聖女の行進

行枝ローザ

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「幸せだ」と告げられるのは幸せ

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ロメリアは話についていけない姉の手を取り、綺麗に手入れされた美しい指をジッと見つめた。
「……お姉様の指には美しい糸が幾本も巻かれています。その中でも強い光を持つ、とても繋がりの強い太い糸があります。その先におられるのが、我が義兄であるクレディネア様です」
「まあ……」
「その太い糸は誰にでもあるわけではないのです」
「……どういうこと?」
ロメリアの言葉にうっとりしていたリーニャは、続く言葉にまたキョトンとする。
「色は違いますが、ホムラとアディー…私の新しい専属従者となった者ですが、そのふたりにも太い糸があります。私はまだ未熟者なので身近な者しかその糸を見ることができませんが、その糸が切れていたり、元々ない者もいるのです」
「その場合は……どうなるの?」
「その場合は、残念ながら『つがい』といわれる相手とは巡り合いません。番は互いに幸せを産み、知性を高め、満たされた生涯を送ります。そういう人生ではなく、別の『そこそこ幸せな人生』をまあそれなりに相性の合う相手と送るか、まったく間違った相手を選ぶことになる…もしくはひとりで過ごすのです」
「どうにかして、みんなにその『番』という人を見つけてあげることはできないの?」
優しい姉。
慈しむ心を持つ姉。
皆に幸せを分け与えたい姉。
ロメリアはそんな姉が大好きだ。
「いえ。それはその人がそういう人生を送ると決められているのです。無理やり見つけることはできません。また、同じ時代に産まれていたとしても、必ずしも出会えるとは限らないんです。違う国に産まれていたりするから」
「そうなのね」
「ええ。でも、今のところ私の周りにいる『番』を持つ者は、皆そのすぐそばにお相手がいるんです。ちなみにホムラとアディーのふたりの糸は優しい青みがかった赤なのですが、とてもうっとりする色なんです。とても優しい夫婦となるでしょう。そんな幸せな色を見れるから、私はとても幸せなのですよ」
「まあ……では、私たちの色は?」
「ふふ……お姉様とクレディネア様は桃色がかった金色ですわ。高貴で、優しくて、おふたりにふさわしい」
穏やかに微笑み合う姉妹を、ルツルカもまた笑ってみている。



リミウカ・デュラ・ファブラン嬢は、王城の中の貴族女性専用の牢の中で震えていた。
すぐに父が駆けつけ、この不衛生な場所からすぐに出してもらえると思っていたのに、一晩経ち、二晩が過ぎても迎えに来ないのである。
「なぜ……どうして……お父様……私、言われた通りにしたのに……あの聖女のせいよ……何であんな犬のために、私がこんな場所に入れられるのよ……」
リミウカが逆恨みする『あんな犬』とは、正しくはヴィヴィニーア王子の聖獣であるためにめったなことでは死なないのだが、そんなことを王族でもなく王の直属の臣下でもないリミウカが知ることはない。

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