間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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交わらない者。

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ちなみに今の時間は夜ではなく、日は落ちつつあるとはいえ、まだまだ周囲は明るい。
もっとも場所は町からはやや見えにくい森に差し掛かる当たりであり、普通の旅人であればあっという間に人目の届かない森の奥──猟師たちが夜行性動物を狙ったり、狩った獲物を捌くための小屋に連れ込まれていたかもしれないが、コソ泥やカツアゲを生業としているだけのようなゴロツキの相手ではなかった。
「何だよ~。どんだけ手練れが来るかと思ったら……」
「いや、むしろこれを受ける冒険者とかいたら、引退者だろうが現役だろうが資格剥奪だろうよ」
「これならまだアシュ山の野猿魔物の方が厄介だぜ?」
「あ~、あいつらな……数もいるし、統率も取れてるし、下手にバラけると面倒だった……」
尋問するでもなく、かといって起こしてやるわけでもなく、町に引き返したドファーニ商会の正規護衛たちが町の自衛警備団を呼びに行って帰ってくるまで進みを止めて、早すぎるティータイムを取っている。
もっとも盗賊たちはうるさくないようにと猿轡を噛まされているが、男だらけの商団には似合わない香り高いお茶の匂いに目を輝かせた。
「お?何だ、こいつぁ……」
「何かバルトのやつがもらった物らしいぞ?お茶農家の畑でちっこい土魔物…モグラモドキみたいなやつを追い払う時に、別の町で通りすがりの害虫魔物を駆逐する薬剤をもらっていて、でも自分では使い道がないからって譲ったら、その家だけで飲むための極上の紅茶をごっそりくれたとか」
「……あいつ、本当に『見習い』を脱するだけの手柄を立てれてもいないのに、やたらと物に恵まれるんだよな……かと言って商売に繋がるってわけでもない」
「まったくな~……マジで『御礼』なんだよな。まあ、このお茶に関しては売るほどじゃなくてもけっこうな量をもらったらしくて、お裾分けされたドファーニさんがビン町に慌てて使いをやってたらしいぞ?」
「あ~、そういやぁ~……」
足元で物欲しそうに美味そうなお茶を見つめ続ける盗賊たちを無視し、こうやって極上の物を惜しげもなく振る舞うバルトロメイの人の好さに呆れたり感心したり、殿組しんがりぐみはまったくもって平和である。


険悪なのは正規の護衛団と冒険者がガッツリとぶつかり合う前方だった。

中心にあるドファーニたち商人が乗る馬車は正規護衛団がほとんどだが、襲撃に遭いやすい前部分は安物が多いとはいえそれらを管理する数名の他は商品が中心で、自分たちの身を守ることすらおぼつかないほど戦闘とは縁のない者たちばかりである。
それらも含めての護衛ということで腕の立つ冒険者を特に集め、また彼らが商品を掠め取らないようにという監視も兼ねての正規護衛団の者も同じく配置されていた。
それは明らかに『信用されていない』という意思表示であり、冒険者たちはそれが気に入らない。
逆に言えば正規護衛団にしてみれば、信用されていないにも関わらず自分たちの命令を聞かない冒険者たちにイラつく。
しかも冒険者たち自身もソロではなくほとんどがグループで護衛依頼を受けているため、この仕事が終わった際の特別報酬を期待しての勝手な動きをするため、それを調整していくのがひと仕事なのだ。

もっともどんな商団移動の護衛仕事でも、中盤ぐらいでだいたい統率が取れてくるので、そういった問題はいずれ解決するものなのだが──

「今回の護衛には何故か若い者が多いのです」
「困りましたねぇ……」
護衛団の中でも比較的若い連中を監視と緩衝材として投入したが、「リーダーでもない奴に命令されたくない」と反発され、ではもう少し年上で小隊から中隊を纏める力量のある者に指揮を執らせれば「おっさんに従うつもりはない」と言われる。
では冒険者たちの中でも『連携行動の大切さ』をわかっている中堅どころを混ぜてみれば、「職業意識の低い実力なし」と陰口を叩くらしい。


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