その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第二章 アーウェン少年期 領地編

少年は眠ったまま城に着く ①

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馬車を見送ろうと馬車寄せには、邸宅中の使用人が勢揃いした。
その中にはもちろんフェンティスとランの姿もある。
家令代わりの男性使用人長と女性使用人長がそれぞれ、ラウドから受け取った褒賞一覧を手にして一礼した。
それにはこの邸宅を護ったり清潔に保ったり、もちろん健康や身なりを整えたフェンティスや、厩で馬たちの面倒を看る者、使い走りをする下働きの者たちに至るまでそれぞれに見合ったボーナスが書かれている。
後ほどきちんと手渡されることだろう──馬車に乗ってひとしきり手を振って邸宅を出た後に、ラウドが隣に座らせたアーウェンにそう説明した。
「いずれはお前もこのターランドに次ぐ爵位を得て、家を持たねばならぬ。使用人がきちんと仕事をしたり、正当に報酬を得ることも知らねばならぬ。それらを着服したりお前の目を欺くような者を見過ごしてはならぬ。それもおいおい勉強しなさい」
「は、はい!……はい?」
とりあえず大切なことを言われたということは理解して返事をしたが、内容をちゃんと理解したとは自分で持思えず、思わずアーウェンは疑問符付きで繰り返した。
だがその向かいでロフェナと共に座るカラは『自分に任せろ』と言わんばかりに、利口そうな顔つきでうんうんと頷く。
実際賢いのだ──だからこそ、『誰か』に付け込まれたのだろうが。
そう思いながらラウドは、幼い義息子とその従者となった少年にそれぞれ優しく微笑んだ。


ターランド伯爵領の中心であるフェルデ市──ウェルエスト王国に領地を奪われた後に据えられた初代領主が届け出た領都は、フェンティスたちのいた町から半日ほどの距離だった。
おそらく王都を発った直後ならば、アーウェンの体調を気遣いながら同じ距離を二日ほどかけて馬車を走らせていたかもしれない。
『ゆっくり進む』というのは案外、人馬共に疲れるものなのだ。
だがさすがに前の町でしっかりと休み、通常の帰省と変わらぬスピードで走れた最後の旅程はさほど負担にならず、夕焼けも空から消えて薄暗くなった頃に本邸と言えるターランドの城に到着したのである。
とうとう──感慨深く思いながら、ラウドは腕にアーウェンを抱え込んで馬車を下りた。
幼い頃のリグレをこうやって腕に抱くことはなく、何とも惜しいことをしたと思いながら。

「お帰りなさいませ、旦那様。ロフェナも、お疲れさまでした」
そう言って迎えたのはロフェナの祖母で、この城の家政を纏めているクレー夫人だった。
家令代理の執事長であるギンダーがチラリとそちらを伺いながらも、澄ました顔で綺麗に礼をする。
ラウドがやや怯んだ様子で頷きを返すが、クレー夫人はかつて自分の乳母だったため、少しばかり気後れがしているだけだった。
それを知っているヴィーシャムがクスッと笑うが、アーウェンよりも体力のあるエレノアはラリティスに抱かれて目をキラキラさせている。
何せ王都の邸とはまた違って、こちらは本当に『城』であり、家令であるバラットではなく年配の女性が先頭に立って挨拶をするという異例尽くし。
一応昨年もこの城に戻っては来ているのだが、エレノアはまるで初めて見るかのようにキョロキョロしていた。
「……姫様もお元気なようで」
「ああ。風邪ひとつ引かず、丈夫に育っている。アーウェンの部屋はどこか」
「わたくしが」
ギンダーが近寄ってさっと腕を差し出したが、ラウドは軽く「構わん」とだけ言い捨てて案内だけを頼んだ。


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