間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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討ち取る者。

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さて──拾ったはいいものの、これから先どうしようということはまったく考えていないバルトロメイは、ただ小刀を胸の前で構えたままゆっくりと蔦が逃げ戻る本体へと向かう。
その動きに合わせて、恐れ戦く蔦たちは我先にとドウシュの身体へ──影へ、戻ろうとした。
ついそれを獲物のように感じ、バルトロメイはタッと軽く床を蹴って跳躍し、蔦が除ける間もなくその真上に降りると同時に膝を床についてガンス家の家宝の嵌った小刀を突き刺した。
[──────!!!]
声ではない、しかし確かに『悲鳴』が聴覚を揺さぶり、神経を逆撫でする感覚に鳥肌が立つ。
それはバルトロメイだけでなく、安置台から動けずにいるレーアも感じたらしく、耳を抑え身体を竦めるのが視界に映った。
「─────?!」
「─────!!」
互いに叫ぶが、どちらも何を言っているのかまったく分からず、自分自身の声も聞こえない。
ズズズッ…と床が揺れ、蔦はズルズルとドウシュの身体の中に納まってしまったのを見て、バルトロメイは一気にそちらに駆け寄った。
どうしよう──そう思うこともなく、バルトロメイはふたたび飛び上がり、ドウシュの胸の真ん中に向かって小刀を振り降ろす。

トスン。

それは手応えなく、呆気なく、儚く、遺体の心臓があった場所に突き刺さった。
その瞬間に起き上っていた身体は、まるで糸が切れたかのようにくたりと倒れ、まるで意思が残っているかのように妻の眠る棺にもたれかかる。
そしてその瞬間──しゅわ…と小さな気泡が弾けて消えるような音がして、黒っぽい煙がドウシュの身体から立ち上ってそのまま消えた。


安置室の中で起きる物音を聞いていたのか、バンッと大きな音を立てて扉が開かれる。
「さあ!ごらんなさい!何てふしだらなっ……これだから、流れ者の娘…は……」
「……修道女長。あの2人の、何が問題なのだろうか?」
先頭に発つ細身の影の後ろには、背が高く肩幅も広い影が数個見えたが、そのうちの1つがコキリと音を鳴らして軽く傾げる。
その言葉に頭を反らして大袈裟に手を振っていた細い影は、ハッとしたように突然光が差し込んだ室内の有様をようやく見渡した。
安置台の上で一糸乱れぬまま手を組み、涙を流しながら神に向かって祈りを捧げるレーアと、それからずっと離れてドウシュの棺が乗る台に跪いたままのバルトロメイ。
むろんそちらも衣服をちゃんと身に着けており、むしろ服装が乱れているのは小刀を胸に突き立てられて倒れているドウシュの遺体の方である。
「神様……神様……ああ……あり、ありがとう…ございます……バルトロメイ様をお遣わしいただき……父は……父は今、真の意味で、天に……天に召されました……ああ…感謝いたします……」
バルトロメイの方といえば遺体がもう動かないことを確認し、そろそろと安置台から降りてホッと息を吐きだした。


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