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~旅立ち編~
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そして───
「っあ!!お、おいっ?!」
一言も発さずにバディアスはスプーンを咥えてつるりとゼリー状の涙を口に含み、コップを掴んで一気に煽った。
「………───ップッハッ!!!」
目を丸くして雫しか残っていないコップを見つめ、バディアスはコップをシロンの方に突き出した。
「『魔素毒の森の水』って言ったよな?」
「ああ」
「嘘じゃないよな?」
「当たり前だろう?何で嘘なんかつく必要がある?」
「本物か?」
「本物だって」
「だって……ただの『蜂蜜水』だったぞ?!しかも極上の!これに酒でも入っていたら、どんな女でも落とせるぐらいの……」
それはそうだろう──新月は新月でも、夏至のすぐ後の新月だ。
毎月の新月と満月に汲んだ水を飲み比べなどしてみたが、どうやら夏至と冬至の頃のがいちばん水が美味い。
そして一番浄化力があることもわかった。
その顕著な例が目の前にある。
「……お前、ずいぶんいろいろと制約掛けられていたんだな」
「え?あ?お……おぉぉっ?!」
驚くのも無理はない。
バディアスの身体は頭から肌から染み出すように発光しているのだ。
パリ…
パリン
パリーン
パリパリパリ…
パシーンッ
様々に薄く硬い物が剥がれ落ちる音がラップ音のように響き、その足元に煌めく粒となって降り落ちる。
「たぶん、お前が今まで口にしていた保存食や水なんかにいろいろ仕込まれていたんだろう。もちろん自然と魔毒を含んでいた物を食べていた可能性もあるが……ひょっとして、定期的に食い物を受け取ったりしていたのか?」
「あ…ああ……それも契約のひとつで……俺が『ラウナ国のことを忘れないよう、忘却の呪いを掛けられないよう』と言われて、各国にある冒険者ギルドに滞在の届け出をして三日後ぐらいに転送される保存食を受け取って、必ず二日に一度…敵につかまったり拷問されるようなことがあったら毎回の食事に混ぜて食えば、敵に気付かれずにその場を脱出できる力を得られるって……」
「……それはたぶん、『自害の呪』だ。薄い毒と併用しているみたいだな。二日に一度なら、徐々に筋力が落ちたり、少し風邪のような『ちょっと環境が変わって体調が悪いな?』と油断しているうちに寝込む。連続して食えば自分で服毒したとは思われず、相手が食事に何か毒を混ぜたと思わせられる。巧妙だ」
まさかそこまでのことをされているとは思わなかったのだろう──バディアスは愕然とした顔をシロンに向けた。
「お前は自分が疎まれても、自国の者たちにそこまで手が回っているとは思いたくなかったんだろう……でなければ、たとえ『契約』とはいえ、あまり良く思っていない故国との繋がりを断つ方法を探さなかったはずはない」
またうっすらと涙を浮かべているのに気がついていないのか、バディアスは細かく身体を震わせながら、シロンを見たままその言葉を黙って聞いている。
「薄くて良かった。かなり深くまで毒や呪で犯されていたら、たった一杯の水でほぼ解呪は難しかったはずだ。おそらく自分の国にいる間に殺すわけにはいかないとその手段を取れなかったはずだから、こうやって他国に行く時が狙い目だったんだろうな」
「ハ……ハハ……」
ボタボタと今度こそ大粒の涙を流して、バディアスは嫌な笑いを浮かべた。
「ハハハハハ………マジで……嫌になるな……それは、あっちも同じ…か……消えてほしいと思っているとは思っていたが……まさかな……お父様の目の届かない場所で野垂れ死にしてくれればってことかよ……」
「古代魔術を解呪できる者は、きっとラウナ国以外で探すのは難しいと踏んでだろうな。ここに『知らなくても解呪と解毒できる手段』を持っている者がいるとも思わずにな。いいんだぞ?思いっきり恩に着ても」
シロンはシロンでわざと人の悪い笑みを浮かべて見せると、バディアスはキョトンと気の抜けた表情をしてから、まるで子供が救いを見つけたような泣き笑いを浮かべて、ドサリと床に崩れ落ちた。
