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出会う者。
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バルトバーシュは孤児である。
生まれはこの聖ガイ・トゥーオン神殿のある辺境ではなく、国の中心よりかなり東の方にある賑やかな地方都市であったが、治安があまりいいとは言えなかった。
貴賤意識が強く、貧しい者たちは貴族の横暴に耐える日々を過ごしており、バルトバーシュを産んだ母もその犠牲者の1人である。
容姿の良かった母は18歳で雇用主に花を散らされ、意に沿わぬ妊娠と出産で、敢えなく命を落とした。
腹の大きくなったメイドは見栄えが悪いと罵られ、責任を取るべき貴族は「身持ち悪く勝手に妊娠して、まともな仕事ができないのだから」と理不尽な理由で賃金をまともに払わずに追い出された。
出産の経験どころか、男女の営みの知識も無かった少女は異物のせいで膨らむ自分の身体を受け入れられず、着の身着のままで屋敷の外で気絶したが、そこを孤児院担当の神官が通りかかったのは神の采配だったのかもしれない。
時が満ち──19歳の誕生日を迎える前に母は産気付き、追い出した貴族家由来の特徴を多く兼ね備えた玉のような赤ん坊を産んだ。
産んでしまった。
生まれる3日前から母に高熱をもたらし、正気を失ったままの母体から取り上げられた赤ん坊は見た目もさることながら、かなりの魔力を持っていた。
母には素質がなかったから、おそらくは父親経由のものと知れ、その素性に思い当たった聖ガイ・フェブス神殿の孤児院神官はそのまま赤ん坊を隠匿したのである。
望まれぬまま産まれた赤ん坊が、その高い魔力だけで望まぬ権力争いに巻き込まれぬように。
マクロメイは貧しいながらも、互いに慈しみ合う両親の間に産まれた。
と、思っていた。
だが成長するにつれ、髪の色こそ青みがかった黒髪の父と同じだったが、顔付きはまったく母に似ず、むしろ修道院に入っている叔母によく似ていたのである。
不思議に思わないでも無かったが、それは次々と増える弟妹の世話にかまけるうちに、「うちはそういう家なのだ」と納得してしまった。
実は不妊だった両親は、産まれたはいいが育ててもらえない赤ん坊を引き取り、実の親にも負けない愛情を持って育ててくれたのである。
そのことに感謝はあれど、事実を知っても幼いマクロメイはそこで捻くれることはなかった。
捻くれた要因は義両親ではなく、実母である叔母と結ばれなかった身分ある貴族の息子が、家のためにと別の貴族の娘と結婚したことを知ったせいだった。
ご親切にも実父はマクロメイが産まれたことを把握し、いずれは母と共に正妻の手の届かない屋敷に匿い育て、嫡男として自分の跡取りとするつもりだと話に来たのである。
身分差云々は置いておいて、気の弱そうなその貴族の息子が1人で考えたとは思えず、12歳のマクロメイは漏れるはずのない裏事情を金に変える者たちと渡りをつけ、いきなり庶子を訪ねてきた訳を知った。
マクロメイの知らぬ『妹』たちが5人。
つまり跡取りがいないのである。
平民の実母と貴族の実父の結婚を拒んだ実祖父母は考えた──たとえ夫婦ではなくとも、借り腹で産まれた『男孫』がいるじゃないか、と。
相思相愛の息子たちを身分差故に引き離したことなど、『貴族』という特権の前には取るに足らない小さな間違いだった。
実父は自分の言った通りにするつもりだったろうが、母は修道院から出るつもりはないと手紙だけを寄越したらしく、祖父母はそれはそれは喜んだらしい。
出来損ないでも貴族出身の嫁がおり、生まれ卑しいものの見た目の良い娘が産んだ跡継ぎを引き取ることで、御家存続安泰という皮算用を弾き出したのだ。
だからマクロメイは家を出た。
実母が身を寄せる修道院とは別の宗教である聖ガイ教の神殿を頼り、辺境にある『聖ガイ・トゥーオン』を目指して巡礼隊の神官見習いとなって。
