間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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さて──と周りを見渡せば、相変わらずバルトロメイは依頼されてもいないのに、村の困り事にせっせと駆り出されていた。
もう自分たちが魔獣であるということを隠す気もないのか、普通の馬よりも小柄なエンとヤシャが荷役を当たり前にこなす農耕馬よりも多くの廃材を荷車に乗せて運び、レーアの家を再建築することに貢献している。
若夫婦の住居と共に魔草に覆われていた牧場と朽ちた厩舎は取り壊されるだけでなく、今度はあっという間に枯れ草だらけになったその土地を率先して──というより、まるで呼吸するように当たり前にバルトロメイが草やら石やらを拾い集め、持って行くのはあっちだこっちだと口は出すが手伝いはしない村の老人たちにも嫌な顔ひとつせずに運んでいた。
それらを嫌がらせだと指摘し、態度を改めるようにと冒険者ギルドの職員たちが村人に諭すのを聞いてバルトロメイは頷いたが、次に出た台詞には誰もが呆気にとられる。
「そうなんですかぁ。で、この石って向こうの瓦礫の山に置いてきた方がいいんでしょうか?それとも石屋さんが使いたいって言ってたんで、そちらに譲っていいんでしょうか?」
「あっ……ああ……うん、まあ……あの……悪いんだけど、その瓦礫の山っていうのを、もう少し村の中心に集めてほしいって……その、魔石加工するドワーフたちから連絡が来て……」
「あっ、そうなんですか?じゃあ……エン!ヤシャ!この石載せて、僕も乗せてくれる?あっちの石欲しい人がいるんだって」
「あ!も、もしよければ石だけじゃなくて、木材と草もそれぞれ……別々にしてほしい……」
「そうなんですね!わかりましたぁ!」
何と人の良いことか──バルトロメイは突然言われたことに元気よく返事をし、トコトコと枯れ草を積んだ荷車を引っ張ってきたエンとヤシャの首をそれぞれ撫でると、何のわだかまりもなく手を大きく振って瓦礫の方へと二頭を進ませる。
「……お前さんらはどう思っているかわからんが、あの子はこの村の人間じゃないんだ。しかもここの片付けを冒険者ギルドに依頼しているわけでもないのに、本当ならあの子じゃなくてあんたらか、あんたらの息子やらがやるべきだろうが!」
「なっ……そ、そんなっ……お前たち冒険者は、貧乏人から金を取ろうっていうのか?!」
「お前らが貧乏かどうかなんか知らねぇよ!」
そう言い返すのは、おそらくここにいる老人たちの孫といってもいいぐらいの若い冒険者だ。
冒険者ギルド直の依頼を見てやってきたはいいが、安宿すらない村の貧しさにいったんは帰ろうとしたのに、自分よりも若いバルトロメイが率先して村中の枯れた魔草を片付けるのを見て、簡易宿泊所である教会の一室に荷物を置かせてもらってからこの牧場にやってきた。
そこで見たのが、よそ者に対する嫌がらせである。
「職員さんたちもちゃんと言ってくれよ!じゃないと、あいつタダ働きなんだろう?ここの片付け依頼なんて、事務所で見てねぇぞ?」
「ウッ……」
そうなのだ。
確かにレーアの実家などをこれからこの村だけでなく廃墟の調査に向かうための冒険者宿泊施設に再建築する依頼は出されているが、牧場や厩舎のことまでは含まれていない。
なのに村人はレーアの家のことだけでなく、バルトロメイを見かけると当たり前のように手伝いを要求し、彼は彼でそこに報酬があるとかないとかをまったく考えずに手を貸してしまう──冷静に考えれば冒険者ギルドという組織やそこに所属する冒険者にとって、『依頼と報酬を出さずとも無料で仕事をしてもらえる』という悪しき前例となりかねない行為だ。
若者に指摘されて具合の悪そうな顔で視線を逸らせるのは村人だけでなく、ギルド職員もそうではあるが、こうやって現場にわざわざ足を運ぶ者はともかく、偶然バルトロメイを見かけて声を掛ける者たちの多くは金銭ではない物で対価を払っている。
だが『きちんと依頼を出して、見合った報酬を約束するべき』という言い分は正論であり、ギルド職員の1人が慌ててバルトロメイの後を追って、ここでどれくらいの仕事をし、誰に何を言われて何をしたかの記録を取りに走った。


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