「っあ!!お、おいっ?!」
一言も発さずにバディアスはスプーンを咥えてつるりとゼリー状の涙を口に含み、コップを掴んで一気に煽った。
「………───ップッハッ!!!」
目を丸くして雫しか残っていないコップを見つめ、バディアスはコップをシロンの方に突き出した。
「『魔素毒の森の水』って言ったよな?」
「ああ」
「嘘じゃないよな?」
「当たり前だろう?何で嘘なんかつく必要がある?」
「本物か?」
「本物だって」
「だって……ただの『蜂蜜水』だったぞ?!しかも極上の!これに酒でも入っていたら、どんな女でも落とせるぐらいの……」
それはそうだろう──新月は新月でも、夏至のすぐ後の新月だ。
毎月の新月と満月に汲んだ水を飲み比べなどしてみたが、どうやら夏至と冬至の頃のがいちばん水が美味い。
そして一番浄化力があることもわかった。
その顕著な例が目の前にある。
「……お前、ずいぶんいろいろと制約掛けられていたんだな」
「え?あ?お……おぉぉっ?!」
驚くのも無理はない。
バディアスの身体は頭から肌から染み出すように発光しているのだ。
パリ…
パリン
パリーン
パリパリパリ…
パシーンッ
様々に薄く硬い物が剥がれ落ちる音がラップ音のように響き、その足元に煌めく粒となって降り落ちる。
「たぶん、お前が今まで口にしていた保存食や水なんかにいろいろ仕込まれていたんだろう。もちろん自然と魔毒を含んでいた物を食べていた可能性もあるが……ひょっとして、定期的に食い物を受け取ったりしていたのか?」
「あ…ああ……それも契約のひとつで……俺が『ラウナ国のことを忘れないよう、忘却の呪いを掛けられないよう』と言われて、各国にある冒険者ギルドに滞在の届け出をして三日後ぐらいに転送される保存食を受け取って、必ず二日に一度…敵につかまったり拷問されるようなことがあったら毎回の食事に混ぜて食えば、敵に気付かれずにその場を脱出できる力を得られるって……」
「……それはたぶん、『自害の呪』だ。薄い毒と併用しているみたいだな。二日に一度なら、徐々に筋力が落ちたり、少し風邪のような『ちょっと環境が変わって体調が悪いな?』と油断しているうちに寝込む。連続して食えば自分で服毒したとは思われず、相手が食事に何か毒を混ぜたと思わせられる。巧妙だ」
まさかそこまでのことをされているとは思わなかったのだろう──バディアスは愕然とした顔をシロンに向けた。
「お前は自分が疎まれても、自国の者たちにそこまで手が回っているとは思いたくなかったんだろう……でなければ、たとえ『契約』とはいえ、あまり良く思っていない故国との繋がりを断つ方法を探さなかったはずはない」
またうっすらと涙を浮かべているのに気がついていないのか、バディアスは細かく身体を震わせながら、シロンを見たままその言葉を黙って聞いている。
「薄くて良かった。かなり深くまで毒や呪で犯されていたら、たった一杯の水でほぼ解呪は難しかったはずだ。おそらく自分の国にいる間に殺すわけにはいかないとその手段を取れなかったはずだから、こうやって他国に行く時が狙い目だったんだろうな」
「ハ……ハハ……」
ボタボタと今度こそ大粒の涙を流して、バディアスは嫌な笑いを浮かべた。
「ハハハハハ………マジで……嫌になるな……それは、あっちも同じ…か……消えてほしいと思っているとは思っていたが……まさかな……お父様の目の届かない場所で野垂れ死にしてくれればってことかよ……」
「古代魔術を解呪できる者は、きっとラウナ国以外で探すのは難しいと踏んでだろうな。ここに『知らなくても解呪と解毒できる手段』を持っている者がいるとも思わずにな。いいんだぞ?思いっきり恩に着ても」
シロンはシロンでわざと人の悪い笑みを浮かべて見せると、バディアスはキョトンと気の抜けた表情をしてから、まるで子供が救いを見つけたような泣き笑いを浮かべて、ドサリと床に崩れ落ちた。
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