その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

文字の大きさ
354 / 436
第二章 アーウェン少年期 領地編

伯爵夫妻は雪解けを待つ ①

しおりを挟む
フラットな目で見れば、アーウェンはいちいち『可哀想な』という枕詞が付くのがあたりまえなほど──それ以外で失礼な言い方をすれば『無知』な少年だった。
カラという従者は『贅沢に慣れていない』──この場ではなく、むしろ厨房や雑用をする方がふさわしいぐらいの教養の無さで、何故従者という役職を与えられたのかと勘繰ったが、むしろアーウェンという子供を知ればふさわしいとも言えた。

そして一番の曲者──クレファー・チュラン・グラウエス。
公国の頃から隣国との交流が多かったこの地域では、たとえ異国民でも快く受け入れてきた。
しかしこの男は違和感のある肌色と顔つきと、なのに流暢な王国語を話す──正体が知れないだけに、気を許すことはできない。
子供たち二人はひょっとしたら大人のいいように操られているだけかもしれない。
その人形師はあの男かもしれない。

ギンダーの態度は日々硬化したり和らいだり、情に流されまいと抗うようでもあり、ふと受け入れているような自然な態度にもなった。
見ている方はクルクルと変わるギンダーに『早く認めればいいのに』と思わないでもなかったが、誰も手出しも手助けもしない。
それが許される立場でも、年齢でもなかった。


「……しかし評価できるとすれば、アーウェンを侮りつつも私たちがあの子を気にかけていることを受け入れ、卑怯な真似はしないことではあるな」
「ふふっ……わたくしは知りませんでしたけど、どうやら使用人たちは誰もひとしきり受ける通過儀礼の強情版のようですわ、あなた」
「強情版?」
「ええ。新しく雇われる者たちが、しっかりターランド伯爵家に忠誠を誓う者か、ただ職が欲しいだけで主人家族に敬いを持つかどうか微妙な者か、何かしら引き出そうと潜り込んだ者か……たいていはひと月ほどで正体を現わすそうですわ」
「なるほど……私が知らない部分もあるのだな」
「わたくしもありましてよ?あなたがお仕事でどのような顔をして、どんなふうにお話しされ、他の方と接していらっしゃるか……あなたもわたくしのこと、ご存じないこともあるでしょう?」
「ンンッ…ゴホッ……あ~…うん、まあ…そうだな」
とてもではないが戦争の場にいる時の張りつめた状態の自分や兵たちなど、妻に見せられるようなものではないと理解している。
当然のように、妻もお茶会や何かで貴族の妻として立ち回る時の顔など、知りたいとも思わない。
そしてそれぞれが使用人と向き合う時にも、男主人と女主人、そしてその子供に向ける顔や表情、言葉も違うだろう。
「ひと月……まあ、もう少し様子を見よう」
「どちらが根負けするか…ですわね。もっともクレファーには折れる根もないでしょう。純粋に学問が好きな青年ですわね」
「ああ。アーウェンが発ってしまっても、この城の図書室には自由に出入りできるように手配しよう」
「その後は使用人たちの教育に携わってもらうのは?ええ、もちろんガブス共和国の文化を教える私塾を開くのもよいでしょうが、きっとそれはパージェさんの方がよく知っているかもしれませんわね」
小高い位置に君臨する領都邸を見上げる位置に広がるこの市のどこか、ガブス料理の店を構える準備を始めているチュラン・グラウエス夫妻のうち、ギンダーが怪しんでいる異国──ガブス共和国出身の母を持つパージェ・チュラン・グラウエスはその伝統を伝えられており、綺麗な織物を織ることも、もちろんガブス共和国語を話すことも読み書きすることもできるということだ。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

逆行転生って胎児から!?

章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。 そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。 そう、胎児にまで。 別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。 長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...