そうして少年の師となる2人が出会ったのが、15歳の春だった。
生まれはこの聖ガイ・トゥーオン神殿のある辺境ではなく、国の中心よりかなり東の方にある賑やかな地方都市であったが、治安があまりいいとは言えなかった。
貴賤意識が強く、貧しい者たちは貴族の横暴に耐える日々を過ごしており、バルトバーシュを産んだ母もその犠牲者の1人である。
容姿の良かった母は18歳で雇用主に花を散らされ、意に沿わぬ妊娠と出産で、敢えなく命を落とした。
腹の大きくなったメイドは見栄えが悪いと罵られ、責任を取るべき貴族は「身持ち悪く勝手に妊娠して、まともな仕事ができないのだから」と理不尽な理由で賃金をまともに払わずに追い出された。
出産の経験どころか、男女の営みの知識も無かった少女は異物のせいで膨らむ自分の身体を受け入れられず、着の身着のままで屋敷の外で気絶したが、そこを孤児院担当の神官が通りかかったのは神の采配だったのかもしれない。
時が満ち──19歳の誕生日を迎える前に母は産気付き、追い出した貴族家由来の特徴を多く兼ね備えた玉のような赤ん坊を産んだ。
産んでしまった。
生まれる3日前から母に高熱をもたらし、正気を失ったままの母体から取り上げられた赤ん坊は見た目もさることながら、かなりの魔力を持っていた。
母には素質がなかったから、おそらくは父親経由のものと知れ、その素性に思い当たった聖ガイ・フェブス神殿の孤児院神官はそのまま赤ん坊を隠匿したのである。
望まれぬまま産まれた赤ん坊が、その高い魔力だけで望まぬ権力争いに巻き込まれぬように。
マクロメイは貧しいながらも、互いに慈しみ合う両親の間に産まれた。
と、思っていた。
だが成長するにつれ、髪の色こそ青みがかった黒髪の父と同じだったが、顔付きはまったく母に似ず、むしろ修道院に入っている叔母によく似ていたのである。
不思議に思わないでも無かったが、それは次々と増える弟妹の世話にかまけるうちに、「うちはそういう家なのだ」と納得してしまった。
実は不妊だった両親は、産まれたはいいが育ててもらえない赤ん坊を引き取り、実の親にも負けない愛情を持って育ててくれたのである。
そのことに感謝はあれど、事実を知っても幼いマクロメイはそこで捻くれることはなかった。
捻くれた要因は義両親ではなく、実母である叔母と結ばれなかった身分ある貴族の息子が、家のためにと別の貴族の娘と結婚したことを知ったせいだった。
ご親切にも実父はマクロメイが産まれたことを把握し、いずれは母と共に正妻の手の届かない屋敷に匿い育て、嫡男として自分の跡取りとするつもりだと話に来たのである。
身分差云々は置いておいて、気の弱そうなその貴族の息子が1人で考えたとは思えず、12歳のマクロメイは漏れるはずのない裏事情を金に変える者たちと渡りをつけ、いきなり庶子を訪ねてきた訳を知った。
マクロメイの知らぬ『妹』たちが5人。
つまり跡取りがいないのである。
平民の実母と貴族の実父の結婚を拒んだ実祖父母は考えた──たとえ夫婦ではなくとも、借り腹で産まれた『男孫』がいるじゃないか、と。
相思相愛の息子たちを身分差故に引き離したことなど、『貴族』という特権の前には取るに足らない小さな間違いだった。
実父は自分の言った通りにするつもりだったろうが、母は修道院から出るつもりはないと手紙だけを寄越したらしく、祖父母はそれはそれは喜んだらしい。
出来損ないでも貴族出身の嫁がおり、生まれ卑しいものの見た目の良い娘が産んだ跡継ぎを引き取ることで、御家存続安泰という皮算用を弾き出したのだ。
だからマクロメイは家を出た。
実母が身を寄せる修道院とは別の宗教である聖ガイ教の神殿を頼り、辺境にある『聖ガイ・トゥーオン』を目指して巡礼隊の神官見習いとなって。
そうして少年の師となる2人が出会ったのが、15歳の春だった。
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