間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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頼まれる者。

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マロシュ老のいる町のギルドへドウシュの小刀と教会からの手紙を届けた冒険者が戻ってきた時、修道女長と共にレーアは冒険者ギルドに呼び出された。
単に死んだ冒険者の遺物を縁者に送り届けるだけならば、最寄りの冒険者ギルドに受け取りのサインをもらった完了届を出せば済む。

だが──

もし、遺族が受け取りを拒否されたら、その小刀は、こちらにいただけますの?

預けられた時、教会長と修道女長はしおらしげにこう言ったのだ。
『これはたったひとり残された幼い娘にとって、父親のたったひとつの形見なのです』
『だから冒険者のあなた様を信じて、確実に血縁者に届けていただきたいのです』
なのにその形見を手放させ、なおかつ『いらない』と言われたら戻せという──娘ではなく、教会の者へ。
それまで俯き加減に互いに慰め合うように寄り添っていた2人のうち、修道女長の目が欲に塗れた視線をほんのわずかに向けたことが気にかかり、兄であるマロシュから特に返事を預かったわけではないが様子を伝えたいからと呼び出したのである。

「そ、それで……」
「ああ……あの小刀、っていうよりも、あの柄に嵌っていた石が家宝だったらしいんで、届けてもらってありがとうって言われたよ」
「そ、そんな……いえ、そうですか……」
その冒険者が見た少女は『年端もいかない』という表現がピッタリな幼女で、『ありがとう』という言葉に喜んだのだが、修道女長はあからさまに儲け損ねた商人のような顔をして歪めた口を慌てて悲しみの形に整える。
耳聡い冒険者には「チッ」と鋭い舌打ちの音が聞こえ、狙いは刀本体ではなくあの宝石だとすぐにわかり、思ったのは「ああ、やっぱり」ということだ。
娘の方は父の形見が手を離れてしまったことを悲しみつつも、届けられて感謝している人がいるということを喜ばなければと思っているらしいのに対し、修道女長は明らかに小刀の受け取りを拒否されるものと思っていたらしい。
それはドウシュという冒険者の兄──マロシュという男が言っていたように、きょうだいたちとドウシュの仲が良くないことを修道女長は知っており、きっと渡された小刀を引き取ることは拒否され、冒険者に預ける時に約束した通り教会の物になるとでも思っていたのだろう。


だがその目論見は外れ、ずいぶん時間が経ってから今こうやってバルトロメイの手から直接レーアに返された。
だから。
「この小刀を、父に持っていてもらいたいのです」
「え?」
「持ってもらいたい」と言われても、レーアの父はもう死んでいる。
死体は物を持てない。
それくらいはバルトロメイでも知っている。
そして死体は森に埋める。
だがそれは『ニンゲン』の間では普通ではないということも、今ではようやく理解した。
『ニンゲン』は『ハカ』という物を作り、その下に穴を掘って『ヒツギ』という容れ物に入れて仕舞う。
ずいぶんと面倒なことだが、そういう儀式をしないとダメらしいのだ。

しかしレーアの父も母もその『墓』という物の下にはおらず、いまだにこの教会の最奥の安置室にいるという。
「……この小刀があると、私はあの部屋の扉を開くことはできません。いえ、無かった今までも、修道女長様からあの部屋に近付くことは禁じられているのです。ですから……あの部屋に本当に父と母の棺があるのか…そして遺体があるのかも、私にはわからないのです」
「えぇと……つまり、父と母が、いるかも知りたい?ですか?」
「ええ……そう、なんです……せめて、もう一度……父様と、母様に……あ、会いたい……」
ポロリとレーアの瞳から涙が零れ、それは止まらずに頬を濡らすうちに白い手が顔を覆う。
普通の男であればうら若い女性が悲しみにくれているのならばハンカチを差し出したり、何か慰めの言葉をかけるものだろうが、バルトロメイはただキョトンとレーアが泣き止むまでその姿を眺めているしかなかった。


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