだけで接ぎも当てられておらず、そのせいであちこちの裾が不格好に縮んでみっともない有様である。
一瞬その様子に眉を顰めそうになったがすぐに彼は表情を隠して微笑み、伯爵令嬢がタリー嬢を側に呼びたがっているということと、さらに付き添いとしてルダンも連れて行きたいと伝えた。
「……いやぁ…そんなお貴族様のお宅にやれるような奴らじゃぁ……それに着てく物だって無いですからねぇ……」
どうやって子供たちのことを知ったのかと訝りつつも、お貴族様がこのお荷物たちを咎めるためではなくこの町に滞在している間の遊び相手として呼ばれたのだと知り、父親は下卑た笑いと共に指をすり合わせて先立つものを要求する。
実はふたりが先日ラリティスに買い与えられた服や靴は、ルダンが小さく畳んで秘密の場所にしまっており、本当は新たに買い与える必要はない。
それを知らない父親は暗に子供たちの服を買うための金を要求したのだが、そんな要求を出されることは最初からわかっており、重たい金属音のする袋が父親に手渡される。
「服装を改めることはない。使用人の中に息子さんにちょうどいいのがある。タリー嬢が着られる服や靴も貸し出すゆえ、そのままで宿へ来てよいとのことだ」
「へっ……?そ、それ、は……」
モゴモゴと口を噤むのは、『支度金』として渡されたと思った金から子供たちの服を用立てる必要がないという喜びと、出来る限り安く手に入れた服をどこかの古着屋に売りつけてささやかでも小銭を手に入れようと思っていたのに、服を貸し付けられるとすればその金は手に入らないからである。
だがこの袋に入っている金は丸ごと自分の懐に入る──だが少しでも増やす機会が失われる──だが今日一日でも、ひょっとしたら滞在中毎日でも朝から晩まで子供たちがいなければ、その分食わせる必要はない──だが子供がいなければその日稼いでくるはずの金が手に入らない──だが明日もこれと同じだけの金で子供を差し出せばもっと──だがこの金がただ一回こっきりの奉仕料かもしれない──
「その金は、お嬢様からタリー嬢を側に置く際の給金ということだ。ターランド伯爵家で下働きとして働く者と同金額である」
「はぁ‥‥…そ、そう…ですか……」
父親は逡巡した。
ちらっと覗いただけでも、自分が日雇いで二十日間働く以上の金が入っているとわかる。
もしここで変にゴネて子供を召すことを止め、そしてこの金まで取り上げられるかもしれない。
ギリギリと奥歯を噛みしめながら、父親はようやく子供ふたりを渡すことを了承した。
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