35 / 261
拾われる者。
しおりを挟む
そうはいってもようやく『人間の』言葉を話せるようになった幼児並みの少年は、どこかへ行かねばならない。
少なくともこのどこかわからない森にいても、今までと違って誰かが一緒に生きてくれるわけではないのだから。
[こま……「こ、こま・つ・た・な。ど・こ・か・に・い・か・な・い・と……」]
「おにいちゃん、どうしたの?」
あてずっぽうに歩いているといつの間にか人の通る道に出ており、バルトロメイは神殿にいた男たち以外の『初めての人間』に出会った。
「聖ガイ・トゥ……ああ!聖ガイ・トゥーオン神殿のことかな?ハッハッハッ!そんなわけがあるまい!たぶん、聖ガイ・ドューンか、ドューヌ神殿からいらっしゃったのかな?どちらにしてもずいぶん遠いが……あんたさんの身形は、どうやら神官見習い様かの?」
自分より幼い子供に手を引かれて連れて行かれたのは、どうやらその男の子の家らしかった。
両親は出稼ぎで不在のため、祖父である自分と暮らしている──老人がそう自己紹介してくれたが、『両親』も『祖父』もわからず、反応できたのは『神官見習い』という言葉だけである。
「しかし神殿に入られた神官様は皆、貴族様に劣らぬ教育を受けると聞いておるが……」
ポツリとこぼされた老人の声をしっかりと聞き取り、バルトロメイはパッと顔を上げてその皺に覆われた目を見つめる。
まっすぐなその視線に耐えられなくなったのか、老人はパッと顔を背けたが、何故そうされるのかバルトロメイにはわからない。
何せ神殿にいた者たちは良くも悪くもバルトロメイの前では『正直』であったし、バルトロメイ自体が自分たちの言っていることややっていることのほとんどを理解していないこともわかっていたから、見つめられても自分を恥じたり気まずさを誤魔化す必要も覚えなかったため、目を逸らすことはなかった。
だから『普通の人』たちが穢れを知らない視線を当てられた場合に取る態度を不思議に思い、さらにジッと見つめてしまう。
「ウ……ゥオッホン……いやいや、失礼しましたな、神官見習い様。いや、ところで、あんた様のお名前は……?」
「な…ま…」
「ぼくね!ぼく、レオシュ!!5さい!」
ハイハイと元気よく手を上げて子供が自己紹介すると、バルトロメイも真似をしてバッと右手を上げた。
「ぼく!バルトロメイ!15さい!」
「………あ……あの……えぇ……わ、わしは、ガンス家のおじいと呼ばれていますです……マロシュと言います……」
目をキラキラとさせた大小の子供に気圧されるように老人も名乗り、また聞き慣れない言葉にバルトロメイがコテンと首を傾げる。
「ガンスケ?」
「いえ、ガンス…マロシュ・ガンス……まあ何とか家名をもらえるぐらいには財産がありますな」
「かめい……」
「ああ、ひょっとしてあんた様は産まれた時から神殿におられたのですかな?でしたら、家名はござらんなぁ……」
「?産まれた、神殿、違う[えぇと……でも……言っちゃダメってお師匠様も言ってたしなぁ……]」
「え?なに?おにいちゃん、なにいってるの?」
「おぉ……」
簡単な呟きだったが、いきなり人語から神語に思考も言葉も切り替えてしまったバルトロメイにレオシュは怯え、かわりにマロシュ老人の方が今度は目を輝かせた。
「お……おぉ……何を言ってらっしゃるかはわからんが……それは神殿で使われている神語の祈りでは?名乗ったわしらに祝福を下さっているのか……レオシュや、神官見習いとはいえ、お前は尊いお方をお連れしたようだぞ!」
「え?そ、そうなの?」
「そうなの?」
何か盛大に勘違いしている老人の言葉に首を傾げる子供とバルトロメイだったが、そんなことには構わず、今度は『神官見習い様』を持ち上げるマロシュの目は、先ほどの落ち窪んだ様子から何歳か若返ったようにも見える。
