間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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学ぶ者。

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ガンス家で過ごした3年間という月日はバルトロメイに大いなる知識を与えてくれた。

まず『地図』というあちこちにあるモノの位置を書いた紙。
大きな山や森といったものはなかなか変化しないが、人は移動したり消えたりするものだから、その時々で描き直さなければならない。
しかし道の先に何があるかを知っている人が描き込んでくれると、行ったことがない場所でも何があるか知れるというすごい物だった。
「すごいなぁ……お師匠様たち、こんなすごい物どうして使ってなかったんだろう……?」
バルトロメイは目をキラキラさせて、レオシュが自分の家の周りを散策して描いたいたずら書きのような地図をずっと眺めていた。
むろん神官たちがそんな物知らずだったわけではなく、もっと詳しく道や森、山、人家といったものの他にもたくさんの文字が描き込まれているかなり精密な地図が神殿にはあったのだが、それらは専門の文官が管理しており、なおかつバルトロメイには人語の読み書きができなかったから教えるのはまだ早いと判断したバルトバーシュとマクロメイがあることを教えなかっただけである。
それよりも実際に自然の中に自分を置いていろいろ見聞きさせる方が先決だと──そちらを優先させたに過ぎない。
「んなもなぁ単なる『知識』だ。それよか実際に目で見て、皮膚で感じて、匂いを嗅ぐことの方が大事だろう!」
そう言ってマクロメイは森へ狩りや野生植物の採取に連れ出してくれたが、バルトロメイにとってそれは神殿に来る前にやっていた生活とさほど変わらないもの。
しかしながら『家族』たちが言葉にできない『あるがまま』の状態の物にそれぞれ名前があり──それは木の種類や花の名前、風の吹いてくる方向、空気の中の何を感じて「もうすぐ雨が降る」だとか空の明るさぐあいで「明日は晴れる」などといった予兆を読み取るのかを理論立てて教えてくれた。
茶色く耳の長い肉になるモノは『ウサギ』だとか、空を飛んだり地面をつついたりしている『羽根あるモノ』は様々に種族が違い、『鶏』と言われるモノは白や茶色や黒がいて、真っ赤なトサカがあるモノは近付くと攻撃的だが小さめのモノは草の陰に隠すように『卵』という白や青っぽい硬い物を落とす。
その硬い物を割ると透明なプルプルしたのの真ん中に黄色いプルプルした物があり、師匠が『鍋』で『料理』をしてくれた。
黄色いふわふわしたのはバルトロメイたちが見付けなかった卵から生まれたモノで、大きくなるとトサカの大きいのか小さいのになる──その変身の様子をバルトバーシュは「毎日観察してごらん」と言ってバルトロメイの教材にしてくれたのである。

そういった生の知識は確かにとても役に立ったが、『地図』という道具もまるで魔法のようにバルトロメイが進もうとする方向に何があるか教えてくれる、まるで物言わぬ『先生』と崇めたい『知識』の塊だった。


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