間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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顕れる者。

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だが、それが何故形見の小刀を手放すことと繋がるのだろうか──


幼いレーアは父の遺体に近付くことができなかった。
他の者は教会の中でも最奥の遺体安置室に運び込まれたドウシュの横に、掘り起こして泥を拭って清めたレーアの母の棺を置くために側に行けたのに、彼女だけはなぜかその部屋の前に立つと気を失ってしまう──近付けないことが、この身に受けた罰なのだと思っていた。
しかしある日、服の中に潜ませていた小刀の皮鞘が熱を持っているのに気が付いた。
火傷をするのかと不安に思って小刀を自室に置いて、いつものように両親の眠る部屋の前に行ったが、クラリと眩暈を覚えたものの気絶することがない。
まさかと思って扉に手をかけたが、少しだけ嫌な空気を感じるだけで、扉はこの教会にあるどの部屋と同じようにゆっくりと開き──たまたま通りかかった修道女長に肩を押されるように突き飛ばされて、誰よりも望んでいたその部屋の中までは窺い知ることはできなかった。
そして彼女がいつも身に着けていた小刀の所在を訪ねられたが、その顔は今まで見たどんな感情よりも強く恐怖が現れており、それが自室にあると聞くと以後は絶対この安置室に近寄らないことを約束させると、彼女はとても優しい顔で微笑んだのである。

しかしレーア自身はたった一目でもいいから両親に会いたく、どうにかして神託をもらえないかと毎朝毎晩、誰もいない祭壇室で祈った。

祈って、祈って、でも答えがもらえないと思っていたのに──

「神託が、降りてきたのです」
「神託……?」
長く黒いレースを頭から被った天使が、レーアの前に現れた。
何も言わずその存在は黒い手で頭を優しく撫でると、彼女の目を覆うようにふわりと布を被せたのである。
そこから身体が動かずただ耳を澄ませるしかなかったが、衣擦れの音だけがレーアと天使しかいない祭壇室に響き、コツリと微かに教会長様がお立ちになる講壇を叩く音がし、また衣擦れがして──気配が消えた。
慌てて頭から被せられた布を取るとそれは母が大事にしていたはずのヴェールで、それはこんなところにあるはずはない。
ギュッと布を握りしめたが、その手触りは間違いなく母がそのまた母から、そしてそのまた母から──代々受け継いできたという古い婚姻のヴェールに違いなく、ハッとして顔を上げた。
ヴェールをかき抱き、音がした講壇へ近づくと一枚の紙と母の若い頃を写したカメオのペンダントが置いてあり、そこには一言──

『宝を 戻せよ』

だが祖父母たちに見捨てられた幼いレーアに貴重な物など持っているはずもなく、考えられるのは父の形見である宝石の嵌った小刀だけであった。


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