少なくともこのどこかわからない森にいても、今までと違って誰かが一緒に生きてくれるわけではないのだから。
[こま……「こ、こま・つ・た・な。ど・こ・か・に・い・か・な・い・と……」]
「おにいちゃん、どうしたの?」
あてずっぽうに歩いているといつの間にか人の通る道に出ており、バルトロメイは神殿にいた男たち以外の『初めての人間』に出会った。
「聖ガイ・トゥ……ああ!聖ガイ・トゥーオン神殿のことかな?ハッハッハッ!そんなわけがあるまい!たぶん、聖ガイ・ドューンか、ドューヌ神殿からいらっしゃったのかな?どちらにしてもずいぶん遠いが……あんたさんの身形は、どうやら神官見習い様かの?」
自分より幼い子供に手を引かれて連れて行かれたのは、どうやらその男の子の家らしかった。
両親は出稼ぎで不在のため、祖父である自分と暮らしている──老人がそう自己紹介してくれたが、『両親』も『祖父』もわからず、反応できたのは『神官見習い』という言葉だけである。
「しかし神殿に入られた神官様は皆、貴族様に劣らぬ教育を受けると聞いておるが……」
ポツリとこぼされた老人の声をしっかりと聞き取り、バルトロメイはパッと顔を上げてその皺に覆われた目を見つめる。
まっすぐなその視線に耐えられなくなったのか、老人はパッと顔を背けたが、何故そうされるのかバルトロメイにはわからない。
何せ神殿にいた者たちは良くも悪くもバルトロメイの前では『正直』であったし、バルトロメイ自体が自分たちの言っていることややっていることのほとんどを理解していないこともわかっていたから、見つめられても自分を恥じたり気まずさを誤魔化す必要も覚えなかったため、目を逸らすことはなかった。
だから『普通の人』たちが穢れを知らない視線を当てられた場合に取る態度を不思議に思い、さらにジッと見つめてしまう。
「ウ……ゥオッホン……いやいや、失礼しましたな、神官見習い様。いや、ところで、あんた様のお名前は……?」
「な…ま…」
「ぼくね!ぼく、レオシュ!!5さい!」
ハイハイと元気よく手を上げて子供が自己紹介すると、バルトロメイも真似をしてバッと右手を上げた。
「ぼく!バルトロメイ!15さい!」
「………あ……あの……えぇ……わ、わしは、ガンス家のおじいと呼ばれていますです……マロシュと言います……」
目をキラキラとさせた大小の子供に気圧されるように老人も名乗り、また聞き慣れない言葉にバルトロメイがコテンと首を傾げる。
「ガンスケ?」
「いえ、ガンス…マロシュ・ガンス……まあ何とか家名をもらえるぐらいには財産がありますな」
「かめい……」
「ああ、ひょっとしてあんた様は産まれた時から神殿におられたのですかな?でしたら、家名はござらんなぁ……」
「?産まれた、神殿、違う[えぇと……でも……言っちゃダメってお師匠様も言ってたしなぁ……]」
「え?なに?おにいちゃん、なにいってるの?」
「おぉ……」
簡単な呟きだったが、いきなり人語から神語に思考も言葉も切り替えてしまったバルトロメイにレオシュは怯え、かわりにマロシュ老人の方が今度は目を輝かせた。
「お……おぉ……何を言ってらっしゃるかはわからんが……それは神殿で使われている神語の祈りでは?名乗ったわしらに祝福を下さっているのか……レオシュや、神官見習いとはいえ、お前は尊いお方をお連れしたようだぞ!」
「え?そ、そうなの?」
「そうなの?」
何か盛大に勘違いしている老人の言葉に首を傾げる子供とバルトロメイだったが、そんなことには構わず、今度は『神官見習い様』を持ち上げるマロシュの目は、先ほどの落ち窪んだ様子から何歳か若返ったようにも見える。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる